マニラKTV悲話 その㉙ 自殺未遂・・・ [小説]
部屋の中に入って行った優二は、そこに居たジュリアを発見した。
泣きながら、コンドームの数を数えていた彼女をである。
『ど、どうしたのジュリア・・・』
異様な雰囲気に、一気に包まれた優二は、辛うじてそれだけを言った。
『それを、聞きたいの・・・?』
地獄の底から出てくるような低い声で、ジュリアが優二にそう尋ねる・・・
彼は、その恐ろしい声にどぎまぎしながらも、こう聞かなければならい。
『な、何で、コンドームなんか数えてるんだ・・・?』
恐る恐る聞いたが、ジュリアの表情は、益々鬼のような様相になり、優二をキッと睨みつけた。
『私、知っているのよ・・・』
ジュリアが、更に恐ろしさを増した声で言う。
『・・・・・・・』
『あなた、私の他に女を連れ込んだわね・・・』
『うっ・・・?』
『しらばっくれても無駄よ、隣に住んでいる人に聞いたんだから・・・』
『そ、それは・・・』
優二は、何とか言い訳しようとしたが、急場で言葉にならない。
『コンドームが、5個足りないわね・・・』
『ああ・・・・・』
優二は、その言葉で、全てを察した。
(こいつは、全てを知っている・・・)
そう思ったが、全てが後の祭だ。
それからは、当然のように修羅場であった。
その辺の物を、ひっくり返すようにして、ジュリアがありとあらゆるものを、優二に投げつけた。
必死で、それを耐える優二・・・
しかし、一旦火のついた状態のジュリアの怒りは、そんなもので納まる気配はない。
いくら、優二が宥めても、ジュリアはキチガイのようになって、優二の頬を打ち続ける。
何せ、自分の処女を奪った愛しい男が、そんなに日も経たない内に、自分を裏切ったのだ。
ジュリアは、本当に優二を、心から愛していたのである。
あの、厳しいけど本当は優しい姉を、裏切ってまで・・・
暫くの間、ジュリアは優二を打ち続けていたが、、その内、泣きながら部屋を出て行った。
優二は、追い掛けようとしたが、修羅場を外に持ち出しそうな気がして、行くのをやめて仕舞った。
(どうせ追い掛けても、直ぐに仲直り出来るわけが無い・・・)
自分の中で、優二はそう言い訳をしていた。
優二が、ここで追い掛けていれば、後の事態は、防げたのかも知れないのにだ。
だが、彼はそれを怠った。
ジュリアのことよりも、体裁(ていさい)の方を優先させたからである。
その夜、突然、優二にカレンから電話が来た。
電話の向こうで、カレンは慌てている様子である。
『兎に角、今直ぐ来て頂戴、病院の名前は◯◯◯・・・』
あまり聞き取れなかったが、カレンの話では、ジュリアが病院に運ばれたらしい。
理由は、現在(いま)のカレンも知らないという。
優二は驚いて、その病院に向かうべく、急いで部屋を出た。
丁度その時、隣に住むエミリーを見掛けたが、今はそれどころではない。
優二は、タクシーを飛ばして、病院へ向かった。
病院に到着し、病室へ入ると、カレンが心配そうにジュリアの寝顔を見つめているのが目に入った。
優二も、青い顔をしながら、ジュリアの顔を覗き込む。
どうやら、彼女は昏睡状態らしい。
『あなた、何か知ってるんでしょう?』
カレンが、冷静な声で優二を問い詰める。
『ジュ、ジュリアは一体・・・?』
『彼女は、自殺しようとしたのよ・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『私の持病の薬を、一瓶丸々飲んだんだわ・・・』
カレンは、そう言うと、表情を一変させて、思い切り優二を睨みつけた。
続く・・・