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マニラKTV悲話 その㉚ 破局 [小説]

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(げええ・・・・・・・)
優二は、心の底から驚いた。
正直、ジュリアが、そこまでするとは、考えても見なかった彼である。
カレンの表情は、更に厳しさを増すばかりだが、優二は、取り敢えず事情を訊かなくてはならない。
懇願に懇願を重ねた結果、やっとのことで、カレンは口を開いた。

カレンの話によると、ジュリアは自分達のアパートに帰ると、ベッドに入り込んで、シーツを頭から被
ったまま、泣きじゃくり始めたらしい。
カレンが、幾ら彼女を問い詰めても、泣くばかりで、ジュリアは何も答えようとしない。
妹に、何か有ったのだろうとは察したが、ジュリアは非番でもカレンには仕事があったので、彼女は、
ジュリアを暫く放って置いて、自分はシャワーをすることにした。

カレンがシャワーを終えると、ジュリアがカレンのアレルギーの薬瓶を握りしめたまま、ベッドに仰向
けに倒れている。
驚いたカレンは、ジュリアを抱き起こしたが、既に意識が朦朧としていた。
薬瓶の中身は、自分の持病の薬で、日本人の彼氏に特別に送って貰った、抗ヒスタミン剤である。
こんなものでも、大量に飲めば、命の危険に関わるものだ。

カレンは、急いで車を手配し、ジュリアを病院に運び込んだ。
病院に到着すると、医師は胃の洗浄を直ぐに行ったが、ジュリアの意識は消えたままだった。
その上で、カレンは優二を呼んだのである。
カレンは、この件について、優二が何らかの事情を知っていると、確信していた。
女が、真意はどうであれ、兎も角も自殺を図ったのだ。

原因は、男に決まっている。
となれば、原因は優二以外には思い付かない。
カレンに取っては、可愛い妹の一大事である。
カレンの、凄まじい追求が始まった。
これに、いつまでも耐え切れる優二ではない。

彼は、観念して、カレンに、正直に全てを打ち明けた。
優二からすべてを聞いたカレンは、深い溜息を付いている。
(だから、言わぬことではないのだ、自分が妹のことを守りたかったのは、ここにある・・・)
カレンは、妹を守りきれなかった責めを、優二によりも、自分に対して持っていた。

カレンは、それ以上、優二を責めなかったが、最後にこう言った。
『話は全部わかったわ、もういいからあなたは帰って頂戴、そしてもう2度と妹に近づかないで!』
『・・・・・・』
『今度近付いたら、私はその時こそ、貴方を許さないわよ!』
カレンは、そう脅すと、優二の背中を押し、彼を部屋の外に追い出したのである。

優二は、カレンに対し、取り付く島も、為す術(すべ)も無かった。
彼は、がっくりと肩を落としながら、愛する人の病室を出て行った。
そうして、せめて病院の支払いをと思い、病院の事務室を訪れた優二である。
その中で、医者とも話をし、ジュリアの様子を聞いた。

まあ、様子を見ながらだが、多分、3日も入院すれば、元通りになるであろうという診断である。
優二は、3日分の入院費も含め、10万ペソのデポジットもカードで入れた。
返金があれば、彼女達に渡して欲しい・・・
彼は、そう言い残し、病院を出た。
帰り際、優二はジュリアの病室の方へ目を向け、ふ~と深い溜息をついた。

これで、完全にジュリアを失ったのだ。
思えば、とんでも無い事をしてしまったものである。
(あの時、太虎にさえ行かなければ・・・)
とも悔やんだが、やはり自業自得なのだと、思い定めた優二である。
興味本位で付いて行ったものの、別に、アンナを買わなければ済んだ話だからだ。


優二は、この悩みを大橋にでも聞いて貰おうかとも思ったが、自らを恥じてそれは止めにした。
(こんな、無様な自分を、人に見せられる筈がない。)
そう思い直し、大人しく、コンドへ帰ることにした優二である。
彼は、晩飯も食わずに、タクシーに乗り込んだ。
月明かりが、妙に眩しく感じる夜であった・・・


続く・・・
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