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マニラKTV悲話 その㉜ 洗濯屋さん [小説]

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こうして、その日も終わったが、次の日は日曜日で、優二は休日である。
思えば、激動の一週間であった。
暗黒喫茶から始まり、ジュリアに浮気がばれて、彼女を失った。
その後、岩崎の着任が有り、優二は私生活でも振り回されている。
このところ、彼にとって、気の休まる日々は、無かったと言っていい。

(この辺で、心の洗濯でもしなければ、死んでしまうかもな・・・)
優二は、そう思った途端、実際に自分の下着などの洗濯物が溜まっていたのを思い出し、彼は、行
きつけのランドリーの店に行くことにした。
この店は、日本人が経営していると聞いていたが、彼はまだ、一度もその経営者を見たことがない。
ところがである。

彼がその店に行くと、丁度その経営者らしき日本人が、受付に座っていた。
『ああ、いらっしゃい。』
その経営者らしき人物は、優二の顔を見ると、日本人だと察したのか、日本語で声を掛けてきた。
『あれ、もしかして、ここの経営者の方ですか?』
挨拶を返しながら、優二はそう尋ねる。

『ええ、そうなんですよ、Kenと云います、宜しくどうぞ。』
『Kenさんですか、僕は優二と云います、宜しくお願いします。』
優二は、思わず嬉しくなってそう言った。
何せ、会社と 『太虎』以外では、久しぶりに会う日本人だ。
優二は、思わず話し込んで仕舞った。

Kenが言うには、今日は、従業員二人が急に休んだらしく、オーナー自らが店番をしているそうだ。
彼も余程暇だったのか、優二にお茶まで出して、歓迎してくれた。
『ふ~む、ああ、なるほど・・・』
洗濯屋さんは、年の功で、中々の聞き上手である。
優二は、ついつい語ってしまったようだ。

『ムムム、ううん・・・』
Kenは、優二の話で、全てを覚ってしまった。
『そなたの悩みは、全てこの洗濯屋が承った・・・!』
変に、時代劇掛かった様な口調で、洗濯屋さんはそう言う。
『私に、いいアイデアがあるぞよ・・・』

『本当ですか?』
地獄に仏とは、こう云うことであろう。
暗闇に閉ざされていた優二の心に、その瞬間、少しだけ灯りがともった。
『で、そのアイデアとは・・・?』
優二は、せっつくように、洗濯屋さんにそう問う。

『いやあ、本当のことを言うと、アイデアというものでもないよ、俺は、あの店のグループの女マネ
ージャーを知っている、その人に、そのジュリアのことを聞いてあげようかと思ったのさ。』
『マジですか?、いやあ、助かります、是非お願いします。』
優二は、深々と、洗濯屋さんに頭を下げた。
『その代わり、この店をいつもご贔屓にね!』

洗濯屋さんは、ちゃっかりと、自分の店の宣伝も忘れない。
彼は、急に目を輝かせながら、洗濯屋さんに感謝して店を出た。
それから二日後のこと、洗濯屋さんから、優二に連絡が来た。
『ああ、やって来たね・・・』
『はい、何かわかりましたか?』

『うん、少しだけだけど、分かったことがある。』
『はい・・・』
『彼女は店を辞めたらしい、今は親戚の家にいるそうだ、何でも姉のカレンがそう決めたとか・・』
『はあ、そうでしたか・・・、何だかそんな気もしていました、では、もう諦めるしか無いですねえ・・・』
優二は、急に肩をがっくりと落としながら、そう言った。

『何を言ってるんだ君は・・・』
落ち込んでいる優二に向かって、洗濯屋さんは、声を荒げながらこう言う。
『君は、そのジュリアを本当に愛しているんだろう?、だったら、迷う必要は無いではないか?、さあ、
粗方の居所くらいは聞いてある、君は今直ぐ、彼女を探しに行き給え。』
洗濯屋さんの熱い言葉に、優二は思わず、『はい』と返事をした。


続く・・・
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