マニラKTV悲話 その㉟ 愛よ再び・・・ [小説]
一体、どれくらいの時間が経ったのであろうか?
優二は、病院のベッドの上で、夢を見ていた。
勿論、愛しのジュリアの夢である。
彼は、余りの腹部の激痛に耐えかね、とうとう意識を失って、車で病院に運ばれた。
が、優二は、未だにそのことさえ知らない。
夢の中では、ジュリアが優二に向かって微笑んでいる。
彼は、それだけで満足していた。
天にも昇る、気持ちで有ったのだ。
(おお、ジュリア、ジュリア・・・)
彼は、寝言にでも、彼女の名前を呼び続ける・・・
その時である。
右腕がチクリとして、その痛みで優二は目を覚ました。
目を開けると、そこには、白い制服を着たナースが、優二の腕に注射を打っている。
『ここは、何処なんだ?』
優二は、思わず呟いた。
『ここは、病院よ、貴方はモールで倒れたよ、全然覚えてないの?』
ナースは、そう言うと、クスクスと笑う。
(ああ、そうだ・・・)
優二は、先程の事を思い出し、今の自分の衣服を確かめた。
着ていた服とは、違う服を今は着用している。
(ああ・・・、漏らしたんだった・・・)
そう思い出すと、顔に火が付いたように、優二は、急に恥ずかしくなった。
と、同時に、気を失ってくれて、助かったとも思う。
気を失わなければ、あのまま、恥を衆前に晒したことを、記憶に残さなければならなかった。
(そうだ、あの時ジュリアを見掛けたんだったっけ・・・)
優二は、それを思い出した瞬間、ベッドから飛び降りようとした。
今直ぐに、モールへ戻らなければと考えたのだ。
ナースが、驚いて、それを見て阻止するのかと思いきや、その反対側から一人の女性が、優二
の身体をそっと押さえながらこう言った。
『駄目じゃないの、貴方はまだ病気なのよ、じっとしていなきゃ・・・』
聞き覚えのある、声で有る。
優二は、声の聞こえた方を振り返った。
何と、そこに居たのはジュリアである。
彼女は、ニコニコと笑いながら、優二の顔を見詰めていた。
(こ、これは一体・・・)
優二は、何だか信じられなかった。
まるで、夢の続きではあるまいか・・・
その時、病室にジェシーが入って来た。
『ああ、優二さん気が付いたね、良かったよ、あなたあの時大変だったよ。』
『・・・・・・・』
ここは、ジェシーに代わって作者が説明しておこう。
猛烈な腹痛で、脱糞し気を失った優二だが、彼を探しに来たジェシーに依って、彼の車で病院
に運ばれた。
それを、一部始終、見届けていたのがジュリアである。
彼女は、優二が気を失う前に呼んだ声で、トイレから出て、優二が倒れるのを発見した。
事情が分からないまま、傍観していたが、やがて優二を探しに来たジェシーが、数人の人の手
を借りて、優二を車に運びこむのを見ていたのである。
そこで、思い切って、ジュリアはジェシーに声を掛けた。
声を掛けられたジェシーも、驚いたに違いない。
昨日から優二と一緒に探し続けてきたジュリアが、向こうから声を掛けてきたからだ。
兎に角、今は、病院へ一刻も早く優二を運ばなければならない。
ジュリアは、とっさの判断で、ジェシーに付いて行くことにした。
彼女はまだ、優二のことを愛していたのである。
道々、そして病院へ着いてからも、ジュリアは、ジェシーの話を熱心に聞いていた。
ジェシーは、洗濯屋さんからもだが、優二と約2日間付き合った所為か、事情を殆ど知っていた。
優二が、ジュリアのことを忘れないでいること。
まだ、愛してるということ。
浮気を本当に反省して、ジュリアに戻って来て欲しいから、ここまで探しに来たことなど、ジュリア
は、全部ジェシーの口から聞いてしまった。
ここまでされて、腹を立て続ける女も居ないであろう。
ジュリアは、痛み止めを打たれて眠り込んでいる優二を、愛しく見守った。
それから後は、前述の通りである。
『ジュリア、俺が悪かった、許して欲しい・・・』
ジュリアは、返事をする代わりに、ベッドに横になっている優二の唇と自分の唇を、そっと重ねた。
それを見ていたジェシーは、ニコリと笑い、そのままそっと、病室を出て行った。
続く・・・