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マニラKTV悲話 その⑲ コンド [小説]

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『な、何で、俺がぶ、部長と同じコンドなんだよ?』
優二は、今にも食って掛からんばかりの勢いで、小牧にそう詰め寄った。
『仕方が無いよ、部長命令だからさ・・・』
『部長命令・・・???』
優二には、何がなんだか分からない。

ここは、小牧に変わって、著者が説明しておこう。
副支社長の吉本と支社長の岩崎は、元々仲が良くない。
まあ、謹厳実直な吉本と、一見豪放磊落、実は結構だらしのない岩崎と、反りが合う筈がなかった。
事ある毎に半目までとは行かないが、お互いが、嫌っていたのは間違いない。
今度のコンド探しでも、そういう理由で、岩崎から小牧に指示があったらしい。

吉本と別のコンドを探すように言われた小牧は、岩崎に、実は優二も別のコンドを望んでいると、岩崎
に告げて仕舞った。
そこで、岩崎は、小牧にこう告げたのである。
『ああ、それは好都合じゃないか、じゃあ、福田くんと同じ住居でいいよ。』
と、つまり、そういう理由なのだ。

これには、優二は逆らえない。
部長が決定した事項なのである。
ぐうの音も出なくなった優二は、少し開き直って小牧にこう言った。
『分かったよ、分かったから、さあ、俺をそのコンドに案内してくれ・・・』
小牧に案内されたそのコンドは、パサイという地名に有った。

マラテ近辺が希望ということで有ったが、不自然に会社から遠すぎるし、安全面でも不安がある。
そこで小牧の選んだのが、ハリソンプラザというモールの近くにあるコンドであった。
だが、実際ここからマカティに通うには、渋滞は避けて通れない。
しかし、その事を、岩崎も優二も全く知らないのだ。
コンドを探した小牧でさえ、その事実を知らなかった。

日系ではない、地元の不動産屋に頼んだ結果がこれである。
それは、まだいい。
後々、分かることであった。
ともあれ二人は、引き続きチャーターしてあるバンに乗り込むと、そのコンドに向かったのである。
優二は、比較的広めの、ワンルームタイプの部屋に案内された。

吉本たちの部屋に比べても、格段と言っていいほど広い。
小牧の説明によると、家賃の違いだそうである。
まあ、土地の価格が違うのであろう。
その点、優二は一発で気に入ってしまった。
狭いのが、苦手な性質(たち)だったからである。

優二を送った後、小牧は自分のコンドへと帰っていった。
優二には、これからやることがゴマンと有ったのである。
既に送られてきていた荷物の整理、足りない物の買い出し、そうそう、携帯電話もこちら用のを買わ
ねばならない。
以前は、これが無かったばっかりに、苦労をした。

日本で使っていた携帯は、国際ローミングで使えはするが、やはり、通話料に問題が有り、こちらで、
買うのが一番使い良いはずだ。
それはさて置き、今日の夜は、マカティで吉本達との食事会が入っている。
まあ、軽い壮行会のようなものであろう。
それまでの短い間、優二は部屋の片付けに追われた。

が、中々思うようにははかどらない。
(この分じゃ、店に行けるのは月曜日の夜かもな・・・)
優二は、そう思えてきた。
明日は、朝から買い出しに追われるであろう。
(まあ、ここまで来てるんだ、焦ることもなかろう・・・)

そうは思いはしたものの、やはり、ジュリアに早く会いたい優二ではある。
しかし、会社の業務に支障が出るのだけは、何とか避けなければならない。
その為に、明日中に片付けを終えないといけないのは、優二にも分かっていた。
彼には、たったそれだけ、まだ理性が残っていたと言えよう。
優二の、眠れない夜は、まだまだ続くようである。


続く・・・





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