SSブログ

マニラKTV悲話 その㊹ 修羅場 [小説]

4ab7fb82dd03323039ef2c947fb3f12aa3699cd81405086634.jpg

『私は、本当にあの人を愛していました。』
アイリーンは、優二に希望は?と聞かれたが、それには答えず、虚ろな表情でこう言った。
『あの人は、独身だと言ったし、いつかは、結婚も出来るとも言ったわ・・・』
彼女は、優二の眼を見ないまま、更に言葉を続ける・・・
『でも、それもこれも、みんな嘘だった・・・』

感情が昂ってきたのであろう。
そう言った途端、アイリーンの両目から、再び涙が溢れてきた。
昨夜に続いて、2度目である。
(可哀想に・・・、でも、これは、説得にもう少し時間が掛かるかもしれないな・・・)
兎に角、彼女が落ち着いて話を聞いてくれないことには、優二には為す術が無いのだ。

優二は、汚い話だが、ここはお金で解決するしか、無いと考えていた。
小牧に結婚の意志がない以上(当たり前だが)、可愛そうだが、中絶を勧めるか、産みたいのな
ら、生活費の面倒を小牧が見るというのが、一般的であると考えたのである。
が、彼女はその時、意外なことを言った。
『あの人は、今でも私のことを愛しているのかしら・・・?』

優二にとって、予想外な言葉である。
『あ、愛していたらどうなの?』
『私、あの人の愛人でいい、私は、あの人の子供を産んで育てたい・・・』
『・・・・・・・』
『今の私には、やっぱり彼を忘れることが出来ないわ・・・』

『ちょ、ちょっと待って、そ、それは本気で言ってるの?』
優二は、思わぬアイリーンの発言に、戸惑いを隠せなかった。
『ええ、本気よ、だからお願い、もう一度あの人の気持ちを確かめてきて、お願いします・・・』
アイリーンの顔は、決して、冗談を言っているような顔では無かった。
優二は、決断せざるを得ない。

ここは、一度引き下がるべきだと考えたのである。
(これからでも、小牧に相談してみよう・・・)
彼は、一旦その場を引き上げることにして、小牧のコンドに向かった。
小牧は、部屋に居た。
話を聞いた彼も、正直驚いている。

愛しているのかと聞かれたら、それはそれ、まだ未練は確かにあった。
勿論、身体だけかも知れないが・・・
(だとしても、今後も、このまま彼女と付き合って行くというのも、どうなのだろう・・・???)
小牧は、自分にとって、都合の良いシュミレーションを始めた。
(このまま、お腹が目立つようになるまでは店で働かせよう、その後はう~ん・・・・・)

考えを巡らせながら、引き続き、彼は、シュミレーションを重ねていく。
(それまでは、関係(勿論肉体)は続けられるな、産み月になったら、お金をやって、田舎にでも
帰そう、そこで子供を産めばいい、子供は、田舎で育てるのが一番だ、そうだ、その後、アイリ
ーンだけがここへ戻ってくればいいさ、働きながら、時々俺のもとに・・・)
やはり、こいつの根性はババである。

アイリーンの気持ちのことなど、少しも考えては居なかった。
『取り敢えず、アイリーンと、もう一度話し合ってみたらどうだ?、俺も付き合うよ・・・』
優二は、小牧が、そのようなことを考えているとも知らず、そう言った。
これは渡りに船だと、小牧が、二つ返事で承諾したのは、言うまでも無い。
気が付いてみると、時計の針は、既に午後7時を回っていた。

今頃は、彼女もお店に行っている頃であろう。
二人は、食事もせずに、彼女の店へと向かうことにした。
優二は、ジュリアを自分のコンドに、置いたままである。
二晩も連続で、帰りが遅くなることに、彼は、ジュリアの怒りを恐れていた。
(要らぬ疑いでも掛けられたら、大変だ・・・)

テキストで、会社の用事で少し帰宅が遅れるとだけ打っておいた。
が、彼女から、返事はなかった。
優二は、そのことで気にはなったが、小牧の手前、それでもアイリーンの元へ行くしか無い。
店へ着いた早々、二人はアイリーンを呼び出した。
アイリーンは、小牧の顔を見ても、何故か落ち着いている。

特に笑顔を見せなければ、愛想が悪いわけでもない。
『お久しぶりね・・・』
彼女は、そう言っただけである。
(おかしいな・・・)
小牧は、そう思ったに相違ない。

(俺の愛人として、これからも付き合っていきたいのではないのか?)
不審な顔をして、アイリーンを見詰める小牧・・・
だが、アイリーンは、その視線をさり気なく躱す・・・
両者の沈黙に、当惑したのは優二である。
丁度その時、彼らの席に、焼きそばが運ばれてきた。

晩飯代わりに、優二が先程注文しておいたのだ。
『取り敢えず、皆で食べようよ。』
優二は、辛うじてそれだけを言うと、そこにあったフォークを取ろうとした、その時である。
アイリーンは、いきなりそのフォークを取り上げると、それを小牧に向けて振りかざした。
小牧が、驚いている暇も無い。

そのフォークは、小牧の膝に、深々と刺さってしまった。
『ギャー』
凄まじい痛みに、小牧は、席から転げ落ちながらのたうち回る。
慌てて、アイリーンを、その場から引き離す優二。
一瞬の間に、その店は、修羅場となった。


続く・・・
nice!(0)  コメント(24) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。