マニラKTV悲話 その㉔ 初体験 [小説]
優二とジュリアは、ハリソンプラザで待ち合わせということになっている。
優二は徒歩で、ジュリアはジープで、初乗り運賃の距離であった。
ほぼ時間通りに現れたジュリアを見て、優二はどぎまぎしている。
思えば、前回の渡比時には、苦い思いをさせられた。
時間遅れの上、同伴を他の客に盗られるという、優二にとっては、大屈辱の日であった。
それから数回、デート(同伴)の度に、来るか来ないかと、やきもきさせられる優二であったのである。
こういうのを、トラウマというのであろうか?
傷ついた心の深さが、それを物語っていた。
さて、優二、ジュリアと手を繋ぐと、『何をする?』と、彼女に尋ねた。
『お腹が空いたわね、私、貴方の部屋で料理でも作ろうかしら・・・』
(か、家庭料理かあ・・・)
思わず、優二の心は踊った。
今までに彼女が殆どいなかった彼にとって、こんなことを言われたのは初めてである。
ということであれば、こんな所にグズグズしている場合ではない。
二人は、急いで買い物を済まそうと、スーパーマーケットに向かった。
『で、何を作ってくれるの?』
『アドボというフィリピン料理よ、食べたことがある?』
『いや、無いな、だって俺はいつも日本食ばかりだから・・・』
『だったら、今日が初めてね、分かったわ、じゃあ私が美味しいのを食べさせて上げる・・・』
『嬉しいな、有難う・・・』
優二は、素直に礼を言った。
現に、毎夕食はいつも『太虎』だし、昼間会社で頼む弁当も、日本食レストランからの仕出しである。
ジュリアとの同伴時も、食べるのはいつも、系列の日本食レストランであったのだ。
その方が、店に入る時間を、遅らす事が出来たからである。
二人は、買い物を済ますと、優二のコンドに戻った。
『わあ、広いわね・・・』
ジュリアは、部屋の中に入ると、第一声そう言い放った。
が、部屋の中の物といえば、大型テレビに、オーディオ機器などは充実していたが、台所用品に至
っては、相当に貧弱なものである。
彼は、元々自炊が苦手なのだ。
作れるものといえば、インスタントラーメンくらいしか無い。
後は、中型のフライパンが一つである。
セミ家具付きの部屋だったので、ソファやベッド冷蔵庫、エアコンの他は、自分で買い揃えなければ
ならなかったのだ。
ジュリアは、包丁やまな板は、前の住人が置いていったのが、辛うじて残っている。
必要な調味料は、先程買い揃えた。
ジュリアは、ラーメン鍋とフライパンでアドボを拵えることになる。
何とかこなして作ったが、肝心なものが無いことに二人は気が付いた。
ご飯が、無かったのである。
(ええい、一体何をやってんだ?)
作者は、もうイライラが募り、頭が爆発しそうである。
折角、サブタイトルに初体験と書いたのに、これでは、そこまで話が進まないではないか?
若しかしたら、フィリピン料理初体験と、作者はオチを考えたのであろうか?
何れにしても、姑息な小説を書く作者ではあった。
その時である。
優二が、作者に助け舟を出した。
そう言えば、インスタントのご飯を、荷物に入れていた筈だと思い出したと言うのだ。
これなら、お湯か電子レンジで温めれば、直ぐに食べられるではないか・・・
こうして、遅い昼食で有ったが、優二とジュリアは、仲良くご飯を食べることが出来たのであった。
さて、その後は・・・???
初体験2へ続く・・・(爆)