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マニラKTV悲話 その⑳ 新たな不安 [雑記帳]

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時計の針は、日曜日の午後10時を回っている。
結局、昨夜の飲み会は、午前様になった。
福支社長の吉本は、一次会で帰ったが、残った3人でKTVに行くことになったのだ。
一次会の飲み会は、コンドの近くにあ、る日本食レストランが立ち並ぶ一角で行われた。
その後、その近くにある、『珍獣の森』というKTVに、小牧が案内したのである。

日本を出発する前夜、あれ程優二のことを馬鹿にしていた小牧だが、彼とて例外ではなかった。
夜、退屈しのぎに、優二が嵌ったというKTVの見学に、行ってみることにしたのである。
(俺は、奴の二の舞いは御免だからな・・・)
そう思っていた小牧だが、その『珍獣の森』というKTVに入ってからその認識が覆(くつがえ)った。
(ほう、結構可愛い娘がいるなあ・・・)

そう思って、指名した娘がいけなかった。
小牧は、自然にその娘に嵌って行ったのである。
名前は、『アイリーン』
22歳で、独身ということだ。
小牧の案内でその店で飲んだ優二だが、彼は全然楽しめなかった。

ジュリアのことだけが、気に掛かっていたからである。
小牧は、皆にアイリーンを紹介し、リクエストをするように仲間に呼びかけた。
仕方がなく、優二は適当な娘を頼んだが、会話は少しもはかどらない。
好きな娘があってのKTVである。
どんな場末のKTVの娘でも、好きになれば通うものだ。

それはさて置き、話を元に戻そう。
気が付いてみれば、部屋の片付けをするのに、そんな時間になってしまっていた優二である。
優二は、遅い晩飯を食うべく、タクシーで『太虎』へと向かった。
岩崎に、突然に連れて来られた以前とは違い、優二はフィリピンについて、ネットで散々調べていた。
人間、何事にも興味を持てば、知識は広がるものだ。

フィリピン関連のブログも、沢山読んだ。
(大橋さんは元気かな・・・?)
彼も、ネット上では名物男である。
そう考える内に、優二は『太虎』に到着した。
『お、また来たの?』

大橋は、いつもの笑顔で優二を迎えてくれた。
店の中に入ると、優二は、両手では抱えきれないほどのお土産を、大橋に手渡す。
何しろ、以前の携帯電話盗難事件では、大橋には大変世話になったものだ。
『有難うよ!』
大橋は、それをそっけなく受け取りながらそう言った。

『ところで、南原さんは?』
優二は、それが気になっていたのである。
何しろ、ジュリアの真相究明を、彼に委託したのだから・・・
『奴なら、もう居ねえよ、何でも金が入ったから歯を治すとか言って、何処かの田舎に行ったよ。』
『そ、そうなんですか・・・?』

『何か、奴に用事があったの?』
『いえ、大したことはないんですが、少し頼み事をしたので・・・』
『ああ、奴に物を頼んだら駄目だよ、何もしやしないよ、あいつはいい加減だから・・・』
『ええ?、そうなんですか???』
『うん、頼んでお金を渡しても、何処かで飲んで終わりでさあね、まあ、無駄骨だったねえ・・・』

大橋は、取り付く島もないように、優二にそう言い放つ。
優二は、がっくりとしてそれを聞いていたが、それならそれで仕方が無い。
気を取り直して、飯を食うことにした。
『太虎定食は、有りますか?』
カウンターの上に掛かっている本日お勧めのメニューボードを見ながら、優二はそう大橋に聞いた。

優二の大好物の、ポテトサラダが付いてあると書いてあったので、それが食べたくなったのだ。
『うん、あるよ、おおい、太虎定食一丁!』
大橋が、大きな声で厨房に向けて声を掛けた。
そうして、次々と料理が運ばれてきたが、何故かポテトサラダがない。
代わりに、ひじきの煮付けが付いて来た。

『あのう~』
優二が、言い難そうに大橋にこう尋ねた。
『ポテトサラダは、付いていないのですか?』
大橋はそれを聞くと、立ち上がってこう宣言した。
『ポテトサラダは、明日になります!』

そう言い捨てると、優二が呆気(あっけ)に取られている内に、大橋は厨房の奥へと消えていった。
(意味が分からないが、まあ仕方が無い、ポテトサラダは明日にしよう・・・)
そう思い直し、ビールを1本頼んだ彼は、定食を平らげながらそれを飲んでいた。
その時である。
店の奥の席が、盛り上がっているのに気が付いた。

優二が振り返ってみると、何処かで見覚えのある男が、女の娘数人を連れて酒を飲んでいる。
『あ、あれは・・・』
(確か、ジュリアを連れて、お店に入って来た男だ。)
(何故、あいつがこんな所に・・・)
優二は、新たな胸騒ぎを、覚えるのであった・・・


続く・・・
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