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マニラKTV悲話 その⑲ コンド [小説]

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『な、何で、俺がぶ、部長と同じコンドなんだよ?』
優二は、今にも食って掛からんばかりの勢いで、小牧にそう詰め寄った。
『仕方が無いよ、部長命令だからさ・・・』
『部長命令・・・???』
優二には、何がなんだか分からない。

ここは、小牧に変わって、著者が説明しておこう。
副支社長の吉本と支社長の岩崎は、元々仲が良くない。
まあ、謹厳実直な吉本と、一見豪放磊落、実は結構だらしのない岩崎と、反りが合う筈がなかった。
事ある毎に半目までとは行かないが、お互いが、嫌っていたのは間違いない。
今度のコンド探しでも、そういう理由で、岩崎から小牧に指示があったらしい。

吉本と別のコンドを探すように言われた小牧は、岩崎に、実は優二も別のコンドを望んでいると、岩崎
に告げて仕舞った。
そこで、岩崎は、小牧にこう告げたのである。
『ああ、それは好都合じゃないか、じゃあ、福田くんと同じ住居でいいよ。』
と、つまり、そういう理由なのだ。

これには、優二は逆らえない。
部長が決定した事項なのである。
ぐうの音も出なくなった優二は、少し開き直って小牧にこう言った。
『分かったよ、分かったから、さあ、俺をそのコンドに案内してくれ・・・』
小牧に案内されたそのコンドは、パサイという地名に有った。

マラテ近辺が希望ということで有ったが、不自然に会社から遠すぎるし、安全面でも不安がある。
そこで小牧の選んだのが、ハリソンプラザというモールの近くにあるコンドであった。
だが、実際ここからマカティに通うには、渋滞は避けて通れない。
しかし、その事を、岩崎も優二も全く知らないのだ。
コンドを探した小牧でさえ、その事実を知らなかった。

日系ではない、地元の不動産屋に頼んだ結果がこれである。
それは、まだいい。
後々、分かることであった。
ともあれ二人は、引き続きチャーターしてあるバンに乗り込むと、そのコンドに向かったのである。
優二は、比較的広めの、ワンルームタイプの部屋に案内された。

吉本たちの部屋に比べても、格段と言っていいほど広い。
小牧の説明によると、家賃の違いだそうである。
まあ、土地の価格が違うのであろう。
その点、優二は一発で気に入ってしまった。
狭いのが、苦手な性質(たち)だったからである。

優二を送った後、小牧は自分のコンドへと帰っていった。
優二には、これからやることがゴマンと有ったのである。
既に送られてきていた荷物の整理、足りない物の買い出し、そうそう、携帯電話もこちら用のを買わ
ねばならない。
以前は、これが無かったばっかりに、苦労をした。

日本で使っていた携帯は、国際ローミングで使えはするが、やはり、通話料に問題が有り、こちらで、
買うのが一番使い良いはずだ。
それはさて置き、今日の夜は、マカティで吉本達との食事会が入っている。
まあ、軽い壮行会のようなものであろう。
それまでの短い間、優二は部屋の片付けに追われた。

が、中々思うようにははかどらない。
(この分じゃ、店に行けるのは月曜日の夜かもな・・・)
優二は、そう思えてきた。
明日は、朝から買い出しに追われるであろう。
(まあ、ここまで来てるんだ、焦ることもなかろう・・・)

そうは思いはしたものの、やはり、ジュリアに早く会いたい優二ではある。
しかし、会社の業務に支障が出るのだけは、何とか避けなければならない。
その為に、明日中に片付けを終えないといけないのは、優二にも分かっていた。
彼には、たったそれだけ、まだ理性が残っていたと言えよう。
優二の、眠れない夜は、まだまだ続くようである。


続く・・・





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マニラKTV悲話 その⑱ 再渡比・・・ [小説]

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『はあっ?』
話を聞いた小牧は、もう呆れてしまっている。
(この男は、海外赴任を良いことに、女のほうを優先しようとしている・・・)
いや、その通りであろう。
優二の頭の中には、最早、仕事という文字はなかった。

この千載一遇の機会を、利用するだけ利用してやろうと、考えていただけである。
そういう意味では、彼は完全に、死者に舞い戻って仕舞っていた。
理性を完璧に失っている彼を、小牧は冷静な頭で判断している。
(この男には、もう出世の見込みはないな・・・)
小牧にしてみれば、ライバルの脱落ほど嬉しいものはない。

彼は、そう思うことによって、自分の不満も慰めることが出来たのである。
『おお、任せておけ、とびっきりのいい所を探して置いてやる。』
彼が、二つ返事で請け負ったのは、言うまでも無かろう。
『小牧、有難う、有難う・・・』
と、礼を繰り返す優二を見ながら、心の中で笑っている小牧であった。

さて、12月1日は月曜日である。
優二達赴任組は、その前々日の土曜日が、マニラへの移動日となった。
部長の岩崎だけは、国内の引き継ぎが少し遅れるため、半月ほど赴任が遅れるらしい。
それまでの指揮は、営業部の副部長である吉本が、副支社長として取ることが決まっていた。
吉本は岩崎と違い、堅物で真面目一方の、仕事には厳しい人物である。

その吉本を先頭に、一行は成田空港を出発し、一路マニラに向けて飛び立った。
機中でも、優二の胸の内は、又もやジュリアで一杯になっている。
(真相を知るために、早く彼女に会いに行かなければ・・・)
最終日に会えなかっただけ、余計に酒精成分のようなものが強いのか、酔ったように、そう心の中で
繰り返す優二であった。

優二の会社は、何度も言うように食料品会社である。
自社で製造する製品もあれば、ワインや洋酒などの輸入販売も行っている。
まあ、多岐に渡って多くの食料品を扱っているのだが、フィリピンからは、主にバナナチップスとかのス
ナック類の仕入れもするらしい。
勿論、こちらでの自社製品販売にも力を入れていくつもりだ。

主力商品であるインスタント食品を始めとして、この所経済成長著しいこの国の市場に魅力を感じて
いるらしく、市場調査の上、日本から次々と出店しているコンビニなどと提携し、販売網を広げる戦略
だそうだ。
業務内容などは、経理の優二には一見関係なさそう思えるが、この先の彼の運命を決める上で重要
な事柄になるので、一応触れておく。。。

支社長は岩崎、副支社長は吉本、それに総務、経理、営業から、それぞれ一人づつ選出されていた。
つまり、日本人は全部で5人ということになる。
多いのか、少ないのかは分からない。
が、この下に、現地人のスタッフがそれぞれ付き、総勢20人余りの会社の体制になるらしい。
マニラ国際空港から、小牧がチャーターしたバンに乗り、一行は会社の有る所在地へと向かった。

支社は、マカティのARNAIZアベニュー(旧パサイロード)という場所にある。
空港からは、車で約30分位の距離だ。
が、多少混雑していたので、50分程掛かってしまった。
あるビルの一室が、彼らの職場となる。
一行は、事務所を見学した後に、早速に住居の確認となった。

小牧の説明によると、副支社長の吉本以下3人は、会社から歩いて5分程のコンドであるらしい。
日本食レストランや、グロセリーが近い、便利な場所だということだ。
『さあ小牧、それで俺の住処は何処なんだ?』
3人をそのコンドに見送った後、優二は小牧に向かってそう尋ねた。
『ああ、お前は岩崎部長と同じコンドだよ・・・』


続く・・・
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マニラKTV悲話 その⑰ 海外赴任 [小説]

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優二が、旅行代理店に相談に出かけようとした』その当日、優二たちの会社に、フィリピン支社が出来
るという話が、突然持ち上がって来た。
部長クラスでは、岩崎が移動との噂が有力になっている。
経理畑出身だが、彼が支社長として赴任して行くと言うのだ。
次期役員候補筆頭の彼としては、海外の支社長赴任はその手前の恒例人事に過ぎない。

(だから、岩崎部長が、自分は近々又フィリピンに行くかも知れないと、匂わせていたのか・・・)
優二は、その時初めて合点がいった。
岩崎は、予め社内にそういう動きが有ることに、気付いていたのである。
恐らく、常務あたりに、内示を受けていたものと思われた。
こういう場合、役員会で決定すると、矢のような人事が発表される。

赴任候補としては、他に、営業部や総務部からも係長クラスが行くし、経理部では当然英語の出来る
優二が筆頭であった。
その話が明るみに出たので、優二は当然のように、旅行代理店に相談に行くのを延期した。
事がはっきりするまでは、動くべきではないと判断をしたのだ。
それから、僅か3日後・・・

(信じられないな・・・)
もう、心が宙に浮くぐらい、優二の心は喜びで踊っていた。
予想通り岩崎が、経理担当人事で、優二を指名したのだ。
優二にとっては、望んでも望み切れない程の、夢が叶った格好である。
(これで、無理をしてまでも、フィリピンに行く必要が無くなった・・・)

単純に喜んだ優二だが、初渡比をする前なら、格下げに感じられるフィリピン赴任など、悲しいの一言
だったかも知れない。
どうせ海外支社に行くのなら、シンガポールやタイに、赴任したいと思っていた優二である。
が、今やフィリピンは、優二にとって、喉から手が出るほどに行きたい場所になっていた。
人間の喜怒哀楽など、ほんの運命の悪戯(いたずら)で、ころころと変わるものらしい。

さて、12月1日の赴任日まで、あとまだ3週間はあった。
そこで、総務部からは、優二と同期の小牧が、先行してフィリピン入りをすることになったのである。
支社が置かれるのは、ビジネス街のマカティというところに決まっていたが、小牧の役割は、駐在員の
住居を探したりすることである。
優二と違い、彼にとって、この人事ほど恨めしいものは無かった。

その話は後回しにして、残りの赴任組は、その間に国内のことを整理しないといけない。
海外赴任は、会社の規定で最低2年間と決められていた。
そうなると、優二は、今住んでいるアパートも、引き払わなければならないであろう。
不動産屋への連絡、電気やガスや水道、新聞等の後始末、不要品の整理及びにフィリピンに送る物
の準備等に、追われなければならない。

そういった忙しさの合間に、優二、は出発前夜の小牧と一緒に、外へ食事に出掛けた。
小牧は、妻帯者である。
二人目の子供が生まれたばかりで、会った途端に愚痴が始まった。
家族と一緒に赴任なら良いのだが、優二の会社では、3年以上の赴任で無い限り、家族を連れての
赴任は認められなかったのである。

『これほど、ツイてない人事もないよ・・・、折角二人目の子供が生まれたばかりだというのに・・・』
小牧の愚痴をしこたま聞かされた優二であったが、一方で、彼は喜びを隠しきれなかった。
終始笑顔で、小牧の不満を聞くものだから、小牧にはそれが面白くない。
『何かお前、本当に嬉しそうだな・・・』
そう言われた優二は、次のように言った。

『まあまあ、俺のことはいいじゃないか、しかしさあ、海外赴任は出世の前提だし、お前もこれを、チャ
ンスだと思えばいいんだよ。』
優二は、小牧を宥めるように言ったつもりだが、小牧は余計に反発してこう言った。
『お前は独身だからいいさ、俺には妻子がいる、しかも生まれたばかりの娘がもう可愛くてなあ・・・』
小牧は、もう泣かんばかりの落ち込みようである。

『お前の気持ちはよく分かるよ、でもこれも会社命令だ、仕方が無いさ・・・』
散々、あやすように、小牧を慰める優二だが、彼は如何にも無念げに、ビールを空けるばかりである。
納得しない小牧だったが、、優二は、彼にに自分の事情を説明しなくてはならない。
でないと、今日、小牧をここに呼び出した意味が無いのだ。
優二は、思い切ってこう小牧に切り出した。

『そう落ち込むなよ、ところでな、お前に折り入って頼みが有るんだが・・・』
優二は、全てを打ち明けた。
話の都合上、岩崎の秘密まで、小牧に漏らしてしまった優二である。
話を聞いて驚いている小牧に向かって、優二はさらにこう言った。
『俺の住居だがなあ、その店の近くにどうにかならないか?』


続く・・・



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マニラKTV悲話 その⑯ 帰国・・・ [小説]

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優二は、ホテルには帰ったが、心の中にポッカリと穴が開いたようで、虚しくてならなかった。
恋愛経験が豊富だと、立ち直るのも早いのであろうが、生憎と、優二にはそれが無いに等しい。
悶々と眠れない夜を過ごしたが、朝になってから、部長の岩崎にとどめを刺されて仕舞った。
電話で起こされた後、彼は部屋に呼ばれたのである。
部長は、優二の顔を見ると、早速こう切り出した。

『君、もう俺のここでの用事は済んだ、そこでだ、今日の宿泊はキャンセルして、午後便で日本に帰国
することにしたからその積りでな・・・』
『・・・・・・・』
『何を黙りこんでいるのかね?、分かったら部屋に帰って、とっとと帰り支度をし給え・・・』
部長の言葉は、一方的だった。

多分、昨日優二に袖にされたので、ご機嫌が悪いようである。
ジュリアには振られ?、部長の機嫌を損ねてしまった優二は、もう何も為す術はなかった。
実は、もう一度今晩店を訪れ、ジュリアに事の真相を確かめたかったのである。
でないと、本当に中途半端な気持ちを抱えたまま、帰国することになる。
しかし、本当に何もかも遅かった。

せめてこの気持を、『太虎』の大橋だけには分かって貰おうと店に出向いたが、彼は居なかった。
が、南原は居たので、簡単に事情を説明をしてそこを出た優二である。
彼なら、もう一度あの店に行き、ジュリアに事情を説明してくれるかもしれない。
そう期待して、一万円の軍資金を、南原に渡してしまった優二であったが、南原は、『はいよ』と言って
そのお金を受け取ったものの、彼は何もする気は無かった。

何も知らない優二は、日本への帰国の途に就いたが、不機嫌な岩崎の機嫌を取るのに、それからが
大変だったのである。
サラリーマンの悲しさ・・・
優二とて、朴念仁ではない。
既に、現実に戻っていた彼は、ここで岩崎に目を付けられたら、日本での仕事上で大きな支障になる。

それくらいの道理と結果が、分からぬ優二ではなかった。
積極的に、岩崎のアンティポロでの話を聞く内に、彼の心もようやくほぐれて来たようだ。
ポツポツと話し始めたが、まあ彼の話だと、子供は、岩崎本人の子供だと認めさせられたらしい。
その上で、養育費だが、毎月10万円を送ることで話がつき、子供が生まれたら、再び渡比することも
約束させられたよと、優二に語る岩崎である。

『でもなあ君、別に出産後でなくても、俺は、近々又戻ってくるような気がするよ・・』
何故か、岩崎は謎めいた発言をしたが、優二は、この時は気にも止めなかった。
それはともあれ、岩崎は置いといて、優二の初渡比とは、一体何だったんだろう?
たったの3泊4日だったが、思いがけぬ恋愛をしてしまった。
こんな気持になったのは、生まれて初めての経験である。

確か、中学時代に初恋はしたが、その時は片思いに終わった。
しかし、その時は、これ程の気持ちにはなっていない。
まあ、子供時代の恋愛というものは、春の淡雪のようなものであろう。
直ぐに溶けてなくなり、早く気持ちも切り替えられる。
だが今回のような、あんな中途半端な終わり方は、大人の彼には、悔やんでも悔やみきれなかった。

優二は、そう言う気持ちを抱えたまま、日本で仕事を続けなければならないのが辛かった。
(いつかはもう一度・・・)
優二がそう思い続けたのも、無理はあるまい。
しかし、年末までは、長期休暇などは、どうしても望めなかった。
(2~3泊程度なら、多少は行けるかも・・・)

そう思いはしたが、しかし、また中途半端で終わるのは、もう絶対に嫌だ。
帰国後2週間が経ったある日、優二は決断し、年末に、有給休暇を含めて、7泊8日という旅行プラン
を建てることにした。
これくらいあれば、今度はいろいろな意味で充分であろうし、岩崎という邪魔者も居ないはずである。
(よし、このプランを明日旅行代理店に持ち込んで、相談してみよう・・・)


続く・・・



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マニラKTV悲話 その⑮ 失恋・・・ [小説]

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ジュリアと優二は、お互いに目が合ってしまった。
何も知らずに、悠然と優二たちの席を通り過ぎて、奥の席に向かう野口・・・
優二とジュリア・・・
二人の胸に、去来するものは一体何か・・・
(何故、ジュリアが他の男とこんな時間に・・・)

優二の心の中は、嵐の海のように、疑惑と嫉妬で揺れまくっていた。
最早、彼は死者ではない。
恋する男から、嫉妬に狂う男に、たちまち変身してしまっていたのである。
それを見ていたジーナは、心の中でほくそ笑んでいた。
上手く行けば、優二をジュリアから取り込めるかもしれない。

KTVの中は、いかに綺麗事を並べようが、女達の戦場なのだ。
お金を使ってくれそうなお客は、虎視眈々と狙われる運命である。
さて、一方のジュリアは、優二に顔を背けるようにして、そのままドレッシングルームへと消えていった。
彼女には、罪悪感など、全くと言って良いほど無い。
(自分は、仕事をしているのだから・・・)

事情は説明していないにしろ、それを理解出来なければ、それは男のほうが悪いのだ。
そう考えていたし、第一、彼女は優二がそういう気持ちでいることなど、夢にも思って居ない。
現に、自分以外の女の娘を指名して楽しんで居るではないか・・・
ジュリアには、単にそう思えただけなのである。
一方の優二は・・・

(自分との同伴よりも、他の男の同伴を優先させたのか・・・)
そう考えると、彼は心が千切れるくらいに痛い。
論より証拠で、現に二人は同時に店に入って来たではないか・・・
ジーナは、この状況を察すると、何とか優二の気を引こうと躍起になっていた。
しかし、優二の反応は、彼女の方には全く向いて来ない。

逆に、鬱陶しかっただけである。
優二は、真相を何とかして知りたかった。
ここで、本来なら、自分のアピールよりも、ここはジーナが間を取り持つべきであろう。
ジュリアと話をして、真実を優二に伝えれば済む話である。
が、彼女は、積極的にそれを怠った。

別に、ジーナとジュリアとは親友の仲ではない。
KTV嬢の世界では、親友同士の結束は固いが、単なる同僚だけでは、ほぼ敵同士と行って良い。
敵というのは大げさかもしれないが、まあ、ライバルには違いなかろう。
繰り返すが、そこは彼女達にとって、生きるために真剣な職場なのだ。
店によっては、競争心を煽るため、指名の多さ順に、ランク付けを行っている所も珍しくもない。

一方、そこへ通う男達はどうなのか?
そういう彼女達に、モテたいが為に、そこに行くのである。
あわよくば、口説いてホテルやコンドへ連れて帰りたい。
下心満載で、臨む場所なのである。
優二のように、相手の仕事を純愛と勘違いした男が、一番不幸になる場所と云えよう。

さて、下心満載のお客はどうなるのか?
男の予算と女の打算が一致すれば、恋愛が成立するであろう。
一夜限りであろうが、囲うのであろうが、女の打算がそれを許せば、後は男の予算次第である。
最も、全ての女性に、これが当て嵌まる訳ではない。
身の固い女の娘も、沢山存在するのも事実だ。

その固さも、時間を掛ければ、柔らかくはなる女性も中には居よう。
そうやって、打算を引き出すのも、男のテクニックと言うものかも知れない。
ともあれ、優二には、そこまでの知識と余裕というものは無かった。
只、真っ直ぐに、ジュリアを見ていただけなのである。
そうこうする内に、彼は、次第にこの場に居たたまれなくなって来た。

疑惑と嫉妬が激しく嵩じて来て、自分を抑えるのが困難になっていたのである。
このままで居れば、気が狂いそうだった。
優二は、ジーナが引き止めるのを振り払うようにして、急いで精算を済ませると、逃げるようにして、
ホテルへと戻って行った。
暗い、小雨の降り続く夜の中を・・・


続く・・・


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マニラKTV悲話 その⑭ 嵐の予感・・・ [小説]

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勿論、彼女は悪気があって遅れたわけではない。
立場上、あくまでも、昨夜の彼女の仕事上のやむを得ない都合で、遅れてしまったのである。
一方、優二はどうなったのか?
実は、彼は5時近くまでは待ち続けていた。
彼女が来ないなどとは、優二には、どうしても考えられなかったからである。

5時前になり、彼は待つのを諦めた。
事情を知るために、連絡を取ろうにも、取れないことにも苛立っていた。
携帯電話を盗まれていたこともあり、ジュリアの電話番号を、聞き出していなかったからである。
(多分、何らかの事情があって来れなくなったに違いない・・・)
優二は、そう思い込むほかはなかった。

(後で、店へ行って確かめるしか無いな・・・)
優二はそう思い直し、一人寂しく飯を食うべく、『太虎』へ向かうことにした。
さて、場面をジュリアに戻そう。
優二を探した彼女だが、見付からないのでアパートに帰ろうとした時、ある男に声を掛けられた。
振り返ると、そこに立っていたのは、昨夜テキーラを飲ませてくれたお客さんである。

彼の名は、確か野口と言った。
『おっ、ジュリアじゃあないか、一体何処に行くの?』
流暢なタガログ語で、彼はそう聞く。
昨夜出会った時よりも、些か若い感じがした彼に向かって、ジュリアはこう答えた。
『いいえ別に・・・、少し買い物しようとしただけです。』

彼女にだって、配慮は有る。
他のお客との同伴の約束をしていたことなど、おくびにも出す筈がない。
『じゃあ、これから一緒に食事でもしないか? 良かったらお姉さんも呼んだらいい、勿論、同伴でも
構わないよ。』
ジュリアは、優二に対して、特別な思い入れなどはまだ無かった。

デートに遅れたことに対しても、先程述べたように罪悪感も殆ど無い。
まだ、姉のカレンのことを、気に掛けていたくらいである。
ジュリアの寝坊のせいで、同伴が成立しなかったことに対して、姉の怒りに触れるほうが余程怖い。
野口の誘いは、ジュリアにとって、渡りに船であった。
二つ返事で、野口の誘いに乗ったジュリアである。

ジュリア達が働いているお店は、その系列店で食事をすると、午後9時までの入店が許されていた。
カレンと合流した3人は先ず、野口の提案で、SPA に行くことになった。
ジュリアにとっては、初SPAであった。
『川忠』いうSPAには大きな浴槽やサウナが有り、ゆったりと寛げた上、酒気などすっかりと抜けた気
分にさせてくれたので、ジュリアは、すっかりここが気に入ってしまった。

そのころ優二は、『太虎』で簡単に食事を済まし、ジュリア達が所属している『U店』に向かっていた。
早くジュリアに事情を聞きたくて、気もそぞろな優二である。
到着すると、直ぐに席に案内された優二だが、横に座ったのは、残念ながらジュリアではなかった。
昨夜もヘルプで席に着いて、優二に同伴のやり方を教えてくれたジーナである。
彼女は、席に付きながら優二に尋ねた。

『あら、今日はジュリアと同伴じゃあ無かったの?』
『う、うんそれが・・・』
優二は、言い難そうに、ジーナに事情を話した。
『ああ、そう言えば、彼女昨夜は相当酔っ払っていたわね。』
『ええ、そうなんだ?』

『そう貴方が帰った後、彼女を指名したお客さんが、テキーラを1本飲ませてたわよ。』
『・・・・・・・』
『カレンと二人でそれを飲んでいたわ、多分今日はそれで気分が悪くて、休むんじゃ無いかしら・・・』
ジーナの言葉に半信半疑だった優二だが、8時半を回っても、ジュリアは姿を現さなかった。
『もし来なかったら、私を指名してよね。』

そう言って先程席を後にしたジーナを、優二は仕方なく指名することにした。
自分のことを分かってくれそうな彼女と、話をしたくなったのである。
ジーナは21歳で、子供が一人いるらしい。
お互いの話を進める中で、優二は一生懸命にジュリアへの愛をジーナに語った。
丁度その時、野口がジュリアとカレンを連れて、店に入って来たのである。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その⑬ 待ちぼうけ・・・ [小説]

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デート(同伴)は決まったのに、一体、いつまでこの作者は引き伸ばすのであろうか?
姉や岩崎部長の妨害どころか、優二には、まだまだそれ以外の試練が待ち構えている。
ともあれ、話を前に進めよう。
デートの下見は終わったが、一旦ホテルに帰ると、再び岩崎部長に捕まる恐れがある。
優二はそう考えると、時間までは、モールに居座ることにした。

ジュリアとの約束は、午後の3時である。
(後、2時間近くもあるが、さて、何処で暇をつぶそうな? 4階にビンゴ会場が有ったので、ビンゴでも
やろうかな?)、などと考えた優二であったが、ふっとこう思った。
(おっといけない・・・)
うっかりとそういう場所に行くと、この作者のことだから、又とんでも無い事件に巻き込むに違いない。

『ちっ・・・』
作者の舌打ちなど聞こえないふりをした優二は、結局何もしないことにした。
広場に座るところを見つけたので、優二は2時間ほどそこで死んだ振りを決め込むことにした。
途中で、偽物屋だのコンド売りのお姉ちゃんが声を掛けて来る・・・
徹底的に無視をしたが、それ程までにして、デート迄の時間を、無事に迎えたかった優二である。

そして、午後3時・・・
ジュリアは、時間通りに・・・
来る筈が、なかった・・・
30分は有に過ぎたが、ジュリアはまだ現れない。
それもその筈、ジュリアはまだ深い眠りの中に居たのだ。

優二は、今日に備えて昨夜は店を早く出た。
これが、裏目に出ていたのである。
優二が帰ると、ジュリアは、指名が被っていた先程の客の席に戻った。
初客ではあったが、これが一遍にジュリアを気に入ってしまっていたのである。
彼は、姉のカレンまでを席に呼び、何とテキーラを1本注文した。

この店の女の娘にとって、テキーラ一本は、大きなポイントになる。
二人で割っても、一人頭12杯分のLDに相当するのだ。
新人のジュリアは兎も角、締めを間近に控えたカレンにとっては、渡りに船の客だったと言っていい。
客は閉店時間まで居座ったが、その間に、テキーラは綺麗さっぱりに無くなっていた。
ジュリアにとっては初テキーラであったが、案の定、相当に酔っ払ってしまったのである。

姉と二人でアパートに着いた時は、彼女はもう、足元も覚束ないほどに酩酊していた。
寝床でバタンキューのまま、午後3時になっても、目を覚まそうともしない。
その点は、姉のカレンも同じことであった。
しかし、流石に彼女はベテランである。
いつもは午後4時に起床するのであるが、この日もその時間には目が覚めた。

カレンは、目を覚まして時計を見たが、まだ横にジュリアが寝ているのを見て驚いた。
『ジュリア、早く起きなさい、もう4時だよ・・・』
カレンは、ジュリアの体を数回揺さぶらないと、彼女を起こすことが出来なかった。
それ程までに、ジュリアは深い眠りの中に居たのである。
ジュリアは、身を起こしたが、まだ体がいうことを効かないのか、又ベッドの中に戻りかけた。

『ジュリア、いい加減にしなさいよ、仕事でしょう?昨日のお客が待ってるよ!』
カレンにとって、同伴も勿論仕事の内だ。
優二にとってはデートかも知れないが、彼女等にとっては、ポイントを稼ぐ一つの手段に過ぎない。
カレンの叱責に、ジュリアはようやく起きる決心をした。
酒がまだ残っている身体をシャワーで洗い流し、ゆっくりと身だしなみを整えた。

ジュリアが、モールに到着した時は、既に午後5時半を回っていた。
待ち合わせ場所に行って優二を探したが、もう彼は既に居なかった。
この時、彼女には罪悪感はない。
フィリピンの若い世代では、男はいくら遅くなっても、女の娘を待たねばならないのだ。
そういう世界に育った彼女は、優二がいつまでも、待っているものばかりと考えて居たのである。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その⑫ おじゃま虫 [小説]

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初めてのデートと言っても、優二には土地監は無い。
従って、この地区でKTVの女の娘を誘うメッカであるロビンソンモールを、優二は必然的に選ばざるを
得なかった。
まあ、映画やショッピング程度なら、本当に手軽な場所である。
ジュリアも姉のカレンもこの近くに住んでいるらしいので、彼女達の希望でもあった。

少し慣れてくると、遊園地や水族館なども良いのであろうが、取り敢えずフィリピン初心者の優二には
、この辺りが妥当である。
この日も優二は、朝の9時半頃に目を覚ました。
日本では、考えられないような時間の起床である。
酒を余り嗜まない優二は、休日の前夜に深酒などをしたことがない。

だから、休日といえども、早寝早起きが彼の信条だったのだ。
それが、どうであろう。
比国に来ての、このザマは・・・
などとも、優二は考えなかった。
壊れかけてると迄は言わぬが、やはり自分を見失いつつあるのは間違いない。

フィリピーナに嵌る兆候としては、誰もが通る道なのかも知れないが、今の優二には、今日のジュリア
とのデートのことで、頭が一杯であった。
遅い朝食を取った後、優二は暇つぶしにモールへ出掛けることにした。
今日のデートの、下見でもをしようと考えたのである。
(そうだ、映画館では、何をやっているのかな?)

英語の映画なら、優二でもジュリアでも理解が出来る。
(そうだ、映画館へ行ってみよう。)
そう、優二は考えた。
しかし、部屋からロビーに出た所で、部長の岩崎に捕まった。
『おお、居たのか福田君。』

(しまった、ホテルに帰っていたのか・・・)
優二はそう思ったが、何くわぬ顔で、岩崎にこう言った。
『はい、部長こそ彼女の所でゆっくりされているのかと思いましたが、早いお帰りだったのですね。』
『そうなんだよ福田君、昨夜はローズの家に無理やり泊まらされたんだが、まあこれが狭い所でねえ
・・・、良くもこれだけの人数が寝られるなと思うくらいの小さい家で困ったよ。』

『・・・・・・・・・・・』
『おまけにトイレがねえ・・・君ぃ知ってるかい?ケツはバケツで水を汲んで自分の手で洗うんだぜ。』
『げえ、そうなんですか?』
『うんうん、君も一度でいいから経験して見給え。まあ、手動ウオシュレットだよ、ワハハハハハ・・・』
(冗談じゃないよ・・・)

優二はそう思ったが、近々、自分もそういう経験を否が応でもしなくてはならなくなる時が来ようとは、
この時はまだ知る由もない。
『で、もうローズさん達との話はついたんですか?』
そう聞いてから、優二は後悔した。
岩崎の顔が、話したくてウズウズしているのに気付いたのだ。

(これは長くなりそうだ、どうにかしてこの場を逃げなくては・・・)
『部長すみません、実はここフィリピンで、大学の同期の友人が働いているんです。昨夜連絡がついて
今日これから会う約束をしているのですが、これから行ってきてもいいですか?』
『そ、そうなのか・・・』
(自分に付き合うということで、出張扱いでここに来させているのに、勝手に約束なんぞしよって・・・)

岩崎はそう思ったが、もう約束してしまったのでは仕方が無い。
では、今晩はどうかと聞くと、多分夜まで友人に付き合いますという優二の言葉に、些かむっとした岩
崎だったが、最初は無理やり優二に頼み込んだことなど、すっかりと忘れてしまっている彼であった。
『ではまあ、好きにし給え・・・』
捨て台詞のようにそう言うと、彼は自分の部屋に向かうべく、エレベーターを登っていった。


続く・・・
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マニラKTV悲話 その⑪ あね・いもうと [小説]

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優二には、今日のジュリアはが、昨日にも増して可愛く思えた。
髪は、他の女の娘に比べてまだ染めてなく、色白な上、爪も綺麗に短く揃えられており、本当に清楚と
いう表現が、ぴったりと来るような雰因気を醸し出している。
では、性格はどうなのか?
この著者でさえすら、分からなかった。

優二に置いては、尚更であろう。
どうせ作者の都合で、性格の良し悪しが決まるのだろうと、読者諸氏は思ってはならない。
書いている時の、心情や心の変化で決まるのだ。
今の所は、頭を白紙にしたまま、諸氏と共に、二人を見守って行くしかないようである。
とまれ、余談が過ぎた。

優二は、相変わらず今日も酒量が上がっている。
抑えようとしても、どうにもコントロールが利かないのだ。
酒の勢いを借りてとは言うが、恋に酔い続けるには、必要なエネルギーの様な物なのかも知れない。
優二は、モールで買った可愛いネックレスを、ジュリアに上げた。
彼女が大喜びだったのは、言うまでもない。

二人の親密度は、更に深まる・・・
丁度、その時である。
二人の仲を、引き裂く事態が起こった。
何と、彼女に他の客から指名が入ったのである。
こればかっりは、仕方が無い。

『仕事だから・・・』
と言う彼女を、恨めしそうな娘をして見送るしか無かった。
この時に、彼は嫉妬を覚えざるを得ない自分を知ったのである。
独占欲に、目覚めた形の優二であった。
(何とか、昼間の時間も会えないかな・・・)

優二がそう考えたのも、無理はなかろう。
ヘルプでやって来たジーナという女の娘に、優二は早速相談をしてみた。
そこで優二は、同伴というシステムを知ることになる。
これなら、彼女をデートに誘い出せるではないか・・・
優二の心は踊った。

そうして、その内にジュリアが席に戻って来たので、早速申し入れてみたが、彼女からは意外な答え
が返って来てしまった。
聞くと、自分の一存では決められないという。
同じ店で働いている、姉のカレンの承諾が必要になると言うのだ。
同居している姉のカレンは、妹のジュリアには厳しかった。

年齢も27歳と、ジュリアとは8歳も離れている。
『同伴したいのなら、その姉に直接言って欲しい。』
ジュリアは、そう云うのだ。
優二が姉のカレンと話をするには、そこの席に呼ばねばならない。
当然の如く、リクエスト扱いになる。

挨拶程度なら兎も角、ジュリアをデートに誘うべく、交渉しなくてはならないのだ。
余計な出費やお邪魔虫は、仕方が無いのかも知れない。
姉のカレンが、そのテーブルにやって来た。
日本人の彼が居るというカレンは、流石に流暢な日本語を喋る。
優二は、根掘り葉掘り色々と聞かれたが、LDを5杯位飲ませた後で、やっとお許しが出た。

これでやっと、優二はジュリアとデートが出来るのだ。
彼は、上機嫌で、姉のカレンがオーダーをするまま、LDや食べ物を奮発したのである。
その後、少し早めにホテルへ帰ったものの、優二は中々寝付かれなかった。
デートの時間は、明日の午後3時の予定である。
(まあいいか、明日もゆっくりと寝坊しよう・・・)


続く・・・
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マニラKTV悲話 その⑩ 詐欺師トニー [小説]

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『今日は、私の子供の誕生日なんですよ。』
『ああ,そうなんですか?』
自分のホテルのガードマンと聞いて、すっかり心を許してしまった優二であった。
『私、子供にプレゼントを買いたい、でもお金が足りない、あなた少し助けてくれますか?』
『ええ、いいですよ。』

優二は、自分のポケットの財布を覗きこんだ。
千ペソ札が数枚と、後は50ペソ札と20ペソ札だけである。
500ペソ札と100ペソ札は生憎と無かった。
(一体、いくら上げればいいのかな・・・)
そう思った優二だが、20ペソや50ペソでは悪いと思い、思い切って千ペソ札を差し出した。

『お願い、もう一枚!』
その男の一声で、優二は反射的に、もう一枚千ペソ札を与えてしまった。
『ありがとね~』
その男は、満面の笑みを浮かべ、何処かへ消えていく・・・
優二は、多く与え過ぎたなとは思ったが、騙されたとは気付かなかった。

そのモールで、ジュリアへのプレゼントの買い物を済ませ、ホテルで休んだ後、太虎に行きその話を
すると、大橋にこっぴどく叱られた。
『そいつは、有名な詐欺師のトニーって言うんだよ、あ~あ、携帯は盗られるし詐欺師にはやられるし、
本当に気を付けないと、マニラでは大変だぜ・・・』
優二はもう、冷や汗のかきっぱなしである。

そう言えば、先程のトニーという男、よくよく考えると孫が数人いてもおかしくない年格好だった。
あの年齢の子供なら、恐らく40歳近いのでは無いだろうか?
それなのに、子供の誕生日プレゼント???
考えてみれば、分かりそうなものである。
大橋が言うには、もう何年も前から、ずっと同じ手口なのだそうだ。

まあ、大金を騙されたわけではない。
ほんの寸借詐欺に、遭っただけである。
優二は、これも諦めるしか無かった。
しょんぼりとしながら、大橋自慢の『女が釣れるカツ丼』を食べていると、そこに南原が入って来た。
優二は、彼はここの店のスタッフだと思っていたのだが、大橋は違うと否定した。

単に出入りしているだけで、客の馬券を買いに行ったり、混雑時に店の手伝いをしながら、小遣いを
貰い、それで生活をしているのだそうだ。
体(てい)の良い、便利屋というところであろう。
『あらら、福田さん、今日もKTVに出勤ですか?』
『は、はい。』

優二は、そう答えた。
『では、今日も一緒に行きましょうか!?』
『今日は、一人で行けますから大丈夫です。』
優二は、本当はそう言いたかった。
が、南原に先手を取られた格好になったので、思わず、『では、お願いします』と応えてしまった。

実は、今日は二人きりになりたかったのである。
プレゼントも渡したいし、何よりも南原が指名した女の娘に、何もかも知られてしまうのが嫌であった。
その時である。
『南原よ、もう付いて行くのは止めておけ、福田さんも一人で行けるだろうからよお、それにここマニラ
で生きていくためには、何もかも一人で出来ねえといけねえんだよ。』

大橋は、優二の顔色を察したのか、そう言ってくれたのだろうが、別に優二はここで生きて行くつもりは
毛頭ない。
強いて言えば、大橋の感であろうか?
もしかしたら、優二が何れ、ここマニラで暮らすような、予感がしたのかも知れない。
ともあれ優二は、大橋のお陰で、一人で店に出掛けることが出来たのである。


続く・・・


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