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マニラKTV悲話 その⑭ 嵐の予感・・・ [小説]

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勿論、彼女は悪気があって遅れたわけではない。
立場上、あくまでも、昨夜の彼女の仕事上のやむを得ない都合で、遅れてしまったのである。
一方、優二はどうなったのか?
実は、彼は5時近くまでは待ち続けていた。
彼女が来ないなどとは、優二には、どうしても考えられなかったからである。

5時前になり、彼は待つのを諦めた。
事情を知るために、連絡を取ろうにも、取れないことにも苛立っていた。
携帯電話を盗まれていたこともあり、ジュリアの電話番号を、聞き出していなかったからである。
(多分、何らかの事情があって来れなくなったに違いない・・・)
優二は、そう思い込むほかはなかった。

(後で、店へ行って確かめるしか無いな・・・)
優二はそう思い直し、一人寂しく飯を食うべく、『太虎』へ向かうことにした。
さて、場面をジュリアに戻そう。
優二を探した彼女だが、見付からないのでアパートに帰ろうとした時、ある男に声を掛けられた。
振り返ると、そこに立っていたのは、昨夜テキーラを飲ませてくれたお客さんである。

彼の名は、確か野口と言った。
『おっ、ジュリアじゃあないか、一体何処に行くの?』
流暢なタガログ語で、彼はそう聞く。
昨夜出会った時よりも、些か若い感じがした彼に向かって、ジュリアはこう答えた。
『いいえ別に・・・、少し買い物しようとしただけです。』

彼女にだって、配慮は有る。
他のお客との同伴の約束をしていたことなど、おくびにも出す筈がない。
『じゃあ、これから一緒に食事でもしないか? 良かったらお姉さんも呼んだらいい、勿論、同伴でも
構わないよ。』
ジュリアは、優二に対して、特別な思い入れなどはまだ無かった。

デートに遅れたことに対しても、先程述べたように罪悪感も殆ど無い。
まだ、姉のカレンのことを、気に掛けていたくらいである。
ジュリアの寝坊のせいで、同伴が成立しなかったことに対して、姉の怒りに触れるほうが余程怖い。
野口の誘いは、ジュリアにとって、渡りに船であった。
二つ返事で、野口の誘いに乗ったジュリアである。

ジュリア達が働いているお店は、その系列店で食事をすると、午後9時までの入店が許されていた。
カレンと合流した3人は先ず、野口の提案で、SPA に行くことになった。
ジュリアにとっては、初SPAであった。
『川忠』いうSPAには大きな浴槽やサウナが有り、ゆったりと寛げた上、酒気などすっかりと抜けた気
分にさせてくれたので、ジュリアは、すっかりここが気に入ってしまった。

そのころ優二は、『太虎』で簡単に食事を済まし、ジュリア達が所属している『U店』に向かっていた。
早くジュリアに事情を聞きたくて、気もそぞろな優二である。
到着すると、直ぐに席に案内された優二だが、横に座ったのは、残念ながらジュリアではなかった。
昨夜もヘルプで席に着いて、優二に同伴のやり方を教えてくれたジーナである。
彼女は、席に付きながら優二に尋ねた。

『あら、今日はジュリアと同伴じゃあ無かったの?』
『う、うんそれが・・・』
優二は、言い難そうに、ジーナに事情を話した。
『ああ、そう言えば、彼女昨夜は相当酔っ払っていたわね。』
『ええ、そうなんだ?』

『そう貴方が帰った後、彼女を指名したお客さんが、テキーラを1本飲ませてたわよ。』
『・・・・・・・』
『カレンと二人でそれを飲んでいたわ、多分今日はそれで気分が悪くて、休むんじゃ無いかしら・・・』
ジーナの言葉に半信半疑だった優二だが、8時半を回っても、ジュリアは姿を現さなかった。
『もし来なかったら、私を指名してよね。』

そう言って先程席を後にしたジーナを、優二は仕方なく指名することにした。
自分のことを分かってくれそうな彼女と、話をしたくなったのである。
ジーナは21歳で、子供が一人いるらしい。
お互いの話を進める中で、優二は一生懸命にジュリアへの愛をジーナに語った。
丁度その時、野口がジュリアとカレンを連れて、店に入って来たのである。


続く・・・
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