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マニラKTV悲話 その㊹ 修羅場 [小説]

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『私は、本当にあの人を愛していました。』
アイリーンは、優二に希望は?と聞かれたが、それには答えず、虚ろな表情でこう言った。
『あの人は、独身だと言ったし、いつかは、結婚も出来るとも言ったわ・・・』
彼女は、優二の眼を見ないまま、更に言葉を続ける・・・
『でも、それもこれも、みんな嘘だった・・・』

感情が昂ってきたのであろう。
そう言った途端、アイリーンの両目から、再び涙が溢れてきた。
昨夜に続いて、2度目である。
(可哀想に・・・、でも、これは、説得にもう少し時間が掛かるかもしれないな・・・)
兎に角、彼女が落ち着いて話を聞いてくれないことには、優二には為す術が無いのだ。

優二は、汚い話だが、ここはお金で解決するしか、無いと考えていた。
小牧に結婚の意志がない以上(当たり前だが)、可愛そうだが、中絶を勧めるか、産みたいのな
ら、生活費の面倒を小牧が見るというのが、一般的であると考えたのである。
が、彼女はその時、意外なことを言った。
『あの人は、今でも私のことを愛しているのかしら・・・?』

優二にとって、予想外な言葉である。
『あ、愛していたらどうなの?』
『私、あの人の愛人でいい、私は、あの人の子供を産んで育てたい・・・』
『・・・・・・・』
『今の私には、やっぱり彼を忘れることが出来ないわ・・・』

『ちょ、ちょっと待って、そ、それは本気で言ってるの?』
優二は、思わぬアイリーンの発言に、戸惑いを隠せなかった。
『ええ、本気よ、だからお願い、もう一度あの人の気持ちを確かめてきて、お願いします・・・』
アイリーンの顔は、決して、冗談を言っているような顔では無かった。
優二は、決断せざるを得ない。

ここは、一度引き下がるべきだと考えたのである。
(これからでも、小牧に相談してみよう・・・)
彼は、一旦その場を引き上げることにして、小牧のコンドに向かった。
小牧は、部屋に居た。
話を聞いた彼も、正直驚いている。

愛しているのかと聞かれたら、それはそれ、まだ未練は確かにあった。
勿論、身体だけかも知れないが・・・
(だとしても、今後も、このまま彼女と付き合って行くというのも、どうなのだろう・・・???)
小牧は、自分にとって、都合の良いシュミレーションを始めた。
(このまま、お腹が目立つようになるまでは店で働かせよう、その後はう~ん・・・・・)

考えを巡らせながら、引き続き、彼は、シュミレーションを重ねていく。
(それまでは、関係(勿論肉体)は続けられるな、産み月になったら、お金をやって、田舎にでも
帰そう、そこで子供を産めばいい、子供は、田舎で育てるのが一番だ、そうだ、その後、アイリ
ーンだけがここへ戻ってくればいいさ、働きながら、時々俺のもとに・・・)
やはり、こいつの根性はババである。

アイリーンの気持ちのことなど、少しも考えては居なかった。
『取り敢えず、アイリーンと、もう一度話し合ってみたらどうだ?、俺も付き合うよ・・・』
優二は、小牧が、そのようなことを考えているとも知らず、そう言った。
これは渡りに船だと、小牧が、二つ返事で承諾したのは、言うまでも無い。
気が付いてみると、時計の針は、既に午後7時を回っていた。

今頃は、彼女もお店に行っている頃であろう。
二人は、食事もせずに、彼女の店へと向かうことにした。
優二は、ジュリアを自分のコンドに、置いたままである。
二晩も連続で、帰りが遅くなることに、彼は、ジュリアの怒りを恐れていた。
(要らぬ疑いでも掛けられたら、大変だ・・・)

テキストで、会社の用事で少し帰宅が遅れるとだけ打っておいた。
が、彼女から、返事はなかった。
優二は、そのことで気にはなったが、小牧の手前、それでもアイリーンの元へ行くしか無い。
店へ着いた早々、二人はアイリーンを呼び出した。
アイリーンは、小牧の顔を見ても、何故か落ち着いている。

特に笑顔を見せなければ、愛想が悪いわけでもない。
『お久しぶりね・・・』
彼女は、そう言っただけである。
(おかしいな・・・)
小牧は、そう思ったに相違ない。

(俺の愛人として、これからも付き合っていきたいのではないのか?)
不審な顔をして、アイリーンを見詰める小牧・・・
だが、アイリーンは、その視線をさり気なく躱す・・・
両者の沈黙に、当惑したのは優二である。
丁度その時、彼らの席に、焼きそばが運ばれてきた。

晩飯代わりに、優二が先程注文しておいたのだ。
『取り敢えず、皆で食べようよ。』
優二は、辛うじてそれだけを言うと、そこにあったフォークを取ろうとした、その時である。
アイリーンは、いきなりそのフォークを取り上げると、それを小牧に向けて振りかざした。
小牧が、驚いている暇も無い。

そのフォークは、小牧の膝に、深々と刺さってしまった。
『ギャー』
凄まじい痛みに、小牧は、席から転げ落ちながらのたうち回る。
慌てて、アイリーンを、その場から引き離す優二。
一瞬の間に、その店は、修羅場となった。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊸ 逆転! [小説]

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『俺にも考えがあるぞ!』
のっけから、優二にそう強く言われた小牧は、彼の勢いに、少しタジタジになった。
『か、考えがあるって何だよ?』
何とか、態勢を整えようとしたが、逆にどもってしまった。
優二は、ここぞとばかりに、少し声を荒げながら、更にこう言う。

『昨夜、アイリーンに会って来た、あれは、絶対にお前の子供に間違いないよ、彼女の顔を見れば
分かる、お前も男だろう、男なら男らしく、潔く認めたらどうなんだ?』
『・・・・・・・』
優二と小牧は、何度も言うように同期である。
しかし、最初に出世したのも小牧だし、結婚もとっくに済ませて仕舞って、今では二児の父親だ。

小牧は、優二の事を、独身主義者のお気楽者と見ていた。
出世に対して、自分をアピールするわけでもなく、結婚にも、消極的であった優二である。
ところが、この男が恋をした。
お相手は、比国のKTV嬢・・・
これが、日本を出発する前、小牧に、住居の事で泣き付いてきた男と、同一人物だとは思えない。

立て続けに連発する優二の責め言葉に、二の句が継げないでいる小牧である。
態勢は、整った。
優二は、ふっと気を逸らすような、話題に変えた。
『ところで、奥さんの敦子さんとは、しょっちゅう連絡を取っているのかい?』
武道で言うなら、間を外すというところであろう。

一瞬気を抜いたふりをして、相手を誘いこむのだ。
小牧は、見事にそれに引っ掛った。
『あ、ああ、三日に一度くらいは、国際電話を掛けてるよ・・・』
こういう話題なら、小牧にだって返事は出来る。
だが、次に優二が言った言葉が、小牧にはグサッと来た。

『でもまあ、この事を敦子さんが知ったら、さぞかし悲しむだろうな・・・』
『お、お、お前・・・・』
小牧は、一瞬にして顔が青くなった。
『も、若しかして、あ、敦子に告げ口しようって言うのか?』
小牧は、青くなった。

『告げ口だって、人聞きの悪い事を言うなよ、まあ、最も、お前がどうしても責任を取らないと言う
のなら、その時には、それを考えないでは無いな・・・』
『・・・・・・・』
『悪いけどな、昨日の昼のお前との会話、あれ録音させて貰ってるよ・・・』
『げ、げげえ・・・』

勝負は、決した。
小牧は、敗れたのだ。
人を陥れようとするものは、人に陥れられる・・・
が、落ち込んでいる小牧に、優二は、小牧を責めているばかりでは無かった。
『まあ、俺が相談に乗るよ、兎に角、ここから逃げる算段だけはよせ、支社長もお困りだ。』

『わ、分かった、頼む・・・』
優二は、アイリーンの希望や、言い分も聞いてやらねばならない。
兎に角、結婚が出来ない事は、百も承知なのだ。
その上で、彼女をどう納得させれば良いのか?
取り敢えず、小牧の代理人として、優二は、再び彼女に会うことにした。

小牧から、アイリーンの電話番号を聞き出し、退社後に、外で会う約束を取り付けた。
一夜明けたばかりなので、アイリーンは、まだ気持ちの整理が、付いていないようである。
些か、両目が腫れぼったいのを見て、優二が思わずこう言った。
『本当に、大丈夫?』
『はい、大丈夫です・・・』

蚊の泣くような、小さな返事をするアイリーン。
『小牧のことなんだけど、取り敢えず、君の子供のことは認めたよ・・・』
『そうですか・・・・・』
彼女は、そう聞いても、特に表情を動かさない。
『そこで、俺は、今後の事を小牧から任された、先ずは、君の希望を言ってみて呉れないか?』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊷ 決意! [小説]

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アイリーンの気持ちは、優二にはよく分かった。
が、しかし、これを単に小牧に伝えるだけなら、ここに来た意味が無い。
何とか、少しでも解決策を見い出して置かないと、帰るに帰れない彼なのだ。
彼女の言うことは、信じるに足るものだと、優二は確信している。
子供も、九分九厘小牧のものだとしか思えない。

だが、小牧は、それを認める気はないのだ。
認めてしまえば、責任を取らねばならない。
彼は、目的のためなら、手段を選ばぬような男である。
何せ、支社長である岩崎まで、脅迫するような奴なのだ。
(どう、責任を取らせれば良いのか・・・?)

優二は、思い悩んだ。
元はと言えば、優二はこの件に、関わるべき話ではなかった。
自分のうっかりミスで、岩崎のことを、小牧に口走ってしまったが為に、引き起こった事件である。
こればかりは、自分で尻を拭うしか、他に道はない。
小牧は、自己責任を、完全に放棄しようとしている。

優二には、これが許せなかった。
妻子が日本に居ると言っても、外国に来て子供を勝手に作ってしまい、そこから逃げ出そうとする
など、男の風上にも置けない奴だと、憤慨していたのである。
優二は、考えあぐねた結果、これだけをアイリーンに告げて、店を後にした。
『小牧とのことは、俺に全てを任せて呉れないか?、決して悪いようにはしないから・・・』

ここで、小牧と二人だけで会わす事態だけは、避けようと考えたのだ。
最も、小牧の方で、会うのを拒否する可能性の方が大だった。
(一筋縄では、いかない奴だからな・・・)
優二は、自分のコンドへ帰る道々、色んな手立てを考えた挙句、一つの決心をした。
この際、小牧と全面対決をすることである。

元々、岩崎に責任を取って、会社を辞めようと考えた優二だ。
小牧と刺し違えになって、会社をやめる結果になっても、悔いは無いではないか?
今の自分には、ジュリアが居てくれる。
例え会社を辞めても、自分の貯金で当分は食えるはずだ。
若しかしたら、こちらで新たな仕事を探せるかもしれない。

そう言えば、以前、『太虎』の大橋に聞いたことが有る。
こちらには、駐在でなくても、現地採用の道があると・・・
優二は、それらを全てプラス材料に数え、小牧との決戦に望んでやると、心に誓った。
コンドに帰ったのは、午後の10時過ぎである。
部屋に入る早々、ジュリアは喜び、優二に飛びついて来た。

彼は、至福の喜びに包まれる・・・
(こういうことが、これからも毎日続くのだ・・・)
自分のやったことに対するのけじめと、今後もこの幸せを守るためにも、明日は小牧との決戦だ
と、優二は、再度心に誓ったのである。
さて、その夜も更け、次の日の朝が来た。

優二は、気合を入れて出勤している。
(今日こそは、決着を着けてやるからな・・・)
優二は、やる気満々である。
小牧の顔を見ると、直ぐに彼のもとに行った。
『昼休みに、もう一度話をしないか?』

『ちぇ、面倒くさいやつだな、まだ俺の話に関わりたいのか?、どうなっても知らないぞ!』
相変わらず、小牧は強気である。
さて、その昼休み、二人は、『スモール東京』ではなく、近所にある、ローカルレストランに居た。
『小牧よ、お前が態度を改めないなら、俺にも考えがあるぞ・・・』
会った瞬間から、優二が、のっけからそう宣言した。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊶ 告知・・・ [小説]

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このままでは、埒が明かない。
小牧は、黒を白と言い張るばかりだ。
優二は、一旦引き下がることにした。
(やはり、これは帰ってジュリアに相談してみようかな・・・)
再びそう思ってみたが、いや、それはまずいであろう。

何せ、小牧が孕ませたアイリーンが働いているその店は、優二が、ジュリアに隠れてデートをした
女の娘も、働いている店なのだ。
万が一、彼女が一緒に行きたいと言ったなら、又々、修羅場が引き起こるかもしれない。
(ふ~、危ない危ない・・・)
優二は、折角手に入れた幸せを、小牧なんぞのことで、失いたくは無かった。

そう思い直し、ジュリアには、今夜は会社の用事で遅くなるとだけ電話で伝え、食事は自分一人で
済ますように、彼女に告げた。
ジュリアは、優二が遅くなるということに、露骨に不快そうな口調で文句を言ったが、これは当然で
有ったかも知れない。
例えて言うならば、新婚二日目の夜に、旦那が残業で遅くなるということだ。

優二は、電話でジュリアを宥めるのに、一苦労をして仕舞った。
(ともあれ、早く行って早く帰ろう・・・)
彼は、そう思うしか無い。
彼は、定時で会社を上がると、夕食を適当に済ませ、アイリーンの店に行った。
店に着き、ママさんにアイリーンを指名すると、ママさんは不思議な顔をする。

『御免、わけが有るんだ・・・』
優二は、そう言い訳をするしか無い。
遠くには、優二が以前デートをした、女の娘の顔も見える。
ママさんは、何故優二がその娘ではなく、アイリーンを指名したのか、理解が出来なかったのだ。
それはさて置き、アイリーンがやって来て、優二の隣りに座った。

『お久しぶりね・・・』
アイリーンは、笑顔で優二にそう言う。
『うん、実は君に話があるんだ。』
『ああ、分かった、小牧さんの事でしょう。』
アイリーンは、さすがに察しが良い。

優二が、自分のオキニを指名せずに、アイリーンを指名したのである。
小牧の会社の同僚としてやって来たのなら、用件は察しがつくというものだ。
『率直に言おう、君は小牧の子供を本当に妊娠しているのかい?』
『ええ、本当よ、でも何故?、あの人は、私がそれを告げたら来なくなった。』
『う、うん、それなんだが・・・』

優二は、流石にそれからが言いにくい。
しかし、ここは正直に言うのが、彼女の為である。
優二は、思い切って、小牧には、日本に妻子が有る旨を告げて仕舞った。
アイリーンは、流石にショックを隠せない。
見る見るうちに、頬に涙が伝わって行く・・・

『すまん、小牧に代わって詫びを言う・・・』
優二は、頭を下げた。
『別に、貴方が悪い訳ではないわ・・・、悪いのは全て彼よ・・・、私は、あの人のことを本気で愛し
ていたのに・・・』
優二は、聞いていて、胸が苦しくなった。

愛する気持ちは、優二とて、間近に経験しただけに、よく分かる。
アイリーンの気持ちが、心に痛いほど、手に取るように分かるのだ。
優二は、暫く沈黙をして、彼女を見守るしか無い。
やがて、アイリーンは、少し気持ちが落ち着いたのか、ぼそぼそと優二にこう言った。
『小牧さんに伝えて頂戴、二人だけで話がしたいと・・・』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊵ 脅迫 [小説]

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『君は、一体何が言いたいんだね・・・?』
『いやあ、話は全部福田から聞いていますよ、お子さんが出来たから、そのことで、福田と一緒
に、このフィリピンに来られたんでしょう?』
『・・・・・・・』
急に、黙りこんで仕舞う岩崎・・・

『僕には、妻子がいます、こんなことで、今の仕事と家族を、棒に振ることは出来ません・・・、そ
こで支社長にお願いなんです、どうにかして、僕を、穏便に日本へ戻して下さいませんか?』
小牧は、段々と開き直ってきたようだ。
岩崎は、ぐっと詰まってしまった。
弱みは、完全に握られている。

こんなことが、小牧のお陰で、仕事上の敵である、副支社長の吉本にでも知られたら大変だ。
『分かった、善処してみるよ・・・』
岩崎は、やっとそれだけを言うと、小牧を帰した。
という訳で、岩崎は優二が帰るのを、次の日まで待っていたのである。
『さあ、どうなんだね・・・?』

『も、申し訳ありません・・・』
優二には、言葉もなかった。
思わず口走ったとは言え、やはり、小牧なんぞに話をしたのが、間違いであったと気付いたのだ。
(穴が有ったら入りたい・・・)
優二は、恥じた。

深々と頭を下げながら、彼は岩崎にこう言う。
『本当に申し訳ありません、僕は責任を取って、会社を辞めさせて頂きます・・・』
『な、何だと・・・』
これには、流石の岩崎も驚いた。
『君が辞めても、仕方が無いだろう・・・』

岩崎は、益々不機嫌になってそう言った。
『では、どうすれば許して頂けますか?』
優二は、小さな声でそう聞いた。
『君が、小牧を説得し給え、彼を日本に帰すということは、私の監督不行き届きになる、何とか
それを回避するんだ、そうしたら、今回のことは不問にしてやるよ・・・』

『は、はい、早速明日小牧と話をします・・・』
優二は、もう、そう言うしか無い。
それだけを言うと、逃げるようにして、自分の部屋に戻った優二である。
(さて、どうしよう・・・)
青い顔をしながら、帰ってきた優二を気遣うジュリアを尻目に、彼は頭を抱えるしか無い。

(こういう問題を、ジュリアに打ち明けて良いものか・・・)
彼は、迷いに迷ったが、その夜は、取り敢えず打ち明けるのだけは止めにした。
さて、翌日・・・
優二は、ジュリアをコンドに置いたまま、定刻に会社に出勤した。
そして、小牧の傍に行き、昼休みに二人で話をしたい旨を、伝えた彼である。

『どうやら、支社長に言われて来たようだな・・・』
流石に、小牧は察しが良い。
昼飯を、会社の近くにある、『スモール東京』の一角のレストランで取りながら、小牧が言う。
『それで、本当にこのままでいいのか?』
『何がだよ?』

『日本に帰ることだよ、帰ったらその娘はどうするんだ?、生まれてくる子は・・・?』
『お前、俺に責任を取れというのか・・・?』
『それは、当たり前だろう、俺もあの娘は知っているが、凄く真面目そうな娘だった、その彼女が
お前の子供を妊娠したんだ、お前が責任を取らなくてどうするんだ?』
『俺の子供だという、証拠は何処にも無いさ・・・、兎に角、俺は、こんな揉め事は御免なんだよ。』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊴ 波乱の幕開け [小説]

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夜になった。
優二とジュリアは、第③ラウンドを終えたばかりであったが、そこに、岩崎から電話が入った。
直ぐに、自分の部屋まで飛んで来い、との命令である。
(支社長は、大分おかんむりのようだな・・・)
優二は、電話の向こうでの、岩崎の口調でそう察していた。

(休みを延長したので、怒っているのかな・・・)
そう思ったが、それは病気だということで、彼も納得したはずだ。
優二は、不思議に思ったが、取り敢えず急いでシャワーを済まし、岩崎の部屋へと向かった。
部屋の前で、ドアチャイムを押すと、不機嫌な顔の岩崎が顔を出す。
彼は、優二を部屋の中に招じ入れると、のっけからこう言った。

『君い、何てことを小牧君に言ってしまったんだね?、俺に子供を産ませた愛人が居るなどと
・・・、あれだけ念を押しただろう、これだけは、絶対に秘密だとな・・・』
開口一番、岩崎は、優二を睨みつけながら、そう言う。
『えっ、そんなことを小牧は言ったんですか?』
(そう言えば、覚えがある・・・)

確か、小牧にコンドの事で、頼み込んだ時のことだ。
優二は、うっかりと、小牧に岩崎の秘密を、漏らして仕舞っていたのである。
『ああ、言ったんだよ、小牧はな、俺に今直ぐ日本へ帰らせてくれと、泣き付いて来ているんだ、
今回のことは、秘密にして置くという条件でな・・・』
『・・・・・・・』

『どうやら、事情が飲み込めないようだな・・・』
優二は、岩崎の言うことが、全く理解出来なかった。
話が長くなりそうなので、ここは、作者が代わって説明しておこう。
昨夜のこと、小牧が青い顔をしながら、岩崎のコンドを訪れた。
昼間から、何か言いたげな小牧だったが、会社では余程言い難かったのであろう。

夜になってから、岩崎を訪問してきたのである。
『用事とは、一体何だね?』
岩崎は、プライベートの時間を邪魔されに来たので、些か機嫌が悪い。
『ええ、実は大変なことになりました・・・』
小牧は、目を虚ろにしながら、岩崎にそう言った。

『支社長、聞いて貰えますか・・・?』
『だったら、グズグスせずに、さっさと言い給え、俺も、プライベートの時間とはいえ忙しんだ。』
『はい、では聞いて頂きます。』
小牧の用件とは、例のいつも通っているKTVの女の娘、『アイリーン』との話しであった。
実は、彼女が妊娠したらしい。

体調を崩し、アイリーンが病院に行った所、妊娠2ヶ月との診断を受けた。
何度も言うようだが、小牧は赴任組の中では、一番先に渡比してきてる。
アイリーンに最初に出会ったのも、11月の中頃の話だ。
今はもう2月の終わりだから、確かに計算は合った。
小牧は、アイリーンからその報告を受け、青くなってしまったのは言うまでも無い。

妻帯者で有った彼は、その店では独身で通していたのである。
つまり、嘘を付いていたのだ。
結婚を約束まではしないが、やりたいが故に、暗に匂わせたことは有る。
これが、命取りになったのだ。
彼女は、当然、責任を取って貰えるものと思っていた。

が、小牧は、その場を適当に誤魔化し、そのままコンドに帰ってしまった。
そして、何とかほとぼりが冷めるまで、店には行かないでおこうと思ったのだ。
と、言うより、そのまま捨てたかったに相違ない。
しかし、アイリーンからは、毎夜のようにテキストが着弾する。
脅すような文面などは一切ないのだが、そこはそれ、後ろめたく思っている小牧であった。

全てのテキストが、彼を責める文面のように感じられたのである。
彼は、段々と、精神的に追い詰められて来た。
プライベートの電話ではなく、会社が契約している電話番号を彼女に与えていたため、容易に
は、電話番号を変えれられない。
変えるには、それなりの理由が必要だからである。

しかも、悪いことに、アイリーンには、コンドの場所も教えていた。
ホテル代の節約のため、彼は自分のコンドに彼女を呼んでいたのだ。
日本に家族が居るし、家を建てたばっかりで、何かと物入りの小牧だったのである。
しかし、このままではいけない。
あまり、長いこと放って置くと、アイリーンが、コンドに乗り込んで来るとも限らないのだ。

それで、岩崎に、相談に来たというわけである。
彼は、何とか理由を付けて、日本へ逃げて帰りたかった。
その為に、彼は手段を選ぶような男ではない。
岩崎に、正直に話をした小牧は、含み笑いをしながら、彼にこう言った。
『支社長にも確か、子供を産んだ、愛人がこちらにいらっしゃるのですよね・・・?』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊳ 姉の打算・・・ [小説]

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カレンは、声にならぬ叫びを上げていた。
思わぬ優二の出現で、一瞬だが、言葉を失って仕舞ったのだ。
彼女に取って、それ程の衝撃だったのである。
(電話番号も変えたのに、いつの間にこの二人は、連絡を取り合っていたのであろうか?)
カレンは、不思議でならなかった。

(だが、ジュリアがここに優二を連れて来たと言うことは、彼女から優二に連絡したのか?)
何はともあれ、ジュリアに事情を聞かねばならない。
カレンは、気を取り直し、優二を無視するようにして、ジュリアだけを部屋の中に入れた。
ジュリアは、少しだけ外で待っていてね、と優二にそう言って、自分だけ部屋の中に消えた。
ここは、待たねばならぬであろう。

こうなれば、ジュリアだけが頼りなのである。
優二は、仕方無く、ドアの外で待つことにした。
30分程も、経過したであろうか、ジュリアが顔を見せ、優二に、部屋の中に入るよう促した。
優二は、ジュリアの表情を見る限り、明るい顔をしていたので、ホッとして中へと入って行く。
中へ入ると、カレンが深刻な顔をして座っている。

『事情は、聞いたわ・・・』
『・・・・・・・』
『あなたが、ジュリアのことを愛しているのは良く分かったわ、だけどあなた達これからどうする積
り、ジュリアと結婚するの?、私達には、まだ小さい兄弟が居るのよ、お金だって送らないといけ
ないし、彼女だって、まだまだ働かななければならないんだわ・・・』

『ああ・・・』
この分野なら、優二は得意である。
自分の経済事情を、全てカレンに打ち明けた。
仕事のこと、貯金は少しこちらで切り崩したとはいえ、まだまだ余裕が有ることなど、例えジュリア
が仕事をしなくても、仕送りは約束することなどを、彼は熱心に語ったものである。

聞いている内に、カレンは時折笑顔を見せるようになっていた。
『それなら分かったわ、本当に本気なのね?、だったら、もうジュリアを泣かさないでね、今度同じ
ことをしたら、私が貴方を殺します・・・』
冗談のようにカレンは言ったが、彼には、冗談には聞こえなかった。
実際、ジュリアから、姉の恐ろしさについて、話を聞いていたからである。

以前にも触れたが、彼女には、今の日本人の彼氏より以前、別の日本人の恋人が居た。
二人の中に子供が出来た瞬間、男は逃げた。
だが、彼はフェイスブックに、自分が出没しているKTVの写真などを掲載していた。
(又こいつは、同じ場所に現れるに違いない。)
そう考えたカレンは、刃物を持って、そのKTVを見張った。

案の定、そこをその男は訪れたのである。
そこからは、修羅場だ。
カレンは、刃物を振りかざし、その男を追い回した。
辛うじて、地廻りのポリスがやって来てカレンを止めたが、止めなければ、カレンはその時、殺人を
犯して居たかもしれない。

その男とはそれっきりだが、カレンはその男の子供を養わなければならなかった。
思えば、随分辛かったであろう。
それはさて置き、仕送り額や方法など、取り敢えず話は纏まった。
とうとう、姉の打算と優二の予算が、完全に一致したのである。
妹の幸せと、家族を守るという、両者がこれで成り立つのだから、姉が反対する理由は最早無い。

ジュリアと優二は、結婚を前提に、二人で暮らすこととなった。
ジュリアには、仕事はもうやらさない。
それは、優二の希望で有った。
こうして優二は、誰の反対もなく、ジュリアと幸せに暮らすことになったのである。
明日の波乱の幕開けが、あるとも知らずに・・・


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊲ カレン再び・・・ [小説]

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優二のコンドで、二人は抱き合っていた。
男女の仲など、その行為をするだけで、些細な溝など埋まってしまう。
二人は、積極的に、それに没頭していたと言って良い。
優二も、以前の過ちを忘れて仕舞いたいし、ジュリアも、そのことで傷ついた自分を忘れたかった。
フィリピーナ特有の癖で、いつかはその事を思い出し、突然、優二を責めるかどうかは分からない。

だが、この時は、本気で忘れてしまいたかったのだ
ジュリアの、以前の憎しみは、今は、愛に置き換えられている。
人は、憎しむが故に愛し、愛するが故に憎むのである。
愛と憎しみは、常に、表裏一体であった。
お互いの記憶を消し去るには、精神的にも肉体的にも、燃え上がる行為をするしか無いのだ。

お互いに、むさぼるようにして、相手を求め合う二人・・・
この時、ジュリアは、女としての、本当の開花を迎えたと言って良い。
浮気をされたことで、優二に対する独占欲が、逆に高まっていた。
憎しみというエキスが、愛を、一層増幅させたのであろう。
彼女は、燃え盛る行為の中、いつの間にか、優二の性器を咥えて仕舞っていた。

何処で見たのか聞いたのかは知らないが、見よう見真似で有ったに違いない。
彼女は、拙いながらも、優二のそれを口に含みながら、舌を動かす・・・
優二は、狂喜した。
以前は嫌がって、絶対に咥えようなどとはしなかったジュリアである。
『うう・・・』

優二は、そううめき声を出すと、ジュリアの口の中で逝ってしまった。
しかし、彼はまだまだ若い。
5分も経たない内に、又もや回復してきた。
作者が羨む暇もなく、再びその行為が始まった。
今度は、ジュリアの中でイキたい。

そう思った優二は、コンドームを装着しようとした。
が、それを止めるジュリア。
二人の仲を引き裂いた元凶は、このコンドームである。
これは、はっきり言って、トラウマだ。
優二は、それに気付き、生で挿入をすることに決めた。

(まあ、外に出せば良かろう・・・)
優二は、そう考えたからである。
30分後、行為を終えた二人は、シャワールームに居た。
余りに激しく燃えすぎたのが急に恥ずかしくなったのか、ジュリアは寡黙になっている。
優二は、濡れた身体で、彼女を再び抱擁した。

シャワーが終わって、暫く休憩の後、二人はカレンの元に出掛けた。
先程から、ジュリアの携帯電話に、カレンからのテキストが、数多く着弾していたからである。
恐らく、叔母から連絡を受けたのであろう。
彼女からすると、気が気でなかったに違いない。
ジュリアは、叔母にはマニラに帰るとだけしか、告げて居なかった。

だから、叔母もカレンにはそれしか伝えていない。
(こんな時間まで、何をやっているんだろう・・・?)
彼女には、妹のことが理解出来なかった。
自殺未遂までした癖に、彼女は最初、叔母の元に行くのを嫌がった。
『万が一、優二が又店に来たらどうするの?』

カレンは、そう説得したのだが、ジュリアが、中々首を縦に振らなかったのである。
彼女は、優二に対して、まだ思い入れを持っているのかも知れない。
そう考えたカレンは、無理矢理に叔母のところへ連れて行ったのである。
でもしかし、流石のカレンも、優二とジュリアが再会していることなどとは、夢にも思わなかった。
ほとぼりが覚めたら、ママさんにでも頼んで、系列店にでも移そうと思っていたカレンである。

カレンが、ジュリアと連絡が取れないのをイライラしていたその時、アパートの部屋のドアの方から、
鍵の開く音が聞こえてきた。
『ジュリア、ジュリアなの?』
カレンが、急いでドアの方に行くと、部屋に入って来たジュリアに続いて、優二の姿を見つけた。
『オーマイガー、ジュスコダイ・・・!』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㊱ マニラへ・・・ [小説]

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優二の病名は、どうやら、急性腸炎で有ったらしい。
その日の夜だけ、優二は病院へ泊まった。
ジュリアは、夜遅くまで優二の側にいて看病をしたが、夜更けに、叔母の元へと帰っていった。
明日の朝、彼女は優二と一緒に、マニラに戻るつもりだ。
優二は、岩崎に病気の旨を告げ、休暇を、明日迄延長して貰った。

電話の向こうで、岩崎は嫌な顔をしたが、急病だと言うのだから仕方が無い。
『特別に許可してやるよ』、と、せいぜい、恩着せがましく言ったものだ。
優二は、ジュリアの姉であるカレンに、彼女とのことを許して貰う決心をしていた。
そのことをジュリアに伝えると、当然のように彼女も喜んだ。
叔母の家に帰ったら、支度を済ませ、翌日の朝には、この病院に戻って来る予定である。

優二は、殆ど喜びのあまり、一睡もできない。
腹の痛みも、処置が良かったのか、今では、全くと言って良いほど無くなっていた。
だけど、思いがけなく、ジュリアに再会出来たし、よりも戻せたのは、この腹痛のお陰である。
病気に感謝する馬鹿も居ないであろうが、優二は、この病気に本気で感謝をしていた。
そして、誰よりもジェシーには、何度礼を言ったかわからない。

実際、彼がモールで昼食を食べようと言って呉れなければ、ジュリアと再会は出来なかったろう。
そういう意味では、優二にとって、彼は救世主(メシア)であったに違いない。
さて、翌日になった。
ジュリアは、約束の時間より、1時間も早く病院に来た。
待たされることは沢山あったが、ジュリアの方が先に来たことは一度もない。

まあ、彼女も、優二に会えたことが、余程嬉しかったと見える。
退院の支度を、いそいそとやっていた。
やがて、ジェシーが迎えに来て、病院の支払いを済ませた優二達一行は、マニラへ向けて、帰
途に着くこととなる。
(今日は、沢山やることがあるぞ・・・)

それは、そうであろう。
先ず、何をさて置いても、洗濯屋さんに礼に行かなければならない。
彼のアドバイスがあってこその、今日である。
その後は、カレンとの話し合いだ。
これが、一番の難関である。

(彼女が、どうでるだろうか?)
そう優二は考えると、身震いが出て仕方が無い。
(若しかしたら、刺されるかもな・・・)
どうしても、そこまで考えてしまう。
そういう怖い話は、大橋からも沢山聞いていた。

(ええい、その時はその時だ・・・)
優二は、開き直らざるをえない。
『開き直る事に慣れないと、比国では行きていけないよ。』
時々、愚痴るくせに、大橋はこうも優二に言っていた。
優二が、色々なことを考える内に、ジェシーの車は、無事に洗濯屋さんの店の前に着いた。

ジェシーが、電話で連絡を取っていたので、洗濯屋さんは店に居た。
自分のコンドから、わざわざ駆けつけて呉れたらしい。
洗濯屋さんは、優二からの報告を聞き、自分のことのように、喜んだ。
右手の指で、小さな布をブンブン振り回しながら、踊るようにしながら、彼はこう言う。
『良かった良かったねえ・・・、これで彼女と同居でもしたら、洗濯物はうちで頼むよ。』

『ははは、分かりました、是非そうさせて下さい、所で、今指で振り回しているのは何ですか?』
『ああ、これは客のパンティさぁ、さっきここに来たんだけどね、それが凄いべっぴんだったんだ
よ、あそこの匂いも抜群だな、あっ、良かったら君も匂ってみるかい?』
『い、いいえ、え、遠慮しておきます。』
『おっほっほっほ、遠慮深いんだねえ、俺は、これだから洗濯屋が止められないんだよ・・・』

『・・・・・・・』
洗濯屋さんは、自分の趣味を隠そうともしなかった。
一部始終を見ていたジュリアで有ったが、恩は兎も角、ここに、自分の下着は死んでも出すまい
と、心に誓っていたのは言うまでも無い。
暫くしてから二人は、洗濯屋さんとジェシーに別れを告げ、コンドへと歩いて帰ることにした。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉟ 愛よ再び・・・ [小説]

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一体、どれくらいの時間が経ったのであろうか?
優二は、病院のベッドの上で、夢を見ていた。
勿論、愛しのジュリアの夢である。
彼は、余りの腹部の激痛に耐えかね、とうとう意識を失って、車で病院に運ばれた。
が、優二は、未だにそのことさえ知らない。

夢の中では、ジュリアが優二に向かって微笑んでいる。
彼は、それだけで満足していた。
天にも昇る、気持ちで有ったのだ。
(おお、ジュリア、ジュリア・・・)
彼は、寝言にでも、彼女の名前を呼び続ける・・・

その時である。
右腕がチクリとして、その痛みで優二は目を覚ました。
目を開けると、そこには、白い制服を着たナースが、優二の腕に注射を打っている。
『ここは、何処なんだ?』
優二は、思わず呟いた。

『ここは、病院よ、貴方はモールで倒れたよ、全然覚えてないの?』
ナースは、そう言うと、クスクスと笑う。
(ああ、そうだ・・・)
優二は、先程の事を思い出し、今の自分の衣服を確かめた。
着ていた服とは、違う服を今は着用している。

(ああ・・・、漏らしたんだった・・・)
そう思い出すと、顔に火が付いたように、優二は、急に恥ずかしくなった。
と、同時に、気を失ってくれて、助かったとも思う。
気を失わなければ、あのまま、恥を衆前に晒したことを、記憶に残さなければならなかった。
(そうだ、あの時ジュリアを見掛けたんだったっけ・・・)

優二は、それを思い出した瞬間、ベッドから飛び降りようとした。
今直ぐに、モールへ戻らなければと考えたのだ。
ナースが、驚いて、それを見て阻止するのかと思いきや、その反対側から一人の女性が、優二
の身体をそっと押さえながらこう言った。
『駄目じゃないの、貴方はまだ病気なのよ、じっとしていなきゃ・・・』

聞き覚えのある、声で有る。
優二は、声の聞こえた方を振り返った。
何と、そこに居たのはジュリアである。
彼女は、ニコニコと笑いながら、優二の顔を見詰めていた。
(こ、これは一体・・・)

優二は、何だか信じられなかった。
まるで、夢の続きではあるまいか・・・
その時、病室にジェシーが入って来た。
『ああ、優二さん気が付いたね、良かったよ、あなたあの時大変だったよ。』
『・・・・・・・』

ここは、ジェシーに代わって作者が説明しておこう。
猛烈な腹痛で、脱糞し気を失った優二だが、彼を探しに来たジェシーに依って、彼の車で病院
に運ばれた。
それを、一部始終、見届けていたのがジュリアである。
彼女は、優二が気を失う前に呼んだ声で、トイレから出て、優二が倒れるのを発見した。

事情が分からないまま、傍観していたが、やがて優二を探しに来たジェシーが、数人の人の手
を借りて、優二を車に運びこむのを見ていたのである。
そこで、思い切って、ジュリアはジェシーに声を掛けた。
声を掛けられたジェシーも、驚いたに違いない。
昨日から優二と一緒に探し続けてきたジュリアが、向こうから声を掛けてきたからだ。

兎に角、今は、病院へ一刻も早く優二を運ばなければならない。
ジュリアは、とっさの判断で、ジェシーに付いて行くことにした。
彼女はまだ、優二のことを愛していたのである。
道々、そして病院へ着いてからも、ジュリアは、ジェシーの話を熱心に聞いていた。
ジェシーは、洗濯屋さんからもだが、優二と約2日間付き合った所為か、事情を殆ど知っていた。

優二が、ジュリアのことを忘れないでいること。
まだ、愛してるということ。
浮気を本当に反省して、ジュリアに戻って来て欲しいから、ここまで探しに来たことなど、ジュリア
は、全部ジェシーの口から聞いてしまった。
ここまでされて、腹を立て続ける女も居ないであろう。

ジュリアは、痛み止めを打たれて眠り込んでいる優二を、愛しく見守った。
それから後は、前述の通りである。
『ジュリア、俺が悪かった、許して欲しい・・・』
ジュリアは、返事をする代わりに、ベッドに横になっている優二の唇と自分の唇を、そっと重ねた。
それを見ていたジェシーは、ニコリと笑い、そのままそっと、病室を出て行った。


続く・・・
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