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マニラKTV悲話 その㊸ 逆転! [小説]

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『俺にも考えがあるぞ!』
のっけから、優二にそう強く言われた小牧は、彼の勢いに、少しタジタジになった。
『か、考えがあるって何だよ?』
何とか、態勢を整えようとしたが、逆にどもってしまった。
優二は、ここぞとばかりに、少し声を荒げながら、更にこう言う。

『昨夜、アイリーンに会って来た、あれは、絶対にお前の子供に間違いないよ、彼女の顔を見れば
分かる、お前も男だろう、男なら男らしく、潔く認めたらどうなんだ?』
『・・・・・・・』
優二と小牧は、何度も言うように同期である。
しかし、最初に出世したのも小牧だし、結婚もとっくに済ませて仕舞って、今では二児の父親だ。

小牧は、優二の事を、独身主義者のお気楽者と見ていた。
出世に対して、自分をアピールするわけでもなく、結婚にも、消極的であった優二である。
ところが、この男が恋をした。
お相手は、比国のKTV嬢・・・
これが、日本を出発する前、小牧に、住居の事で泣き付いてきた男と、同一人物だとは思えない。

立て続けに連発する優二の責め言葉に、二の句が継げないでいる小牧である。
態勢は、整った。
優二は、ふっと気を逸らすような、話題に変えた。
『ところで、奥さんの敦子さんとは、しょっちゅう連絡を取っているのかい?』
武道で言うなら、間を外すというところであろう。

一瞬気を抜いたふりをして、相手を誘いこむのだ。
小牧は、見事にそれに引っ掛った。
『あ、ああ、三日に一度くらいは、国際電話を掛けてるよ・・・』
こういう話題なら、小牧にだって返事は出来る。
だが、次に優二が言った言葉が、小牧にはグサッと来た。

『でもまあ、この事を敦子さんが知ったら、さぞかし悲しむだろうな・・・』
『お、お、お前・・・・』
小牧は、一瞬にして顔が青くなった。
『も、若しかして、あ、敦子に告げ口しようって言うのか?』
小牧は、青くなった。

『告げ口だって、人聞きの悪い事を言うなよ、まあ、最も、お前がどうしても責任を取らないと言う
のなら、その時には、それを考えないでは無いな・・・』
『・・・・・・・』
『悪いけどな、昨日の昼のお前との会話、あれ録音させて貰ってるよ・・・』
『げ、げげえ・・・』

勝負は、決した。
小牧は、敗れたのだ。
人を陥れようとするものは、人に陥れられる・・・
が、落ち込んでいる小牧に、優二は、小牧を責めているばかりでは無かった。
『まあ、俺が相談に乗るよ、兎に角、ここから逃げる算段だけはよせ、支社長もお困りだ。』

『わ、分かった、頼む・・・』
優二は、アイリーンの希望や、言い分も聞いてやらねばならない。
兎に角、結婚が出来ない事は、百も承知なのだ。
その上で、彼女をどう納得させれば良いのか?
取り敢えず、小牧の代理人として、優二は、再び彼女に会うことにした。

小牧から、アイリーンの電話番号を聞き出し、退社後に、外で会う約束を取り付けた。
一夜明けたばかりなので、アイリーンは、まだ気持ちの整理が、付いていないようである。
些か、両目が腫れぼったいのを見て、優二が思わずこう言った。
『本当に、大丈夫?』
『はい、大丈夫です・・・』

蚊の泣くような、小さな返事をするアイリーン。
『小牧のことなんだけど、取り敢えず、君の子供のことは認めたよ・・・』
『そうですか・・・・・』
彼女は、そう聞いても、特に表情を動かさない。
『そこで、俺は、今後の事を小牧から任された、先ずは、君の希望を言ってみて呉れないか?』


続く・・・
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