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マニラKTV悲話 その㊻ 帰国 [小説]

帰国飛行機.jpg

翌日になった。
結局優二は、朝方まで、ジュリアの面倒を見さされた。
今日は土曜日だが、彼達は出勤日である。
ジュリアは、あれだけ暴れたら流石に気が済んだのか、ベッドですやすやと眠っている。
取り敢えず、会社に行き、支社長に一連の出来事を、報告しなければならない。

優二は、シャワーをしてから、会社に向かった。
支社長には、会社の専属の運転手が居る。
彼は、先に会社に出てきていた。
小牧は、勿論であるが、出社をしていない。
岩崎の部屋で、二人は密談を始めた。

ここなら、誰にも邪魔はされないであろう。
優二は、昨日までの一連の出来事を、包み隠さずに岩崎に話して聞かせた。
勿論、ジュリアのことは内緒だが・・・
岩崎は、話を聞き終わると、ふ~と溜息を付く・・・
『残念だが、小牧はもう終わりだな・・・』

『えっ、それはどういうことですか?』
『もう、日本へ帰って貰うことにするよ。』
『・・・・・・・』
『まあ、君の報告が本当だとすると、彼は、傷を負っているんだろう?』
『は、はい。』

『それは、暴漢に襲われた事にするんだな、その事も在り、小牧はこの国が嫌になり、日本へ帰
りたくなった、これなら誰も傷付かずに済むだろう・・・奴も、君の脅しに屈しているのだったら問題
はない、俺への脅迫もこれで帳消しだ。』
明快なほどの、岩崎の裁きである。
これなら、小牧の帰国は、自分の落ち度では無くなる。

小牧は、会社が出入りを禁止している繁華街で、暴漢に襲われた事にするのだ。
彼の、自己責任で、会社が判断したと言い訳が出来る。
アイリーンのことは可愛そうだが、これも仕方が無いかもしれない。
何しろ彼女は、小牧に傷害を与えて仕舞ったのである。
優二は、少し心が痛かったが、後にアイリーンが流産したということを聞き、逆にほっとした。

(可愛そうだが、これはこれで、彼女のためには、良かったのかも知れない)
彼は、その時にそう思った。
小牧は、岩崎に引導を渡されて、当初の希望通りに、日本へと帰ることになった。
まあ、体面はかなり落ちるが、それでも、職を失うよりはマシである。
小牧は小牧で、これでほっとしたろう。

彼は、妻子の待つ、日本へと帰っていった。
帰国寸前のある日、岩崎は、小牧にこう言ったものだ。
『呉れ呉れも、奥さんを大切にな・・・』
小牧は、岩崎が本当は何を言いたいのかを、直ぐに察知した。
俺のことをバラせば、お前も只では置かないぞと、暗に念を押されたのである。

『は、はい大事にします・・・』
小牧は、それだけを答えるのがやっとだった。
彼の出世は、これで大分遅れるかも知れない。
それはさておき、今回のことで、岩崎は、優二を見直す思いをしていた。
小牧にうっかり、自分の秘密を漏らしたことは大失点だったが、その後の処置は見事だった。

会社の体面を考え、KTV店への口止めをする配慮など、咄嗟の対応は、岩崎を満足をさせるもの
で有ったに違いない。
又、困難でも、責任を全うしようとした姿勢にも、好感が持てる。
その事も在り、岩崎の推奨で、優二は経理の仕事だけでなく、総務の仕事も任されることになった。
その分、手当も余分に貰う事になったが、その事は、彼の生活に大きな影響を与えることになる。


続く・・・
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