SSブログ

マニラKTV悲話 その⑰ 海外赴任 [小説]

eyes0838.jpg

優二が、旅行代理店に相談に出かけようとした』その当日、優二たちの会社に、フィリピン支社が出来
るという話が、突然持ち上がって来た。
部長クラスでは、岩崎が移動との噂が有力になっている。
経理畑出身だが、彼が支社長として赴任して行くと言うのだ。
次期役員候補筆頭の彼としては、海外の支社長赴任はその手前の恒例人事に過ぎない。

(だから、岩崎部長が、自分は近々又フィリピンに行くかも知れないと、匂わせていたのか・・・)
優二は、その時初めて合点がいった。
岩崎は、予め社内にそういう動きが有ることに、気付いていたのである。
恐らく、常務あたりに、内示を受けていたものと思われた。
こういう場合、役員会で決定すると、矢のような人事が発表される。

赴任候補としては、他に、営業部や総務部からも係長クラスが行くし、経理部では当然英語の出来る
優二が筆頭であった。
その話が明るみに出たので、優二は当然のように、旅行代理店に相談に行くのを延期した。
事がはっきりするまでは、動くべきではないと判断をしたのだ。
それから、僅か3日後・・・

(信じられないな・・・)
もう、心が宙に浮くぐらい、優二の心は喜びで踊っていた。
予想通り岩崎が、経理担当人事で、優二を指名したのだ。
優二にとっては、望んでも望み切れない程の、夢が叶った格好である。
(これで、無理をしてまでも、フィリピンに行く必要が無くなった・・・)

単純に喜んだ優二だが、初渡比をする前なら、格下げに感じられるフィリピン赴任など、悲しいの一言
だったかも知れない。
どうせ海外支社に行くのなら、シンガポールやタイに、赴任したいと思っていた優二である。
が、今やフィリピンは、優二にとって、喉から手が出るほどに行きたい場所になっていた。
人間の喜怒哀楽など、ほんの運命の悪戯(いたずら)で、ころころと変わるものらしい。

さて、12月1日の赴任日まで、あとまだ3週間はあった。
そこで、総務部からは、優二と同期の小牧が、先行してフィリピン入りをすることになったのである。
支社が置かれるのは、ビジネス街のマカティというところに決まっていたが、小牧の役割は、駐在員の
住居を探したりすることである。
優二と違い、彼にとって、この人事ほど恨めしいものは無かった。

その話は後回しにして、残りの赴任組は、その間に国内のことを整理しないといけない。
海外赴任は、会社の規定で最低2年間と決められていた。
そうなると、優二は、今住んでいるアパートも、引き払わなければならないであろう。
不動産屋への連絡、電気やガスや水道、新聞等の後始末、不要品の整理及びにフィリピンに送る物
の準備等に、追われなければならない。

そういった忙しさの合間に、優二、は出発前夜の小牧と一緒に、外へ食事に出掛けた。
小牧は、妻帯者である。
二人目の子供が生まれたばかりで、会った途端に愚痴が始まった。
家族と一緒に赴任なら良いのだが、優二の会社では、3年以上の赴任で無い限り、家族を連れての
赴任は認められなかったのである。

『これほど、ツイてない人事もないよ・・・、折角二人目の子供が生まれたばかりだというのに・・・』
小牧の愚痴をしこたま聞かされた優二であったが、一方で、彼は喜びを隠しきれなかった。
終始笑顔で、小牧の不満を聞くものだから、小牧にはそれが面白くない。
『何かお前、本当に嬉しそうだな・・・』
そう言われた優二は、次のように言った。

『まあまあ、俺のことはいいじゃないか、しかしさあ、海外赴任は出世の前提だし、お前もこれを、チャ
ンスだと思えばいいんだよ。』
優二は、小牧を宥めるように言ったつもりだが、小牧は余計に反発してこう言った。
『お前は独身だからいいさ、俺には妻子がいる、しかも生まれたばかりの娘がもう可愛くてなあ・・・』
小牧は、もう泣かんばかりの落ち込みようである。

『お前の気持ちはよく分かるよ、でもこれも会社命令だ、仕方が無いさ・・・』
散々、あやすように、小牧を慰める優二だが、彼は如何にも無念げに、ビールを空けるばかりである。
納得しない小牧だったが、、優二は、彼にに自分の事情を説明しなくてはならない。
でないと、今日、小牧をここに呼び出した意味が無いのだ。
優二は、思い切ってこう小牧に切り出した。

『そう落ち込むなよ、ところでな、お前に折り入って頼みが有るんだが・・・』
優二は、全てを打ち明けた。
話の都合上、岩崎の秘密まで、小牧に漏らしてしまった優二である。
話を聞いて驚いている小牧に向かって、優二はさらにこう言った。
『俺の住居だがなあ、その店の近くにどうにかならないか?』


続く・・・



nice!(0)  コメント(18) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。