マニラKTV悲話 その㉖ うぬぼれ・・・ [小説]
姉のカレンの目を気にしながらも、優二とジュリアの蜜月は、年を越してからも暫く続いた。
今回の正月は、赴任早々ということも有り、優二は日本には帰ってはいない。
半月遅れで赴任して来る筈だった部長の岩崎も、変更で、年明け過ぎてからの渡比になるようだ。
優二は、そういうことも有り、のんびりと駐比人生を謳歌している。
そんな中、嫉妬深いのは相変わらずだが、ジュリアは、見違えるほどに色気を増して来ていた。
カレンは、何かしら薄々感じてはいたものの、ジュリアと優二がそんなにも深い間柄になっていると
までは、気付いていない。
相変わらず、自分には従順な妹のままだと、心の底から信じていたからだ。
何せ、父親を早くなくし、遠く離れた母親代わりに、ずっと妹の面倒を見てきたカレンである。
『惚れるな、触らすな、やらすな』の、3つの教訓は、守り続けているものだと、信じて疑わなかった。
で、一方の優二は、どうであろう。
彼はその頃、ジュリアの元を訪れる回数を、大幅に減らしていた。
勿論、ジュリアとの合意の元にである。
節約の為といえば聞こえは良いが、彼もやはり男であった。
浮気心が芽生えたのである。
優二は、小牧の誘いで、あれから2、3度『珍獣の森』に行ったのだが、そこの女の娘達に、不思議に
モテる自分に気が付いた。
まあ、35歳で言葉が出来て顔がそこそこなら、獲物を探しているKTV嬢にモテるのは仕方が無い。
彼は、ジュリアとの密会を楽しむのと、違うKTVの女の娘にモーションを掛けられる内に、自信を超え
る感情を持つようになってしまった。
つまり、自惚れて来たのである。
ジュリアをものにして自信を付けた彼は、フィリピン嵌りのオヤジに有りがちな勘違いぶりを、発揮し
始めたと言うわけであった。
ジュリアの店に行くのは、週に2度か3度。
その他の日は、『珍獣の森』など、違う店に行くことも増えた優二である。
正月など、吉本や小牧達が帰国した後に、優二は、『珍獣の森』の女の娘とデートまでしていた。
特に口説くようなことはしていないのだが、自分の魅力を、試してみたくなったのである。
マカティの、ショッピング街でのデートであった。
まあ、ここならマラテからは離れているし、ジュリアにもばれないであろう。
この時の優二は、自分の魅力=金と若さとルックス という構図に気付いていない。
あくまでも、自分はモテると信じているのだ。
確かに、表面上ではそう見える。
が、しかし、それがフィリピーナの打算(見極め)に依るものなどとは、少しも思わなかった。
有頂天の優二には、そういうことなどは、見える筈も無かったのである。
兎も角、初パルパロを済ませた優二は、余計に自信を付けてしまったようだ。
ある夜の事、優二は久しぶりに、『太虎』で飯を食うことにした。
久しぶりと言ったのは、最近では、マカティ方面で飯を食うことも多い優二だったからだ。
『ああ、いい所に来たね、飯を食ったら、少し散歩に行かないか?』
店に入った途端、大橋が優二に声を掛けた。
『えっ、何処に行くんですか?』
優二は、少しどぎまぎしながらそう言った。
大橋からそういう提案を受けるのは、、初めてのことだったからである。
『その前に、この男を紹介するよ。』
彼は、一人の男を指差しながらそう言う。
指で差されたその男は、すっと立ち上がると、優二にこう挨拶をした。
『ああ、初めまして、大宮と云います。』
『又の名を、暗黒達磨太子だよな・・・』
大橋が、そう言った。
『そう言うアダ名を、この大将から付けられたんです、もし良かったら、これからその暗黒喫茶にパトロ
ールに一緒に行きませんか・・・?』
続く・・・