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マニラKTV悲話 その⑮ 失恋・・・ [小説]

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ジュリアと優二は、お互いに目が合ってしまった。
何も知らずに、悠然と優二たちの席を通り過ぎて、奥の席に向かう野口・・・
優二とジュリア・・・
二人の胸に、去来するものは一体何か・・・
(何故、ジュリアが他の男とこんな時間に・・・)

優二の心の中は、嵐の海のように、疑惑と嫉妬で揺れまくっていた。
最早、彼は死者ではない。
恋する男から、嫉妬に狂う男に、たちまち変身してしまっていたのである。
それを見ていたジーナは、心の中でほくそ笑んでいた。
上手く行けば、優二をジュリアから取り込めるかもしれない。

KTVの中は、いかに綺麗事を並べようが、女達の戦場なのだ。
お金を使ってくれそうなお客は、虎視眈々と狙われる運命である。
さて、一方のジュリアは、優二に顔を背けるようにして、そのままドレッシングルームへと消えていった。
彼女には、罪悪感など、全くと言って良いほど無い。
(自分は、仕事をしているのだから・・・)

事情は説明していないにしろ、それを理解出来なければ、それは男のほうが悪いのだ。
そう考えていたし、第一、彼女は優二がそういう気持ちでいることなど、夢にも思って居ない。
現に、自分以外の女の娘を指名して楽しんで居るではないか・・・
ジュリアには、単にそう思えただけなのである。
一方の優二は・・・

(自分との同伴よりも、他の男の同伴を優先させたのか・・・)
そう考えると、彼は心が千切れるくらいに痛い。
論より証拠で、現に二人は同時に店に入って来たではないか・・・
ジーナは、この状況を察すると、何とか優二の気を引こうと躍起になっていた。
しかし、優二の反応は、彼女の方には全く向いて来ない。

逆に、鬱陶しかっただけである。
優二は、真相を何とかして知りたかった。
ここで、本来なら、自分のアピールよりも、ここはジーナが間を取り持つべきであろう。
ジュリアと話をして、真実を優二に伝えれば済む話である。
が、彼女は、積極的にそれを怠った。

別に、ジーナとジュリアとは親友の仲ではない。
KTV嬢の世界では、親友同士の結束は固いが、単なる同僚だけでは、ほぼ敵同士と行って良い。
敵というのは大げさかもしれないが、まあ、ライバルには違いなかろう。
繰り返すが、そこは彼女達にとって、生きるために真剣な職場なのだ。
店によっては、競争心を煽るため、指名の多さ順に、ランク付けを行っている所も珍しくもない。

一方、そこへ通う男達はどうなのか?
そういう彼女達に、モテたいが為に、そこに行くのである。
あわよくば、口説いてホテルやコンドへ連れて帰りたい。
下心満載で、臨む場所なのである。
優二のように、相手の仕事を純愛と勘違いした男が、一番不幸になる場所と云えよう。

さて、下心満載のお客はどうなるのか?
男の予算と女の打算が一致すれば、恋愛が成立するであろう。
一夜限りであろうが、囲うのであろうが、女の打算がそれを許せば、後は男の予算次第である。
最も、全ての女性に、これが当て嵌まる訳ではない。
身の固い女の娘も、沢山存在するのも事実だ。

その固さも、時間を掛ければ、柔らかくはなる女性も中には居よう。
そうやって、打算を引き出すのも、男のテクニックと言うものかも知れない。
ともあれ、優二には、そこまでの知識と余裕というものは無かった。
只、真っ直ぐに、ジュリアを見ていただけなのである。
そうこうする内に、彼は、次第にこの場に居たたまれなくなって来た。

疑惑と嫉妬が激しく嵩じて来て、自分を抑えるのが困難になっていたのである。
このままで居れば、気が狂いそうだった。
優二は、ジーナが引き止めるのを振り払うようにして、急いで精算を済ませると、逃げるようにして、
ホテルへと戻って行った。
暗い、小雨の降り続く夜の中を・・・


続く・・・


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