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マニラKTV悲話 その㊳ 姉の打算・・・ [小説]

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カレンは、声にならぬ叫びを上げていた。
思わぬ優二の出現で、一瞬だが、言葉を失って仕舞ったのだ。
彼女に取って、それ程の衝撃だったのである。
(電話番号も変えたのに、いつの間にこの二人は、連絡を取り合っていたのであろうか?)
カレンは、不思議でならなかった。

(だが、ジュリアがここに優二を連れて来たと言うことは、彼女から優二に連絡したのか?)
何はともあれ、ジュリアに事情を聞かねばならない。
カレンは、気を取り直し、優二を無視するようにして、ジュリアだけを部屋の中に入れた。
ジュリアは、少しだけ外で待っていてね、と優二にそう言って、自分だけ部屋の中に消えた。
ここは、待たねばならぬであろう。

こうなれば、ジュリアだけが頼りなのである。
優二は、仕方無く、ドアの外で待つことにした。
30分程も、経過したであろうか、ジュリアが顔を見せ、優二に、部屋の中に入るよう促した。
優二は、ジュリアの表情を見る限り、明るい顔をしていたので、ホッとして中へと入って行く。
中へ入ると、カレンが深刻な顔をして座っている。

『事情は、聞いたわ・・・』
『・・・・・・・』
『あなたが、ジュリアのことを愛しているのは良く分かったわ、だけどあなた達これからどうする積
り、ジュリアと結婚するの?、私達には、まだ小さい兄弟が居るのよ、お金だって送らないといけ
ないし、彼女だって、まだまだ働かななければならないんだわ・・・』

『ああ・・・』
この分野なら、優二は得意である。
自分の経済事情を、全てカレンに打ち明けた。
仕事のこと、貯金は少しこちらで切り崩したとはいえ、まだまだ余裕が有ることなど、例えジュリア
が仕事をしなくても、仕送りは約束することなどを、彼は熱心に語ったものである。

聞いている内に、カレンは時折笑顔を見せるようになっていた。
『それなら分かったわ、本当に本気なのね?、だったら、もうジュリアを泣かさないでね、今度同じ
ことをしたら、私が貴方を殺します・・・』
冗談のようにカレンは言ったが、彼には、冗談には聞こえなかった。
実際、ジュリアから、姉の恐ろしさについて、話を聞いていたからである。

以前にも触れたが、彼女には、今の日本人の彼氏より以前、別の日本人の恋人が居た。
二人の中に子供が出来た瞬間、男は逃げた。
だが、彼はフェイスブックに、自分が出没しているKTVの写真などを掲載していた。
(又こいつは、同じ場所に現れるに違いない。)
そう考えたカレンは、刃物を持って、そのKTVを見張った。

案の定、そこをその男は訪れたのである。
そこからは、修羅場だ。
カレンは、刃物を振りかざし、その男を追い回した。
辛うじて、地廻りのポリスがやって来てカレンを止めたが、止めなければ、カレンはその時、殺人を
犯して居たかもしれない。

その男とはそれっきりだが、カレンはその男の子供を養わなければならなかった。
思えば、随分辛かったであろう。
それはさて置き、仕送り額や方法など、取り敢えず話は纏まった。
とうとう、姉の打算と優二の予算が、完全に一致したのである。
妹の幸せと、家族を守るという、両者がこれで成り立つのだから、姉が反対する理由は最早無い。

ジュリアと優二は、結婚を前提に、二人で暮らすこととなった。
ジュリアには、仕事はもうやらさない。
それは、優二の希望で有った。
こうして優二は、誰の反対もなく、ジュリアと幸せに暮らすことになったのである。
明日の波乱の幕開けが、あるとも知らずに・・・


続く・・・
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