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マニラKTV悲話 その⑩ 詐欺師トニー [小説]

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『今日は、私の子供の誕生日なんですよ。』
『ああ,そうなんですか?』
自分のホテルのガードマンと聞いて、すっかり心を許してしまった優二であった。
『私、子供にプレゼントを買いたい、でもお金が足りない、あなた少し助けてくれますか?』
『ええ、いいですよ。』

優二は、自分のポケットの財布を覗きこんだ。
千ペソ札が数枚と、後は50ペソ札と20ペソ札だけである。
500ペソ札と100ペソ札は生憎と無かった。
(一体、いくら上げればいいのかな・・・)
そう思った優二だが、20ペソや50ペソでは悪いと思い、思い切って千ペソ札を差し出した。

『お願い、もう一枚!』
その男の一声で、優二は反射的に、もう一枚千ペソ札を与えてしまった。
『ありがとね~』
その男は、満面の笑みを浮かべ、何処かへ消えていく・・・
優二は、多く与え過ぎたなとは思ったが、騙されたとは気付かなかった。

そのモールで、ジュリアへのプレゼントの買い物を済ませ、ホテルで休んだ後、太虎に行きその話を
すると、大橋にこっぴどく叱られた。
『そいつは、有名な詐欺師のトニーって言うんだよ、あ~あ、携帯は盗られるし詐欺師にはやられるし、
本当に気を付けないと、マニラでは大変だぜ・・・』
優二はもう、冷や汗のかきっぱなしである。

そう言えば、先程のトニーという男、よくよく考えると孫が数人いてもおかしくない年格好だった。
あの年齢の子供なら、恐らく40歳近いのでは無いだろうか?
それなのに、子供の誕生日プレゼント???
考えてみれば、分かりそうなものである。
大橋が言うには、もう何年も前から、ずっと同じ手口なのだそうだ。

まあ、大金を騙されたわけではない。
ほんの寸借詐欺に、遭っただけである。
優二は、これも諦めるしか無かった。
しょんぼりとしながら、大橋自慢の『女が釣れるカツ丼』を食べていると、そこに南原が入って来た。
優二は、彼はここの店のスタッフだと思っていたのだが、大橋は違うと否定した。

単に出入りしているだけで、客の馬券を買いに行ったり、混雑時に店の手伝いをしながら、小遣いを
貰い、それで生活をしているのだそうだ。
体(てい)の良い、便利屋というところであろう。
『あらら、福田さん、今日もKTVに出勤ですか?』
『は、はい。』

優二は、そう答えた。
『では、今日も一緒に行きましょうか!?』
『今日は、一人で行けますから大丈夫です。』
優二は、本当はそう言いたかった。
が、南原に先手を取られた格好になったので、思わず、『では、お願いします』と応えてしまった。

実は、今日は二人きりになりたかったのである。
プレゼントも渡したいし、何よりも南原が指名した女の娘に、何もかも知られてしまうのが嫌であった。
その時である。
『南原よ、もう付いて行くのは止めておけ、福田さんも一人で行けるだろうからよお、それにここマニラ
で生きていくためには、何もかも一人で出来ねえといけねえんだよ。』

大橋は、優二の顔色を察したのか、そう言ってくれたのだろうが、別に優二はここで生きて行くつもりは
毛頭ない。
強いて言えば、大橋の感であろうか?
もしかしたら、優二が何れ、ここマニラで暮らすような、予感がしたのかも知れない。
ともあれ優二は、大橋のお陰で、一人で店に出掛けることが出来たのである。


続く・・・


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