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マニラKTV悲話 その㊴ 波乱の幕開け [小説]

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夜になった。
優二とジュリアは、第③ラウンドを終えたばかりであったが、そこに、岩崎から電話が入った。
直ぐに、自分の部屋まで飛んで来い、との命令である。
(支社長は、大分おかんむりのようだな・・・)
優二は、電話の向こうでの、岩崎の口調でそう察していた。

(休みを延長したので、怒っているのかな・・・)
そう思ったが、それは病気だということで、彼も納得したはずだ。
優二は、不思議に思ったが、取り敢えず急いでシャワーを済まし、岩崎の部屋へと向かった。
部屋の前で、ドアチャイムを押すと、不機嫌な顔の岩崎が顔を出す。
彼は、優二を部屋の中に招じ入れると、のっけからこう言った。

『君い、何てことを小牧君に言ってしまったんだね?、俺に子供を産ませた愛人が居るなどと
・・・、あれだけ念を押しただろう、これだけは、絶対に秘密だとな・・・』
開口一番、岩崎は、優二を睨みつけながら、そう言う。
『えっ、そんなことを小牧は言ったんですか?』
(そう言えば、覚えがある・・・)

確か、小牧にコンドの事で、頼み込んだ時のことだ。
優二は、うっかりと、小牧に岩崎の秘密を、漏らして仕舞っていたのである。
『ああ、言ったんだよ、小牧はな、俺に今直ぐ日本へ帰らせてくれと、泣き付いて来ているんだ、
今回のことは、秘密にして置くという条件でな・・・』
『・・・・・・・』

『どうやら、事情が飲み込めないようだな・・・』
優二は、岩崎の言うことが、全く理解出来なかった。
話が長くなりそうなので、ここは、作者が代わって説明しておこう。
昨夜のこと、小牧が青い顔をしながら、岩崎のコンドを訪れた。
昼間から、何か言いたげな小牧だったが、会社では余程言い難かったのであろう。

夜になってから、岩崎を訪問してきたのである。
『用事とは、一体何だね?』
岩崎は、プライベートの時間を邪魔されに来たので、些か機嫌が悪い。
『ええ、実は大変なことになりました・・・』
小牧は、目を虚ろにしながら、岩崎にそう言った。

『支社長、聞いて貰えますか・・・?』
『だったら、グズグスせずに、さっさと言い給え、俺も、プライベートの時間とはいえ忙しんだ。』
『はい、では聞いて頂きます。』
小牧の用件とは、例のいつも通っているKTVの女の娘、『アイリーン』との話しであった。
実は、彼女が妊娠したらしい。

体調を崩し、アイリーンが病院に行った所、妊娠2ヶ月との診断を受けた。
何度も言うようだが、小牧は赴任組の中では、一番先に渡比してきてる。
アイリーンに最初に出会ったのも、11月の中頃の話だ。
今はもう2月の終わりだから、確かに計算は合った。
小牧は、アイリーンからその報告を受け、青くなってしまったのは言うまでも無い。

妻帯者で有った彼は、その店では独身で通していたのである。
つまり、嘘を付いていたのだ。
結婚を約束まではしないが、やりたいが故に、暗に匂わせたことは有る。
これが、命取りになったのだ。
彼女は、当然、責任を取って貰えるものと思っていた。

が、小牧は、その場を適当に誤魔化し、そのままコンドに帰ってしまった。
そして、何とかほとぼりが冷めるまで、店には行かないでおこうと思ったのだ。
と、言うより、そのまま捨てたかったに相違ない。
しかし、アイリーンからは、毎夜のようにテキストが着弾する。
脅すような文面などは一切ないのだが、そこはそれ、後ろめたく思っている小牧であった。

全てのテキストが、彼を責める文面のように感じられたのである。
彼は、段々と、精神的に追い詰められて来た。
プライベートの電話ではなく、会社が契約している電話番号を彼女に与えていたため、容易に
は、電話番号を変えれられない。
変えるには、それなりの理由が必要だからである。

しかも、悪いことに、アイリーンには、コンドの場所も教えていた。
ホテル代の節約のため、彼は自分のコンドに彼女を呼んでいたのだ。
日本に家族が居るし、家を建てたばっかりで、何かと物入りの小牧だったのである。
しかし、このままではいけない。
あまり、長いこと放って置くと、アイリーンが、コンドに乗り込んで来るとも限らないのだ。

それで、岩崎に、相談に来たというわけである。
彼は、何とか理由を付けて、日本へ逃げて帰りたかった。
その為に、彼は手段を選ぶような男ではない。
岩崎に、正直に話をした小牧は、含み笑いをしながら、彼にこう言った。
『支社長にも確か、子供を産んだ、愛人がこちらにいらっしゃるのですよね・・・?』


続く・・・
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