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マニラKTV悲話 その㊼ 鬱・・・ [小説]

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優二は、思わぬことで、小牧の仕事まで兼任することになったが、これには更なる弊害を伴った。
帰宅時間が、大幅に遅くなったのである。
しかも、コンドを、オフィスよりも遠くに設定していたため、通勤時間も余計に掛かる。
小牧が居なくなって、彼が住んでいたコンドには、空きがあるにはある。
が、支社長の岩崎が、優二を、そこに転居さすことは許さなかった。

自分の思い通りになる男を、彼が側から離す筈がない。
コンドの契約は、1年間だ。
そう考えると、後7ヶ月も、契約期間が残っている。
優二とジュリアは、一緒に暮らすようになってから、早3ヶ月が過ぎようとしていた。
一応だが、人の勧めもあって、1年間は、二人で同棲をしようということになっている。

その後、お互いに問題が無いのなら、結婚という段取りになるのであろう。
それはいい。
最近の優二には、非常に困った問題がある。
ジュリアの精神状態が、不安定なのだ。
突然泣いたかと思うと、ゲラゲラと笑うことも有る。

嫉妬深さも、月日を増す毎に、酷くなって行くようであった。
遅く帰る度に、服に口紅が付いていないかとか、香水の移り香が無いかとか、一々厳しく調べる。
これでは、溜まったものではない。
会社の用事で遅くなるのだが、ジュリアは信じて呉れないのだ。
その内、彼女は、会社まで優二の様子を、こっそりと、見に来るようにもなっていた。

それも、優二には内緒である。
優二は、ジュリアと暮らしていることを、実は誰にも知らせてはいない。
無論、支社長の岩崎にもである。
彼とは、住んでいる階も違うし、行動時間も違うので、滅多に顔を合わすこともない。
最も、彼の部屋に呼ばれれば、別だが・・・

それは、ある金曜日のことであった。
今日は、週末で、会社の連中と飲み会だと言って、コンドを出た。
こういう日は、余計にジュリアは機嫌が悪いのだ。
いつもは、玄関先まで見送って、KISSをしてくれるのだが、今日はそれも無かった。
(やれやれ・・・、こんな調子がいつまで続くのやら・・・)

優二は、思わざるを得ない。
この時点で、やっと優二は理解をしたのである。
大橋もよく言っていたが、ピーナと暮らすと言うことは、余程の覚悟が、必要だということをだ。
かと言って、ジュリアが嫌いになったという訳ではない。
愛してはいるが、どうにかしてあの性格だけは直させたかった。

国民性で仕方が無いのだが、優二は、まだ修正可能だと信じていたのだ。
さて、優二・・・
仕事が終わり、彼は職場の皆を先導して、今日の宴会場へと向かった。
勿論、支社長の岩崎や、副支社長の吉本など、日本人スタッフも同席である。
本日は、新卒採用したスタッフ3人の、歓迎会なのであった。

優二の会社では、男一人の、女二人が今回採用された。
中でも、容姿端麗のミッシェルは、男性社員の注目の的である。
今日で入社5日目だが、優二でさ、えすれ違った時は、胸がどきっとする程の美人で有った。
一行は、会場である、近所の日本食レストランへと、歩いて向かう。
優二は、総務の責任者を兼ねているから、当然幹事だ。

先頭を切って、歩いていた。
その時である。
一番後ろから、とことこと付いてくるジュリアの姿を見た。
(又か・・・)
こんなことは、今日で3度目である。

彼女は、いつも隠れて行動しているつもりらしいが、優二は全て確認していた。
ただ、今迄は、黙認していただけのことである。
どうせ浮気はするつもりは無いので、彼は、堂々と振る舞うだけで良かった。
食事会には付き合っても、KTV店だけは、優二はあれ以降、行くのを自分で固く禁じている。
彼女はこういう時、食事が終わる頃まで優二を見張り、その後タクシーで先回りをして帰宅をする。

このパターンなのだが、優二は、今日こそはジュリアに言い聞かせねばならない。
彼は、全員を会場に入れた後、自分一人だけ店の外に出た。
勿論、ジュリアを探すためである。
彼女は、その店の向かいのファーストフード店に居た。
恐らく、そこで優二を見張ろうとしているようだ。


続く・・・
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