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マニラKTV悲話 その㉚ 破局 [小説]

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(げええ・・・・・・・)
優二は、心の底から驚いた。
正直、ジュリアが、そこまでするとは、考えても見なかった彼である。
カレンの表情は、更に厳しさを増すばかりだが、優二は、取り敢えず事情を訊かなくてはならない。
懇願に懇願を重ねた結果、やっとのことで、カレンは口を開いた。

カレンの話によると、ジュリアは自分達のアパートに帰ると、ベッドに入り込んで、シーツを頭から被
ったまま、泣きじゃくり始めたらしい。
カレンが、幾ら彼女を問い詰めても、泣くばかりで、ジュリアは何も答えようとしない。
妹に、何か有ったのだろうとは察したが、ジュリアは非番でもカレンには仕事があったので、彼女は、
ジュリアを暫く放って置いて、自分はシャワーをすることにした。

カレンがシャワーを終えると、ジュリアがカレンのアレルギーの薬瓶を握りしめたまま、ベッドに仰向
けに倒れている。
驚いたカレンは、ジュリアを抱き起こしたが、既に意識が朦朧としていた。
薬瓶の中身は、自分の持病の薬で、日本人の彼氏に特別に送って貰った、抗ヒスタミン剤である。
こんなものでも、大量に飲めば、命の危険に関わるものだ。

カレンは、急いで車を手配し、ジュリアを病院に運び込んだ。
病院に到着すると、医師は胃の洗浄を直ぐに行ったが、ジュリアの意識は消えたままだった。
その上で、カレンは優二を呼んだのである。
カレンは、この件について、優二が何らかの事情を知っていると、確信していた。
女が、真意はどうであれ、兎も角も自殺を図ったのだ。

原因は、男に決まっている。
となれば、原因は優二以外には思い付かない。
カレンに取っては、可愛い妹の一大事である。
カレンの、凄まじい追求が始まった。
これに、いつまでも耐え切れる優二ではない。

彼は、観念して、カレンに、正直に全てを打ち明けた。
優二からすべてを聞いたカレンは、深い溜息を付いている。
(だから、言わぬことではないのだ、自分が妹のことを守りたかったのは、ここにある・・・)
カレンは、妹を守りきれなかった責めを、優二によりも、自分に対して持っていた。

カレンは、それ以上、優二を責めなかったが、最後にこう言った。
『話は全部わかったわ、もういいからあなたは帰って頂戴、そしてもう2度と妹に近づかないで!』
『・・・・・・』
『今度近付いたら、私はその時こそ、貴方を許さないわよ!』
カレンは、そう脅すと、優二の背中を押し、彼を部屋の外に追い出したのである。

優二は、カレンに対し、取り付く島も、為す術(すべ)も無かった。
彼は、がっくりと肩を落としながら、愛する人の病室を出て行った。
そうして、せめて病院の支払いをと思い、病院の事務室を訪れた優二である。
その中で、医者とも話をし、ジュリアの様子を聞いた。

まあ、様子を見ながらだが、多分、3日も入院すれば、元通りになるであろうという診断である。
優二は、3日分の入院費も含め、10万ペソのデポジットもカードで入れた。
返金があれば、彼女達に渡して欲しい・・・
彼は、そう言い残し、病院を出た。
帰り際、優二はジュリアの病室の方へ目を向け、ふ~と深い溜息をついた。

これで、完全にジュリアを失ったのだ。
思えば、とんでも無い事をしてしまったものである。
(あの時、太虎にさえ行かなければ・・・)
とも悔やんだが、やはり自業自得なのだと、思い定めた優二である。
興味本位で付いて行ったものの、別に、アンナを買わなければ済んだ話だからだ。


優二は、この悩みを大橋にでも聞いて貰おうかとも思ったが、自らを恥じてそれは止めにした。
(こんな、無様な自分を、人に見せられる筈がない。)
そう思い直し、大人しく、コンドへ帰ることにした優二である。
彼は、晩飯も食わずに、タクシーに乗り込んだ。
月明かりが、妙に眩しく感じる夜であった・・・


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉙ 自殺未遂・・・ [小説]

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部屋の中に入って行った優二は、そこに居たジュリアを発見した。
泣きながら、コンドームの数を数えていた彼女をである。
『ど、どうしたのジュリア・・・』
異様な雰囲気に、一気に包まれた優二は、辛うじてそれだけを言った。
『それを、聞きたいの・・・?』

地獄の底から出てくるような低い声で、ジュリアが優二にそう尋ねる・・・
彼は、その恐ろしい声にどぎまぎしながらも、こう聞かなければならい。
『な、何で、コンドームなんか数えてるんだ・・・?』
恐る恐る聞いたが、ジュリアの表情は、益々鬼のような様相になり、優二をキッと睨みつけた。
『私、知っているのよ・・・』

ジュリアが、更に恐ろしさを増した声で言う。
『・・・・・・・』
『あなた、私の他に女を連れ込んだわね・・・』
『うっ・・・?』
『しらばっくれても無駄よ、隣に住んでいる人に聞いたんだから・・・』

『そ、それは・・・』
優二は、何とか言い訳しようとしたが、急場で言葉にならない。
『コンドームが、5個足りないわね・・・』
『ああ・・・・・』
優二は、その言葉で、全てを察した。

(こいつは、全てを知っている・・・)
そう思ったが、全てが後の祭だ。
それからは、当然のように修羅場であった。
その辺の物を、ひっくり返すようにして、ジュリアがありとあらゆるものを、優二に投げつけた。
必死で、それを耐える優二・・・

しかし、一旦火のついた状態のジュリアの怒りは、そんなもので納まる気配はない。
いくら、優二が宥めても、ジュリアはキチガイのようになって、優二の頬を打ち続ける。
何せ、自分の処女を奪った愛しい男が、そんなに日も経たない内に、自分を裏切ったのだ。
ジュリアは、本当に優二を、心から愛していたのである。
あの、厳しいけど本当は優しい姉を、裏切ってまで・・・

暫くの間、ジュリアは優二を打ち続けていたが、、その内、泣きながら部屋を出て行った。
優二は、追い掛けようとしたが、修羅場を外に持ち出しそうな気がして、行くのをやめて仕舞った。
(どうせ追い掛けても、直ぐに仲直り出来るわけが無い・・・)
自分の中で、優二はそう言い訳をしていた。
優二が、ここで追い掛けていれば、後の事態は、防げたのかも知れないのにだ。

だが、彼はそれを怠った。
ジュリアのことよりも、体裁(ていさい)の方を優先させたからである。
その夜、突然、優二にカレンから電話が来た。
電話の向こうで、カレンは慌てている様子である。
『兎に角、今直ぐ来て頂戴、病院の名前は◯◯◯・・・』

あまり聞き取れなかったが、カレンの話では、ジュリアが病院に運ばれたらしい。
理由は、現在(いま)のカレンも知らないという。
優二は驚いて、その病院に向かうべく、急いで部屋を出た。
丁度その時、隣に住むエミリーを見掛けたが、今はそれどころではない。
優二は、タクシーを飛ばして、病院へ向かった。

病院に到着し、病室へ入ると、カレンが心配そうにジュリアの寝顔を見つめているのが目に入った。
優二も、青い顔をしながら、ジュリアの顔を覗き込む。
どうやら、彼女は昏睡状態らしい。
『あなた、何か知ってるんでしょう?』
カレンが、冷静な声で優二を問い詰める。

『ジュ、ジュリアは一体・・・?』
『彼女は、自殺しようとしたのよ・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『私の持病の薬を、一瓶丸々飲んだんだわ・・・』
カレンは、そう言うと、表情を一変させて、思い切り優二を睨みつけた。


続く・・・


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マニラKTV悲話 その㉘ 過ち・・・ [小説]

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優二は、大橋とアンダルに別れを告げると、その娘を連れて自分のコンドへと帰っていった。
『帰りのタクシー代は、別に渡してやれよ・・・』
別れ際に大橋は、にやりと笑いながら、そう言ったものである。
部屋に入ると優二は、酒を飲んだ勢いを借りて、直ぐにアンナをベッドに押し倒した。
ジュリアの時のように、遠慮などは微塵も無い。

荒々しく服を脱がせると、下着まで一気に剥ぎ取り、挑みかかった優二である。
この辺は、やはり優二も男であった。
本能で、身体が動いていると言って良い。
下着の向こうは、やはり、想像した通りのナイスバディーである。
小柄な割には、大きなおっぱいにくびれた腰、お尻などは雪のように白い。

アンナは、女としての、全ての武器を持っていたと言って良かろう。
その身体つきを見た優二は、興奮度を更に増して来たのか、上から下まで、むしゃぶりつくよ
うにして、アンナの身体を弄(まさぐ)る。
ジュリアは、未だ経験も少ないせいか、乳首などの感度も弱かった。
しかし、このアンナは全く違う。

吸い付くような肌を持っており、優二のつたない愛撫にも、声を出して反応してくれるのだ。
生まれて初めての経験に、優二は相当酔い痴(し)れていた。
圧巻は、インサートの時だ。
コンドームを使用しているにも関わらず、あそこが切れるのではないかと思うくらい、局部を
締め付けて離さないアンナである。

『ううう・・・』
彼は、こらえ切れなくなったのか、思わず発射してしまった。
この行為が、こんなにも気持ち良いものだと、生まれて初めて知った優二である。
ベッドの上で仰向けになりながら、優二は余韻に浸っていた。
が、少し休憩を挟むと、優二は、再びアンナに挑み掛かる・・・

何の事はない。
次の日は仕事なので、アンナを早く帰らすつもりでいた彼であったが、とうとう、その夜中中
やりまくってしまった優二である。
(ああ、何て気持ちがいいんだ、やっぱりたまには他の女もいいもんだな・・・)
ついついそう思ってしまった優二だが、やはり、男の身勝手というものは、仕方が無い。

気が付けば、夜は、もうとっくに明けている。
優二は、部屋の外で、別れ間際にも、彼女にこう言った。
『又会えるかな?』
『うん、いいわよ・・・』
そう会話をして、二人は電話番号を交換して別れたのである。

その時、隣の部屋のドアがすっと開き、二人の別れ際を見た者がいた事に気付かずに・・・
さて、次の日曜日・・・
今日は、優二の休みと、ジュリアの休みが珍しく重なる日であった。
そうなると、当然デートと言うことになる。
ジュリアは、今日も優二に食事を作る予定だ。

もう、待ち合わせなどは必要ない。
優二のコンドは、勝手知ったる、我が家と同じである。
ジュリアは、優二から、合鍵を渡されていた。
優二の家に行く前に、ジュリアはハリソンプラザで食材仕入れに向かう。
その時である。

買い物をしていると、見たことのある女性が、彼女に声を掛けてきた。
『ああ、あなたは・・・』
見ると、優二の隣の部屋に住んでいる、銀行勤めのエミリーであった。
彼女は、35歳で独身。
マネージャ-で、収入はあるが、婚期を逸したのか、未だに独身のキャリアウーマンである。

ジュリアとも、何回か優二のところを訪れる内に、顔見知りにはなっていた。
『あら、又、彼の所に行くのね?』
エミリーは、少しジュリアを憐れむような口調でそう言った。
ジュリアは、不審そうに・・・
『はい、そうだけど、どうして・・・?』

不思議そうな顔をして、エミリーを見詰めるジュリア。
エミリーは、いかにも心配そうな顔をしながらこう言う。
『あなたの彼、大丈夫かしら・・・?』
『えっ、優二がどうかしたの?』
『ああ優二というのね、でもあなた知ってる?、彼、この間違う女を連れ込んで居たわよ。』

容赦なく、そうジュリアに伝えるエミリー。
(ガーン、ガーン、ガーン・・・)
ジュリアの頭の中で、マニラ大聖堂の鐘の音が、勢い良く鳴り響いていた。
(絶対に、嘘に違いない・・・)
彼女は、エミリーへの挨拶も忘れて、買い物も途中で放り出し、優二のコンドへと向かった。

ドアベルを鳴らしたが、生憎と優二は出掛けていて居ないのか、ドアは開かなかった。
時間の約束まではしていなかったので、その間、買い物にでも出掛けたのかもしれない。
ジュリアは、仕方なく合鍵を使い、部屋の中に入る。
彼女が、優二の部屋で先ずしたこと。
それは、彼がいつもコンドームを入れている、キャビネットの中をチェックすることである。

彼女は、優二がゴムを大量に買い込んでいるのを、一緒に買いに行ったから知っていた。
一番最初の時と違い、ジュリアは完全な避妊を望んだからである。
妊娠でもして姉にバレたら、それこそ大変だからであった。
彼女は、何度も数え直したが、どう数えても5個程足りなかった。
一箱3個入っているのを、計算の上である。

彼女は、数える内に、自分でも血の気が引いていくのが分かった。
でも、彼女は優二を信じたかった。
いつの間にか、涙が頬を伝っていたが、彼女はそれを拭おうともせずに、延々と数えなおす。
その時である。
鍵が開く音がして、優二が部屋の中に入って来た。


激動の来週に続く・・・


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マニラKTV悲話 その㉗ 暗黒喫茶・・・ [小説]

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(暗黒喫茶にパトロール・・・???)
優二には、一体何のことだか理解が出来ない。
しかも、この男ときたらどうなのであろう。
大橋から、暗黒達磨太子と紹介を受けたが、体型は、確かに達磨そのものであった。
頭の小丸に、身体の大丸・・・

見事なまでの、達磨体型であった。
『略してアンダルさ・・・』
大橋は、笑いながらそう言った。
アンダルは、大橋と常々、暗黒喫茶と名付けているカフェに、入り浸っている。
まあ、パトロールと称してはいるものの、そこに出入りしている女の娘をチェックしているだけなのだ。

勿論、本人達には邦人旅行者を暗黒星人(ここでは性悪ピーナ)から守るという、大義名分が有った。
売れ残りの女の娘が集まる店として、そのカフェは有名なのだが、時にはセットアップに嵌めるような、
悪い輩も出入りしているらしい。
まあ、それでも、交渉次第で一夜の恋愛が成立するので、旅行者にはお手軽のようである。
しかし、それだけに、充分に気を付けないといけない場所ではあった。

そのカフェの本当の名前は、別にあるのだが、大橋が面白がって付けた名前が暗黒喫茶である。
兎に角、そこへ優二も連れ立って行ってみようというのが、大橋とアンダルの提案であったのだ。
優二は、思わず行くと返事をしてしまった。
何やら、面白そうだとな思ったのだ。
飯を食い終わると、3人は、早速暗黒喫茶へと向かった。

『う~ん、これが暗黒喫茶ですか・・・?』
優二は唸ったが、時間が早いのかまだ女の娘の出入りが少ない。
大橋の勧めで、優二達はビールを飲んで待つことにした。
今日は、別にジュリアとも約束をしていない。
(少し、羽目をはずしてみるかな・・・)

優二は、自惚れが嵩じていた時でも有り、ついつい、そう思ってしまった。
その時である。
優二の目に、一人の可愛い娘が止まった。
幼顔だが、ボディは素晴らしい身体つきの娘だ。
一瞬、優二は我を忘れるくらい、その娘に見入ってしまった。

『ああ、あのアンダルさん・・・』
『ええ、どうかしましたか?』
『あのう、ここにいる娘なら、誰でも連れ出せるんですか?』
『そうですね、交渉が成立なら大丈夫だと思います。』
『お、優二君、誰か気に入った娘でも居るの?』

横で飲んでいた大橋が、優二の方に目を向けてそう言った。
『は、はい、実は・・・』
優二は、そのナイスバディの女の娘の方を指差した。
『ああ、あの娘はあまり見掛けない娘だな、多分新顔だろう・・・』
流石に、暗黒警備隊長の大橋である。

出入りしている女の娘達のことは、殆ど把握しているものと思われる。
大橋は、直ぐに女の値踏みをしたのか、アンダルに指令して、優二の代わりに交渉に当たらせた。
『4000だそうです。』
アンダルが、そう言いながら戻って来た。
『何い、ふざけるな!』

大橋は、怒気を発しながらそう言い捨てると、自分自身で交渉に向かった。
暫くその娘と話をしていたが、やがて、その娘を連れて席に戻って来た。
『朝まで、2000でいいそうだぜ。』
『はあ・・・・・・・』
興味本位で聞いて貰っただけの優二だが、こうなったら、もう連れて帰るしか無いと心に決めた。


続く・・・

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マニラKTV悲話 その㉖ うぬぼれ・・・ [小説]

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姉のカレンの目を気にしながらも、優二とジュリアの蜜月は、年を越してからも暫く続いた。
今回の正月は、赴任早々ということも有り、優二は日本には帰ってはいない。
半月遅れで赴任して来る筈だった部長の岩崎も、変更で、年明け過ぎてからの渡比になるようだ。
優二は、そういうことも有り、のんびりと駐比人生を謳歌している。
そんな中、嫉妬深いのは相変わらずだが、ジュリアは、見違えるほどに色気を増して来ていた。

カレンは、何かしら薄々感じてはいたものの、ジュリアと優二がそんなにも深い間柄になっていると
までは、気付いていない。
相変わらず、自分には従順な妹のままだと、心の底から信じていたからだ。
何せ、父親を早くなくし、遠く離れた母親代わりに、ずっと妹の面倒を見てきたカレンである。
『惚れるな、触らすな、やらすな』の、3つの教訓は、守り続けているものだと、信じて疑わなかった。

で、一方の優二は、どうであろう。
彼はその頃、ジュリアの元を訪れる回数を、大幅に減らしていた。
勿論、ジュリアとの合意の元にである。
節約の為といえば聞こえは良いが、彼もやはり男であった。
浮気心が芽生えたのである。

優二は、小牧の誘いで、あれから2、3度『珍獣の森』に行ったのだが、そこの女の娘達に、不思議に
モテる自分に気が付いた。
まあ、35歳で言葉が出来て顔がそこそこなら、獲物を探しているKTV嬢にモテるのは仕方が無い。
彼は、ジュリアとの密会を楽しむのと、違うKTVの女の娘にモーションを掛けられる内に、自信を超え
る感情を持つようになってしまった。

つまり、自惚れて来たのである。
ジュリアをものにして自信を付けた彼は、フィリピン嵌りのオヤジに有りがちな勘違いぶりを、発揮し
始めたと言うわけであった。
ジュリアの店に行くのは、週に2度か3度。
その他の日は、『珍獣の森』など、違う店に行くことも増えた優二である。

正月など、吉本や小牧達が帰国した後に、優二は、『珍獣の森』の女の娘とデートまでしていた。
特に口説くようなことはしていないのだが、自分の魅力を、試してみたくなったのである。
マカティの、ショッピング街でのデートであった。
まあ、ここならマラテからは離れているし、ジュリアにもばれないであろう。
この時の優二は、自分の魅力=金と若さとルックス という構図に気付いていない。

あくまでも、自分はモテると信じているのだ。
確かに、表面上ではそう見える。
が、しかし、それがフィリピーナの打算(見極め)に依るものなどとは、少しも思わなかった。
有頂天の優二には、そういうことなどは、見える筈も無かったのである。
兎も角、初パルパロを済ませた優二は、余計に自信を付けてしまったようだ。

ある夜の事、優二は久しぶりに、『太虎』で飯を食うことにした。
久しぶりと言ったのは、最近では、マカティ方面で飯を食うことも多い優二だったからだ。
『ああ、いい所に来たね、飯を食ったら、少し散歩に行かないか?』
店に入った途端、大橋が優二に声を掛けた。
『えっ、何処に行くんですか?』

優二は、少しどぎまぎしながらそう言った。
大橋からそういう提案を受けるのは、、初めてのことだったからである。
『その前に、この男を紹介するよ。』
彼は、一人の男を指差しながらそう言う。
指で差されたその男は、すっと立ち上がると、優二にこう挨拶をした。

『ああ、初めまして、大宮と云います。』
『又の名を、暗黒達磨太子だよな・・・』
大橋が、そう言った。
『そう言うアダ名を、この大将から付けられたんです、もし良かったら、これからその暗黒喫茶にパトロ
ールに一緒に行きませんか・・・?』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉕ 初体験2 [小説]

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作者と読者がイライラする中、食事後のジュリアと優二とは何も進展が無かった。
優二達は、テレビを付けて、日本の放送を見ている。
今は、インターネットを通じて、世界中何処ででも、日本のテレビ放送は見ることが出来るのだ。
大橋の友達に岡田と言うのが居て、彼に取り付けて貰ったのである。
岡田は、中国から直接機器を買い入れ、格安で比国内で取り付け販売をしていた。

サッカーには目がない優二は、これだけは非常に重宝している。
しかし、ずっとジュリアにハマり続けている彼は、テレビを見る機会など、殆ど無いと言っていい。
平日の午後の事とて、碌な番組も無かったが、他に見るものも無いので、単につけているだけだ。
言い忘れたが、優二は、今日は半日の休暇を取ってある。
ジュリア達は、店の方針で、基本的に、金、土、日は休めないからであった。

そうなると、どうしても優二の方で、休みを取らないと、休日デートは出来ないと言うことになる。
ジュリアは、日本の再放送ドラマを食い入って見ているように見えたが、実は気はそぞろであった。
彼女は、優二が求めて来るなら、身体を許す気でいたのである。
姉の、余りのジュリアに対する厳しさの反動が、ここに来て現れて来たのかもしれない。
(私は、もう子供ではないのだから・・・)

そう思い定めて来た割には、優二はソファの隣りに座っていながら、手も伸ばして来そうも無い。
こうなると、女の方が色には賢いものだ。
しきりに優二を誘うように、彼の手をいじりはじめたのである。
この信号に気が付かなければ、流石に優二は男では無かろう。
一気に、ジュリアを押し倒すと、キスをした。

そして、そのまま彼女を抱えると、ベッドルームに向けて突進する優二である。
それから、小一時間が過ぎた。
彼の体液は、確実に3cc程減っていた。
そう、とうとう彼は、ジュリアに思いを遂げたのである。
しかし、先程は吃驚した。

終わった瞬間、ジュリアがこう呟いたからである。
『バイバイ、アコのバージン・・・』
驚いた優二だが、下腹部をよく見ると、確かに彼女は出血していた。
インサートの時、結構抵抗が激しかったので、そうかなとも思ったのだが、本当であったのである。
ジュリアは、正真正銘のバージンであった。

勿論、優二は童貞ではない。
その筋の女性に、すっかりとお世話になったことが数回はある。
但し、彼は今、心から感動していた。
とうとう、彼女の身体と心を、自分のものにしたのだ。
優二は、男冥利に尽きると、自分で自分に感動していたのである。

しかしこの事が、後に優二の命をも脅かす事件に繋がろうとは、この時は思いも寄らなかった。
シャワーを終えた二人は、まだ余韻を楽しむかのように、再び抱き合ったのである。
夜の九時になり、カレンがジュリアに電話をしてきたので、彼女は仕方なく帰っていった。
ジュリアの帰った後は、流石に優二は虚しい。
もう少し、一緒に居たかった優二とジュリアであった。

こうなると、姉のカレンのことが、邪魔者に思えてならなくなるから不思議である。
(彼女さえ居なければ、例え明日の朝まででも、ジュリアと一緒に居ることが出来たのだ・・・)
優二は、そう思うと、カレンのことが恨めしくて仕方がなかった。
(どうすれば良いのかな・・・?)
彼は、そう思ったが、これと言って良いアイデアも浮かばなかった。

本当は、ジュリアと真剣に付き合いたいと言うのが筋かもしれない。
しかし、優二はいつもジュリアの口から、カレンの恐ろしさだけの話しか聞いていなかった。
(絶対に反対されるだろうな・・・)
そう思うと、カレンに直接言うのが怖くて仕方が無い。
全くもう、飛んでもない弱虫男を、主人公にしてしまった作者ではある・・・


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉔ 初体験 [小説]

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優二とジュリアは、ハリソンプラザで待ち合わせということになっている。
優二は徒歩で、ジュリアはジープで、初乗り運賃の距離であった。
ほぼ時間通りに現れたジュリアを見て、優二はどぎまぎしている。
思えば、前回の渡比時には、苦い思いをさせられた。
時間遅れの上、同伴を他の客に盗られるという、優二にとっては、大屈辱の日であった。

それから数回、デート(同伴)の度に、来るか来ないかと、やきもきさせられる優二であったのである。
こういうのを、トラウマというのであろうか?
傷ついた心の深さが、それを物語っていた。
さて、優二、ジュリアと手を繋ぐと、『何をする?』と、彼女に尋ねた。
『お腹が空いたわね、私、貴方の部屋で料理でも作ろうかしら・・・』

(か、家庭料理かあ・・・)
思わず、優二の心は踊った。
今までに彼女が殆どいなかった彼にとって、こんなことを言われたのは初めてである。
ということであれば、こんな所にグズグズしている場合ではない。
二人は、急いで買い物を済まそうと、スーパーマーケットに向かった。

『で、何を作ってくれるの?』
『アドボというフィリピン料理よ、食べたことがある?』
『いや、無いな、だって俺はいつも日本食ばかりだから・・・』
『だったら、今日が初めてね、分かったわ、じゃあ私が美味しいのを食べさせて上げる・・・』
『嬉しいな、有難う・・・』

優二は、素直に礼を言った。
現に、毎夕食はいつも『太虎』だし、昼間会社で頼む弁当も、日本食レストランからの仕出しである。
ジュリアとの同伴時も、食べるのはいつも、系列の日本食レストランであったのだ。
その方が、店に入る時間を、遅らす事が出来たからである。
二人は、買い物を済ますと、優二のコンドに戻った。

『わあ、広いわね・・・』
ジュリアは、部屋の中に入ると、第一声そう言い放った。
が、部屋の中の物といえば、大型テレビに、オーディオ機器などは充実していたが、台所用品に至
っては、相当に貧弱なものである。
彼は、元々自炊が苦手なのだ。

作れるものといえば、インスタントラーメンくらいしか無い。
後は、中型のフライパンが一つである。
セミ家具付きの部屋だったので、ソファやベッド冷蔵庫、エアコンの他は、自分で買い揃えなければ
ならなかったのだ。
ジュリアは、包丁やまな板は、前の住人が置いていったのが、辛うじて残っている。

必要な調味料は、先程買い揃えた。
ジュリアは、ラーメン鍋とフライパンでアドボを拵えることになる。
何とかこなして作ったが、肝心なものが無いことに二人は気が付いた。
ご飯が、無かったのである。
(ええい、一体何をやってんだ?)

作者は、もうイライラが募り、頭が爆発しそうである。
折角、サブタイトルに初体験と書いたのに、これでは、そこまで話が進まないではないか?
若しかしたら、フィリピン料理初体験と、作者はオチを考えたのであろうか?
何れにしても、姑息な小説を書く作者ではあった。
その時である。

優二が、作者に助け舟を出した。
そう言えば、インスタントのご飯を、荷物に入れていた筈だと思い出したと言うのだ。
これなら、お湯か電子レンジで温めれば、直ぐに食べられるではないか・・・
こうして、遅い昼食で有ったが、優二とジュリアは、仲良くご飯を食べることが出来たのであった。
さて、その後は・・・???


初体験2へ続く・・・(爆)
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マニラKTV悲話 その㉓ 恋愛・・・ [小説]

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作者の心配を他所(よそ)に、優二は、無事に出勤していた。
彼とて、やはり日本人である。
2日連続の遅刻が、どういう結果を招くかというくらい、分からない筈がない。
但し、酷い寝不足ではあった。
これは、仕方が無いであろう。

昨夜、コンドに帰ったのは、やはり夜中の12時を回っていた。
ジュリアのことで頭が一杯だったので、どうしても寝付きも悪い。
9時の出勤時間に間に合わせる為に、朝の6時には目を覚ましたが、多分睡眠時間は4時間位だ。
これからの優二は、いつも、睡眠不足との闘いになるのかも知れない。
35歳という若さゆえに、これしきのことは何でも無いのであろう。

優二は、その日の仕事を、ぼーとしながらも、大過なくこなす事が出来た。
それからの優二は、やはり毎晩のように、『太虎』とジュリアのもとに通うのが日課になっている。
コンド→職場→太虎→KTV→コンド、が、優二の日常であった。
その後、不思議なことに、何と作者の妨害もなく、初デートもこなした優二である。
初休日になった土曜日に、同伴を申し込んだのだ。

映画、ショッピング、夕食と、優二の思い通りに事が運んで行った。
特に、買い物では、ジュリアの好きな物は何でも買い与えた優二である。
これを、2,3週も繰り返したであろうか?
ジュリアの心境にも、やっと変化が現れた。
毎日のように通ってくる男を、憎かろう筈がない。

時に、彼女が他の客から指名を受けて中座した時など、優二がヘルプに着いた女の娘と仲良くして
居るのを見ると、嫉妬の念に駆られる事が有ったからだ。
そういう時にジュリアは、優二の席に戻った瞬間から機嫌が悪かった。
兎に角、優二に当たり散らすのである。
優二には、その理由がさっぱりと分からない。

それが、ジュリアの優二に対する愛情表現の一部だとしても、恋愛経験の少ない優二には、分かる
術(すべ)が無かったのである。
『なあに、それは縄張り(テリトリー)意識だよ、自分の物(彼氏)を盗られるとでも思い、威嚇している
だけでさあね・・・』
大橋にでも言わせると、こうなるのかも知れない。

が、ジュリアは違っていた。
姉のKTV3鉄則の教え、『惚れるな、触らすな、やらすな』 を、今は忘れようとしていたのである。
ジュリアも、まだまだ若い。
その為に、姉に従順であり続けた彼女だが、優二に恋をすることで、少し自立心が芽生えて来ている
のかも知れなかった。

それやこれやで、多少ジュリアのことを持て余す時もある優二だが、二人の仲は概ね良好だと言える。
が、何れこのジュリアの嫉妬が、異常なまでに増幅し、優二にとって、恐ろしい事件を引き起こすことに
なろうとは、この作者でさえ想像が付かなかった。
その話は暫く置き、話は一気に、ジュリアの月に一度の休日に飛ぶ・・・
この日、ジュリアは優二から、自分のコンドに来ないかと誘われていた。

しかし、この話は姉には言えない。
言えば、猛烈に反対するに決まっているからだ。
妹のジュリアに会いに、毎日店に通ってくる優二を、カレンはそんなに嫌ってもいない。
寧ろ、優しい独身の男ということで、好意を持っていた。
しかし、これが妹の彼氏になるということとは別である。

彼女は、あくまでも妹が心配なのである。
カレンも昔、今の日本人の彼氏が出来る前は、他の日本人に騙された経験がある。
彼女が、やはり19歳の時であった。
妊娠が発覚した時に、その男は逃げた・・・
だからこそ、妹のジュリアには、同じ道を歩んでは欲しく無かったのである。

その後、彼女は出産したが、その事実は、今の彼氏には知らされていない。
彼女達の田舎、パンガシナンという所で、両親の元に引き取られていたが、以前述べたように父親は
既に死亡しているため、母親と、学生である弟と妹とで、育てているようだ。
ジュリアは、いつもより早く起きると、姉に友達の所に行くと嘘をつき、家を出た。
勿論、優二の所に行くためである。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉒ 疑惑の氷解・・・ [小説]

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カレンは、よく喋る・・・
いや、喋りすぎるほどに喋った。
優二が、再会の記念だと言って、LD代わりに、シャンパンを1本入れてやったからである。
優二は、カレンからテキ-ラの話を聞き、テキーラに悪意を持つようになっていた。
その代わりと言っては何だが、シャンパンを入れることにしたのだ。

これでも、数杯分のLDにはなる。
ポイントの足りなかったこの姉妹には、非常に有難かった。
カレンは、喜びのあまり、野口の悪口を仕切りに言い始めた。
その方が、優二が喜ぶと思ったのだ。
さて、話を少し前に戻そう。

カレンの話によると、野口は偽装結婚のブローカーなのでそうである。
ジュリアには、それを目的に近付いた。
数回客のふりをして女の娘に近付き、その後、偽装結婚を持ち掛ける手口なのだそうだ。
野口はあの後、数回ジュリアに通ったらしい。
しかし、それに気付いたカレンがジュリアを防御した。

諦めた野口は、今度はジーナに手を染めてきたというわけだ。
真相は、全て飲み込めた。
まあ、誤解は完全に解けたのである。
優二が大喜びしたのは、間違いない。
『明日も又来るね。』

優二がそうジュリアに約束した頃には、既に深夜の3時を超えていた。
既に、閉店の時間である。
優二は、ジュリア達にお休みを告げ、飲み過ぎのまま、コンドに帰っていった。
次の日、と言っても既にその数時間後だが、優二は二日酔いのまま会社に行くことになる。
マニラの交通事情を知らない彼は、大幅に遅刻したのは言うまでも無い。

約、1時間近くも遅刻して、副支社長の吉本に、こっ酷く叱られた優二である。
『何故、コンドを会社の近くにしなかったんだ?」、とも彼に言われて困ってしまった。
小牧は、その叱られる優二を見て、ほくそ笑まざるを得ない。
出世のライバルが、何せ初日でこけたのである。
ざまあみろとは言わないが、優二は確実に出世の道から遠ざかるな、と位は思ったであろう。

この時の小牧は、何れ、自分もそれ以上の目に遭うことなどを、知る由もなかったのである。
それはさて置き、初日から散々の優二であったが、退社時から急に又元気が出てきた。
(今日は、コンドには戻らず、真っ直ぐに太虎へと向かおう・・・)
そう思った優二の目的は、無論、食事後のジュリアである。
優二は、大橋に会うと、開口一番、昨日の野口の話をした。

大橋の話によると、野口は、常連の客ではないという。
多分、2回位は見たことがあるそうだ。
『まあいいさ、今度この店に来たら、あんな奴出入り禁止にしてやる・・・』
吐き捨てるように、そう言った。
大橋は、偽装結婚などという姑息な手段を、最も嫌っていたのである。

そいつらのお陰で、まじめに結婚を考えている人間が、迷惑を蒙ると言うのであった。
それもその筈で、偽装結婚が蔓延ると、日本側で、防止策の為に結婚ビサなどの、書類審査が
厳しくなる。
つまり、偽装でないことを証明するために、時間と手間が余計に掛かるのだ。
大橋は、ブツブツ言いながら、奥へと入って行った。

さて優二は?
食べ終わると、早速U店に向かった。
携帯電話で連絡をしておいたお陰なのか、ジュリアは、優二を待ってくれていた。
二人の会話は、、それから長く続けられていく・・・
優二よ、明日は果たして起きられるのか?

続く・・・
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マニラKTV悲話 その㉑ 再会・・・ [小説]

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(何故、あの男がこんな所に・・・???)
優二は、流石に動揺を抑えきれなかった。
若しかしたら、連れてきている女の娘の中に、ジュリアも居るのかとも思ったのだ。
もう一度振り返ってみたが、幸い?なことに、彼女は居なかった。
が、一人だけ顔見知りが居る。

何と、あのU店のジーナではないか・・・
野口は、3人の女の娘を連れていたが、その中の一人は、やはりジーナであった。
(野口とジーナ・・・)
優二の頭の中では、この二人がどうしても結びつかない。
突然、優二とジーナの目が合った。

ジーナは、何故か謎の微笑を優二に送っている。
優二は、思わず目を逸らせてしまっていた。
野口を見て驚いたあまり、引きつっている顔を、ジーナに見られたくなかったのだ。
(しかし、これはチャンスではないか?)
この時間なら、同伴というわけでもあるまい。

(今なら、あのU店に行けば、邪魔者無しでジュリアに会えるかもしれない・・・)
明日はフィリピンでの仕事始めの日だというのに、優二は、そんなことを思い始めていた。
既に、時計の針は、午後11時30分を過ぎた所だ。
しかし、優二は野口の顔を見て、急に火が付いてしまったようである。
大橋への挨拶もそこそこに、彼は太虎を飛び出して行った。

そうやって、U店に、倒れこむようにして入って来た優二である。
店の者も、その優二の勢いには、驚いたに違いない。
日本の会社の経理部で、あの落ち着いた仕事振りの男とは、まるで別人のようであった。
ともあれ、店の者に案内されて、席に着いた優二である。
ショーアップよりも、ジュリアが居るかどうかを先に確かめた。

居ますということなので、優二は早速にリクエストをする。
暫くすると、ロングドレスで、髪に軽くウエーブの掛かったジュリアが席にやって来た。
『あら・・・』
優二を見ると、少し恥ずかしそうにして、彼の隣に座ったジュリアである。
『久しぶり・・・』

ジュリアは、そう片言の日本語で言った。
『元気だった?』
優二も、そう切り返すだけがやっとだ。
『私は元気です、この間はごめんね・・・』
ジュリアは、少ししおらしくそう言う。

『いいんだよ、もう・・・』
そう言った優二だが、実はあの時の理由が気になっていて仕方が無い。
暫く沈黙が続いたが、やはり優二の方から切り出した。
責めるのではなく、優しく問いかける優二に、ジュリアは、全て本当のことを話した。
それを聞いた優二は、ほっと一安心したが、まだまだ不安は抜けない。

その後の、野口のことが気に掛かっていたのだ。
彼は、何故ジーナと太虎にいたのであろう?
ジュリアとの、その後の関係は・・・?
矢継ぎ早に、そうジュリアを問い詰めると、彼女は、話すのを拒否してしまうかもしれない。
(ここは、慎重に聞き出さないと・・・)

そう考えた優二は、その席に姉のカレンを呼ぶことにした。
丁度月末で、締め日だったことも有り、カレンは喜んで優二の席に来た。
『あらあ、久しぶりですね、この間はジュリアがごめんね、 私がちゃんと怒って置いたから・・・』
流石にカレンは、ベテランである。
流暢な日本語で、優二にそう言った。


続く・・・



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