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マニラKTV悲話 その⑫ おじゃま虫 [小説]

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初めてのデートと言っても、優二には土地監は無い。
従って、この地区でKTVの女の娘を誘うメッカであるロビンソンモールを、優二は必然的に選ばざるを
得なかった。
まあ、映画やショッピング程度なら、本当に手軽な場所である。
ジュリアも姉のカレンもこの近くに住んでいるらしいので、彼女達の希望でもあった。

少し慣れてくると、遊園地や水族館なども良いのであろうが、取り敢えずフィリピン初心者の優二には
、この辺りが妥当である。
この日も優二は、朝の9時半頃に目を覚ました。
日本では、考えられないような時間の起床である。
酒を余り嗜まない優二は、休日の前夜に深酒などをしたことがない。

だから、休日といえども、早寝早起きが彼の信条だったのだ。
それが、どうであろう。
比国に来ての、このザマは・・・
などとも、優二は考えなかった。
壊れかけてると迄は言わぬが、やはり自分を見失いつつあるのは間違いない。

フィリピーナに嵌る兆候としては、誰もが通る道なのかも知れないが、今の優二には、今日のジュリア
とのデートのことで、頭が一杯であった。
遅い朝食を取った後、優二は暇つぶしにモールへ出掛けることにした。
今日のデートの、下見でもをしようと考えたのである。
(そうだ、映画館では、何をやっているのかな?)

英語の映画なら、優二でもジュリアでも理解が出来る。
(そうだ、映画館へ行ってみよう。)
そう、優二は考えた。
しかし、部屋からロビーに出た所で、部長の岩崎に捕まった。
『おお、居たのか福田君。』

(しまった、ホテルに帰っていたのか・・・)
優二はそう思ったが、何くわぬ顔で、岩崎にこう言った。
『はい、部長こそ彼女の所でゆっくりされているのかと思いましたが、早いお帰りだったのですね。』
『そうなんだよ福田君、昨夜はローズの家に無理やり泊まらされたんだが、まあこれが狭い所でねえ
・・・、良くもこれだけの人数が寝られるなと思うくらいの小さい家で困ったよ。』

『・・・・・・・・・・・』
『おまけにトイレがねえ・・・君ぃ知ってるかい?ケツはバケツで水を汲んで自分の手で洗うんだぜ。』
『げえ、そうなんですか?』
『うんうん、君も一度でいいから経験して見給え。まあ、手動ウオシュレットだよ、ワハハハハハ・・・』
(冗談じゃないよ・・・)

優二はそう思ったが、近々、自分もそういう経験を否が応でもしなくてはならなくなる時が来ようとは、
この時はまだ知る由もない。
『で、もうローズさん達との話はついたんですか?』
そう聞いてから、優二は後悔した。
岩崎の顔が、話したくてウズウズしているのに気付いたのだ。

(これは長くなりそうだ、どうにかしてこの場を逃げなくては・・・)
『部長すみません、実はここフィリピンで、大学の同期の友人が働いているんです。昨夜連絡がついて
今日これから会う約束をしているのですが、これから行ってきてもいいですか?』
『そ、そうなのか・・・』
(自分に付き合うということで、出張扱いでここに来させているのに、勝手に約束なんぞしよって・・・)

岩崎はそう思ったが、もう約束してしまったのでは仕方が無い。
では、今晩はどうかと聞くと、多分夜まで友人に付き合いますという優二の言葉に、些かむっとした岩
崎だったが、最初は無理やり優二に頼み込んだことなど、すっかりと忘れてしまっている彼であった。
『ではまあ、好きにし給え・・・』
捨て台詞のようにそう言うと、彼は自分の部屋に向かうべく、エレベーターを登っていった。


続く・・・
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