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マニラKTV悲話 その㊺ とばっちり! [小説]

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全く、優二にとっては、予想外の展開になって仕舞った。
経験不足の彼は、正直言って、フィリピーナが、ここまでやるとは思わなかったのである。
フィリピーナの感情は、いつも安定しているとは限らない。
先程迄は落ち着いていたとしても、想像力が高まるにつれ、怒りが勃発することがある。
突然、ひょんなことから、数年前の旦那の浮気を思い出し、怒り狂うことなど珍しくもないのだ。

恐らく、先程店に来る前に会ったアイリーンは、今の、正直な気持ちを言いたかったに違いない。
が、小牧の顔を見たら、急に憎しみが湧いてきた。
(妻子が日本に居るにも拘わらず、私をこの男がもて遊んだ・・・)
愛が、憎しみに変わる瞬間でも有ったろう。
兎も角も、彼女は小牧を傷付けて仕舞ったのである。

優二は、咄嗟の事だが、ここは穏便に済ますべきだと思った。
傷は深いとは言ったが、フォークの尖リ具合を考慮すると、それ程まででも無さそうである。
店がパニック状態の中、ママさんを呼び、警察などは呼ぶなと念を押した優二は、応急処置を済
ませた小牧をおんぶして、取り敢えず表へと出た。
タクシーに乗り、病院へ行くためである。

病院では、EmergencyRoomに通された。
まあ、早い処置でよかったのであろう。
血は、さほど流れずに済んだ。
小牧は、流石にショックだったのか、目が虚ろになっている。
優二とも、殆ど口もきこうとはしない。

手当が終わると、優二は、小牧を彼のコンドへ送り届けた。
『今日はもう、何も考えるな、明日は仕事を休めよ、俺から支社長に言って置くから・・・』
優二は、それだけを言って、そこを出た。
そして、アイリーンの店に戻ったのである。
店は、平静を取り戻したのか、普通に営業を続けていた。

考えてみれば、先程は、幸いにも早い時間だったから、優二達の他に、客は居なかった。
居れば、もっと大変だったかもしれない。
新聞沙汰にでもなったら、会社に傷がつく・・・
そうなれば、小牧は勿論、優二や支社長も、只では済まないであろう。
それはそうと、アイリーンの事である。

刺したのは良いが、自分がやったことにショックを受けて、控室で失神しているそうだ。
後日談だが、彼女はこのせいで、子供を流産してしまっている。
優二は未だ、その事実を知らない。
失神しているとは言え、彼女の無事を確認した優二は、ママさんにくれぐれも口止めをして、
自分のコンドへ帰ることにした。

彼は、精神的にも肉体的にも、物凄くクタクタだったが、自分の部屋でもっと大変な目に遭う。
ジュリアのことである。
優二が遅くなるということに腹を立て、彼女は、ビールをしこたま買ってきて飲んで居たのだ。
『やっと帰ってきたかあ・・・』
虎のように吠えるジュリア・・・

優二は、もう泣きたくなった。
酒臭い息を吐きながら、ジュリアは優二にしつこく絡んでくる。
遅れて帰った、理由を聞いていくるのだ。
優二が幾ら仕事の為だと言っても、ジュリアは一切耳を貸さない。
ずっと責め続けていたと思えば、今度は泣きだした。

優二は、もう宥めるのに必死である。
その内、ようやく泣くのが終わったと思ったら、今度はげえげえとモドし始めたから堪らない。
(トホホホ・・・)
今日の優二は、踏んだり蹴ったりだった。
ピーナと暮らすということが、これほどの試練になろうなどとは、思っても見なかった優二である。


続く・・・
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