SSブログ

マニラKTV悲話 その⑯ 帰国・・・ [小説]

kikokushijo.jpg

優二は、ホテルには帰ったが、心の中にポッカリと穴が開いたようで、虚しくてならなかった。
恋愛経験が豊富だと、立ち直るのも早いのであろうが、生憎と、優二にはそれが無いに等しい。
悶々と眠れない夜を過ごしたが、朝になってから、部長の岩崎にとどめを刺されて仕舞った。
電話で起こされた後、彼は部屋に呼ばれたのである。
部長は、優二の顔を見ると、早速こう切り出した。

『君、もう俺のここでの用事は済んだ、そこでだ、今日の宿泊はキャンセルして、午後便で日本に帰国
することにしたからその積りでな・・・』
『・・・・・・・』
『何を黙りこんでいるのかね?、分かったら部屋に帰って、とっとと帰り支度をし給え・・・』
部長の言葉は、一方的だった。

多分、昨日優二に袖にされたので、ご機嫌が悪いようである。
ジュリアには振られ?、部長の機嫌を損ねてしまった優二は、もう何も為す術はなかった。
実は、もう一度今晩店を訪れ、ジュリアに事の真相を確かめたかったのである。
でないと、本当に中途半端な気持ちを抱えたまま、帰国することになる。
しかし、本当に何もかも遅かった。

せめてこの気持を、『太虎』の大橋だけには分かって貰おうと店に出向いたが、彼は居なかった。
が、南原は居たので、簡単に事情を説明をしてそこを出た優二である。
彼なら、もう一度あの店に行き、ジュリアに事情を説明してくれるかもしれない。
そう期待して、一万円の軍資金を、南原に渡してしまった優二であったが、南原は、『はいよ』と言って
そのお金を受け取ったものの、彼は何もする気は無かった。

何も知らない優二は、日本への帰国の途に就いたが、不機嫌な岩崎の機嫌を取るのに、それからが
大変だったのである。
サラリーマンの悲しさ・・・
優二とて、朴念仁ではない。
既に、現実に戻っていた彼は、ここで岩崎に目を付けられたら、日本での仕事上で大きな支障になる。

それくらいの道理と結果が、分からぬ優二ではなかった。
積極的に、岩崎のアンティポロでの話を聞く内に、彼の心もようやくほぐれて来たようだ。
ポツポツと話し始めたが、まあ彼の話だと、子供は、岩崎本人の子供だと認めさせられたらしい。
その上で、養育費だが、毎月10万円を送ることで話がつき、子供が生まれたら、再び渡比することも
約束させられたよと、優二に語る岩崎である。

『でもなあ君、別に出産後でなくても、俺は、近々又戻ってくるような気がするよ・・』
何故か、岩崎は謎めいた発言をしたが、優二は、この時は気にも止めなかった。
それはともあれ、岩崎は置いといて、優二の初渡比とは、一体何だったんだろう?
たったの3泊4日だったが、思いがけぬ恋愛をしてしまった。
こんな気持になったのは、生まれて初めての経験である。

確か、中学時代に初恋はしたが、その時は片思いに終わった。
しかし、その時は、これ程の気持ちにはなっていない。
まあ、子供時代の恋愛というものは、春の淡雪のようなものであろう。
直ぐに溶けてなくなり、早く気持ちも切り替えられる。
だが今回のような、あんな中途半端な終わり方は、大人の彼には、悔やんでも悔やみきれなかった。

優二は、そう言う気持ちを抱えたまま、日本で仕事を続けなければならないのが辛かった。
(いつかはもう一度・・・)
優二がそう思い続けたのも、無理はあるまい。
しかし、年末までは、長期休暇などは、どうしても望めなかった。
(2~3泊程度なら、多少は行けるかも・・・)

そう思いはしたが、しかし、また中途半端で終わるのは、もう絶対に嫌だ。
帰国後2週間が経ったある日、優二は決断し、年末に、有給休暇を含めて、7泊8日という旅行プラン
を建てることにした。
これくらいあれば、今度はいろいろな意味で充分であろうし、岩崎という邪魔者も居ないはずである。
(よし、このプランを明日旅行代理店に持ち込んで、相談してみよう・・・)


続く・・・



nice!(0)  コメント(24) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。