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モツ鍋屋のおやじがいくフィリピン紀行 10 [小説]

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『キャ~・・・・・・・』
少女の悲鳴は、その孤児院はおろか、隣接している教会の中まで響き渡っていた。
その悲鳴を聞いて、教会の中から、真っ先に飛び出して来たのは、他ならぬシスター山野だ。
サリーの周りには、既に他の孤児達が集まって来て、心配そうに彼女を取り囲んでいる。
シスターは、そこで、膝を抱えてうずくまっているサリーと、呆然とそれを見ている定次を見つけた。

『一体、何があったのです?』
シスターは定次にそう問いただしたが、、その言葉は、厳しい詰問口調であった。
『そ、それが・・・』
定次は、事情を説明しようとしたが、まだ動揺している為か、全然言葉にはならない。
シスターは、仕方なく、サリーの回りにいる子供たちに聞いてみた。

その事情だが、子供たちに代わって、著者が説明しよう。
サリーを笑わそうと彼女に近づいた定次だが、声を掛けようとしただけで、悲鳴を上げられてしまった。
理由など何もない。
たった、それだけのことだった。
しかし、これはシスターの方に非がありそうである。

実は、サリーは所謂男性恐怖症で、相当長く知り合わない限り、近づくだけで拒否反応を示すのだ。
先程は、シスターが定次の側に居たし、遠目だったからまだ良かったであろうが、今度は、定次一人
が彼女に近づいたのだから、これは拒否されても当然と言えよう。
だから、大体こういうことは、予め定次には伝えておくべきであろう。
それを怠っていたのだから、責任の大半は、シスターにあるかも知れない。

事情を知ったシスターは、その場で定次に詫びを入れた。
彼女は、嘘をついたり誤魔化したりして、その場を取り繕うことが、何よりも嫌いな人物であったのだ。
子供達にも、普段からそう接してきたし、教えもしてきた。
清廉潔白とは、まるで彼女のためにあるような言葉であったのだ。
定次は、謝罪されたことで、却ってシスターへの憧憬の念を強くしてしまった。

(何ちゅう、潔(いさぎよ)かおなごたいね~)
全く、九州男児も惚れ惚れするような女性である。
シスターがサリーを介抱している間、定次は少し離れた所で、二人を見守りながらそう思っていた。
(こげん所で、生活できたらなあ・・・)
それからの定次は、そればかりを考えるようになっていくのに、そうは時間が掛らなかったのである。

夕食の時間がやってきた。
孤児院の収容者はたった15名程度であったが、食堂は広く、30人くらいは一度に食事が出来そうだ。
一同に食事が配られたが、定次はその内容に驚いた。
何と、おかずは一品のみで、しかも少量である。
ご飯だけは豊富にあるようだが、これでは、子供たちの栄養に足りないであろう。

スープくらい有っても良かろうものだが、それすらないのだ。
定次は、思い切ってシスター山野に聞いてみた。
『シスター、聞くのも失礼ですがばってん、あなた達はいつもこげな食事しか取らんとですか?』
『はい、このフィリピンの普通の家庭では、こういった食事が一般的ですわ。』
『で、でも、少し栄養が不足しているような気もしますが・・・』

定次は、一生懸命標準語で喋ろうと、努力しながらそう言った。
『そうなんです、私もそう思っているのですが、何分にもここの予算が少な過ぎて・・・』
日本と違い、この国の孤児院などは、政府からの支援があまり期待できない。
従って、運営体はNGOであり、経営も、主に海外からの寄付によって賄われていたのである。
定次は、それを聞いて憤慨した。

幾らボランティアの施設だからといっても、この状態で良いわけではなかろう。
育ち盛りの子供たちには、もっと栄養のあるものを食べさせるべきである。
『シスター、お願いがあります。』
定次が、食事の途中で立ち上がりながら、そう言った。
『明日の夜、子供達にモツ鍋ば食べさせてやりたいのですが・・・』


続く・・・


食べる前には、ここを押しましょうね!(爆)
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コメント 26

旅の老人

おそうございました・・・(笑

本日は手短に定次が比国でモツ鍋を食べさせる展開ですね。
実は私も時々コンビニでモツ煮を買って食べます。
じっくり煮込まれたモツ煮は旨いですよね。
酒の妻でもアテでもないですが、ご飯の友に頂いてます・・・(ぷ
by 旅の老人 (2012-07-30 09:19) 

moimoi

川野さん

遅くなりました・・・(ぷっ

台風の影響で、明け方まで停電していたのには閉口です。

モツ鍋は、年末年始の帰郷の折に博多で食べました。

美味しかったです。

期待していた有名店では食べられませんでしたが、それでも博多の味

は満喫できましたね。

しかし、酒ではなく、ご飯の友とは恐れ入りました。(笑)
by moimoi (2012-07-30 09:27) 

Leo

出ましたねぇ~「もつ鍋!」
手で食べる習慣の為か?熱い物口にしない,出来ない事を知らずに
「熱いのが旨い!」と、食べるのを強要して「一波乱!」何て無いですよねぇ!(笑
by Leo (2012-07-30 10:39) 

名無しの龍

誰が呼んだか?!、魔法使いサリーちゃん登場ですねw
by 名無しの龍 (2012-07-30 10:45) 

shiNji

>嘘をついたり誤魔化したりして、その場を取り繕うことが、何よりも嫌いな
>人物であったのだ。

長年比国で比国女性相手に暮らしておられる作者の女性への願望でしょうか?(爆
by shiNji (2012-07-30 11:03) 

たばちん

マニラに戻ってきた途端に一晩停電でした。
ああ、やっぱり不便だ、ここは(笑)

孤児院の食事はそのひどさが想像できますね。
一般家庭でもフィリピンの食事は貧しすぎます。

普通の人なら何とかしたいと思いますよね。
by たばちん (2012-07-30 12:02) 

洗濯屋

>> 『明日の夜、子供達にモツ鍋ば食べさせてやりたいのですが・・・』

そう振って来ましたか!!‥‥‥・・(笑)

このストーリーは前々から予定だったのでしょうか!??
素晴らしい脚本制作能力ですな~♪♪

アッパレ!!

あっポチッと忘れる所だった・・・・(^^ゞ
by 洗濯屋 (2012-07-30 12:03) 

きた

御飯の上に
かけて
食べたら
子供達も
はまりますね
by きた (2012-07-30 12:05) 

hiroo

こんにちは。

日本でもモツ鍋は食べたことありません。
マニラで食べられるところはありますか?
おいしいお店。 是非、行ってみたいです、、


by hiroo (2012-07-30 12:06) 

moimoi

ジャングル大帝さん

>食べるのを強要して「一波乱!」何て無いですよねぇ

私が想像もしていなかった展開ですな!(笑)

でも、多分それはないでしょう。(爆)
by moimoi (2012-07-30 12:27) 

moimoi

名無しの龍ちゃん

>誰が呼んだか?!

たしか呼んだのは龍ちゃんのような・・・(笑)

あれ、でも何でこの時間にコメントが入ってるの?(爆)
by moimoi (2012-07-30 12:28) 

moimoi

神示さん

>比国女性相手に暮らしておられる作者の女性への願望でしょうか?

ぴったしカンカン!(笑)

本当に、そう思いながら書きました。

さすがに年の功・・・

鋭いですな!(爆)
by moimoi (2012-07-30 12:30) 

カカロット

もつ煮登場ですね。定次の得意分野で子供達の心は変わって行くのでしょうか?サリーの心境の変化は!ここが師匠の腕のみせどころですね明日もよみますよ・・・・(爆)
by カカロット (2012-07-30 12:33) 

moimoi

束珍さん

>ああ、やっぱり不便だ、ここは(笑)

帰ってきた早々、災難でしたね。(笑)

睡眠は、足りていますか?

そんなに暑くなかったのが、少し幸いでしたね。

食事環境は、昔より改善はされていますが、それでもバランスが悪いですわ。

野菜の沢山取れるモツ鍋のような料理は、やはりこの国にはあった方が良

いですね
by moimoi (2012-07-30 12:38) 

moimoi

洗濯屋さん

>このストーリーは前々から予定だったのでしょうか

全て、行き当たりばったりで書いています。(笑)

作者のずぼらな性格が、そのまま出ていますな!(爆)

>あっポチッと忘れる所だった・・・・

ははは、有難う御座いました!
by moimoi (2012-07-30 12:41) 

moimoi

北海峡さん

子供相手ですから、当然酒のツマミでは駄目でしょうね。(笑)

しかも、辛口も駄目でしょう。

おっと、その前に材料調達しないと・・・(爆)
by moimoi (2012-07-30 12:43) 

moimoi

hirooさん

残念ながら、モツ鍋屋はありません。

というよりも、まともなもつを売ってないのです。

『酒処 大虎』で、たまに牛モツを見掛けますが、鍋はありません。

是非、モツ鍋にも挑戦して欲しいですね!
by moimoi (2012-07-30 12:46) 

moimoi

カカ様

>腕のみせどころですね明日もよみますよ

過度の期待はあきまへん。

作者が、心配で寝られなくなります。(爆)
by moimoi (2012-07-30 12:51) 

馬尼羅

バギオは戦前日本人が多く住んでいたと聞きます。

気候も日本と似ていると・・・・

松の木が道の両端に植えてあるのも、日本人がバギオまでの道を作ったからですとか・・・

なのでモツ鍋はきっと美味しいんでしょうね。

by 馬尼羅 (2012-07-30 12:52) 

moimoi

お馬さん

戦前から、バギオには日本人が沢山移民として存在したようです。

ゲンゲッド道路工事には、多くの移民が貢献したとはありますが、

他にも都市形成の折にも、日本人の技術は高く評価されました。

主に、大工や左官が仕事でしたが、あの職人技ならうなずけますな。

さて、明日は定次が職人技を披露できるのか・・・

私も、とっても楽しみです!(笑)
by moimoi (2012-07-30 13:28) 

提督

定次もここで、神父さんになりませう!
by 提督 (2012-07-30 17:56) 

Umetta

シスターの教育を受け

世界に通用する道徳、倫理観を持った

孤児たちが のちのち世界に羽ばたいて

行ってもらいたいですね?
by Umetta (2012-07-30 18:30) 

moimoi

提督はん

>定次もここで、神父さんになりませう!

う~ん、何を教えるんだか・・・(笑)
by moimoi (2012-07-30 22:12) 

moimoi

梅太さん

やはり、小さい頃からの薫陶は違いますよね。

私の、究極の理想です!
by moimoi (2012-07-30 22:13) 

萬久

いよいよ得意のモツ鍋の登場ですね!

コスト的に安く上がって長続きするといいのですが…
by 萬久 (2012-07-30 23:22) 

moimoi

お萬殿

>いよいよ得意のモツ鍋の登場ですね!

これしか取り柄のない定次ですからぁ・・・(笑)

作者同様、長続きがねえ・・・(涙
by moimoi (2012-07-31 05:04) 

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