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モツ鍋屋のおやじがいくフィリピン紀行 11  [小説]

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定次がモツ鍋を作ってくれるというので、シスターは素直に喜んだ。
彼女はカトリックだが、元々この宗旨には、生臭は駄目だとか言う食べ物への戒律はない。
あるとすれば、1年に1度、聖週間中の受難日である、金曜日の肉食禁止位のものであろうか?
まあ他の日は、肉であろうが魚であろうが、何を食べようとお構い無しである。
定次は、シスターの嬉しそうな顔を見て、明日は張り切ってモツ鍋を作ろうと心に誓った。

昨日に引き続き、教会のゲストルームに寝かせて貰った定次だが、何故か中々寝付けそうにない。
思えば、初めてフィリピンの地を踏んで、僅か2日目の夜なのだ。
しかし、そのたったの2日間で、彼は色々な経験をしてしまった。
が、シスターに出会ったことで、定次自身、これからの人生が変わるような予感がしている。
それどころか、定次はいつしか、その出会いを、自分の運命とまで考えるようになってきていた。

ニダの時でもそうだが、元々思い込みの激しい男なのだ。
思い込みが激し過ぎて、カレンの生足を触ってしまって大騒動になったことなど、今ではすっかりと、
定次の記憶には無いようである。
フィリピンに嵌りやすい、典型的な楽天家おやぢだ。
明日が帰国日だったなどということは、頭の隅にも置いてなかった定次である。

翌朝になった。
定次はこの日、シスター山野の案内で、シティマーケットに行く事になっている。
寝不足など何のその、朝早くから起きていた彼は、今か今かと出発を待ち構えていた。
シスター山野の教会は、所謂バギオ大聖堂とは違い、バギオ市の中心部からは大分離れている。
従って、買い出しに行くときは、いつも乗り物を調達しなければならなかった。

子供達などの食事を作るのは、賄いのおばさんの役目だが、買い出しは主にシスターが行っている。
教会から市場までは、車で30分以上掛かると見ていい。
教会専用の車などはないので、買い物は3日に1度、好意で車を出してくれる人に甘える格好である。
車を出してくれる人も、いつも不定期らしく、今日は、同じバギオ在住で、内山さんと言う女性が運転し
てくれることになった。

内山さんは、既に初老の女性であるが、根っからの日本人ではなかった。
彼女は、日系3世なのである。
戦前から、バギオには、日本人入植者が多かった。
アメリカ人の指導の元、バギオが開発されることになった時、多くの日本人がその事業に加わったが、
彼女は、その日本人の子孫に当たる。

子孫と言うと少し大袈裟だが、彼女の祖父は、下界とバギオを結ぶベンゲッド道路作りに従事した。
まことにバギオと言う所は、高原というに相応しい場所である。
麓には沢山ある椰子の実も、この高原に進むに従って、その姿を見ることは出来ない。
つまり、それだけの高地にあるということだ。
それ程の高地に道路を建設しようとしたのだから、これは難工事であったろう。

勤勉な日本人は、その腕と技術を買われ、道路作りを委託されたものの、環境は劣悪であった。
1903年に完成したものの、その建設のために命を落とした労働者は、相当数に登ると言われる。
又、都市作りに参加した日本人も多く居り、大工や左官で貢献したが、戦前あれほど多くの日本人
で賑わっていたバギオも、戦争が始まった途端、段々と悲惨な結末を迎えることになった。
進行してきた日本軍の残虐行為が、彼らを窮地に追い込んだのだ。

特に、現地の村々を焼き払ったことへの怨念は凄まじく、彼ら入植者は、同じ日本人ということで迫害
を受け、次第に、山の奥へ奥へと逃げざるを得なくなってしまった。
そこで、飲まず食わずの悲惨な生活を強いられることになるのだが、1972年にシスター海野(うんの)
が決死の覚悟で彼らを救出するまで、そういう生活は続いたのである。
と言うことは、内山さんの少女時代までは、そういう生活であったということだ。

まるで、昔の日本で言う、『平家の隠れ里』のようなものであろうか?
彼らも、源氏の追求を逃れるために、人の住めない所に里を開いて、移り住んだという。
余談はさて置き、内山さんの祖父や父親も、現地の比国人女性を娶っていた。
しかし、そういう事情で育ったのだから、彼女自体、苗字は日本人でも国籍はフィリピンである。
近年になって、NPOの力でようやく就籍活動が行われるようになったが、それは少し後のことだ。

内山さんは、少したどたどしいが、日本語を使う。
勿論、現地語も喋るのだが、家では絶対に日本語なのだそうである。
死んだ祖父がそうしろと命じたらしく、母親であるフィリピン人も例外ではなかったという。
定次とシスター山野、そして内山さんの3人は、市場に向かって車を走らせた。
この市場だが、既に1世紀くらいの歴史を持っており、その佇まいは、下界とは一線を画している。

もう少し詳しく書けば良いのだが、本文と掛け離れてしまうのでここでは割愛するが、バギオを訪れる
人は、必ずここを訪れるといって良いほどの、名所にもなっていた。
しかし、定次には少し心配事があった。
ここでもそうなのだが、フィリピンには、そもそも牛もつは売ってないというシスターの話である。
本当なら、どうすれば良いのだろうか・・・?


続く・・・


どうすれば良いのか、迷った時はここを押しましょう!(爆)
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コメント 20

旅の老人

お早うございます。

生憎バギオの歴史的背景は知りませんでしたが、戦争中は日本の管理下で比国の作戦本部があったと聞きました。米軍の進行で手放し、戦後長い間米軍が使用していたとも聞いてます。大統領の執務室もあると聞きました。
太い松林は私の信州の蓼科高原を彷彿とさせる風景ですので、比国人が思いを寄せるほど愛着は感じませんでした。年始早々の旅でしたので夜中は厚着の服装でなければ歩けないほどの涼しさ(寒さ?)でした。比国では有名なリゾート地だと聞いても、日本から高い交通費を使って来るほどの価値を感じない日本の高地民族の私でした・・・(ぷ

モツと言っても牛もあれば豚もあります。好みはそれぞれですから何とかするでしょうね・・・(謎
カラバウの肉は美味しくなくてもホルモンはいけるかも?
by 旅の老人 (2012-07-31 07:53) 

名無しの龍

今日は更新早いですね、歴史の深さを感じさせる小説になってきましたね。
by 名無しの龍 (2012-07-31 08:07) 

きた

どのようなものが
完成するのか
楽しみですね
定次の
腕のみせどころですね
by きた (2012-07-31 08:17) 

moimoi

川野さん

おはよう御座います。

>高い交通費を使って来るほどの価値を感じない日本の高地民族の私でした

これはこれは、本当にそうでした。(笑)

珍しくも何とも無いでしょうな。

>夜中は厚着の服装でなければ歩けないほどの涼しさ(寒さ?)でした。

まあ、比国ではこの寒さが売りですからねえ・・・

私も、12月に行った時は、震える思いでしたよ。

>好みはそれぞれですから何とかするでしょう

定次にお任せでしょうが、作者にはその知識がないのでどうしましょう?(爆)
by moimoi (2012-07-31 08:34) 

moimoi

名無しの龍ちゃん

今後の展開を考えると、必ず説明して置かなければならないので、敢えて

書いています。

少々退屈でしょうが、もう暫くの辛抱ですぞ!(笑)
by moimoi (2012-07-31 08:35) 

moimoi

北酒場さん

>定次の腕のみせどころですね

エロおやぢから脱皮できるのか、作者も心配です!(爆)
by moimoi (2012-07-31 08:38) 

Leo

展開がチョッと大人しい,スパイスが足りない方向へ・・・
明日に期待してよいでしょか?
by Leo (2012-07-31 09:09) 

moimoi

Leoさん

>明日に期待してよいでしょか?

ははは、どうでしょう?(笑)

こういうコメントが来ることは、ある程度予測していました。

まあ、定次のことですから、その内、何かやらかすでしょうね!(爆)
by moimoi (2012-07-31 09:20) 

萬久

>そもそも牛もつは売ってないというシスターの話である。

売っていないのなら安く手に入れるチャンスということでは?
バギオなら白菜キャベツは手に入るでしょうがニラはどうなのでしょうか?
うーん、考えてみるとけっこう難しいことになるのかもしれませんね。

by 萬久 (2012-07-31 09:26) 

moimoi

オマーン殿

さあ、どうやって手に入れるのでしょうねえ?(笑)

明日の記事は、作者が一番苦労することは間違いなさそうです!(爆)
by moimoi (2012-07-31 09:49) 

洗濯屋

そちらは台風で大変なようですね!!

毛がの無いように お気をつけてくだされ!!

>> カレンの生足を触って

生足、太股を触りて~♪♪

9位になっていました危うし頑張れ~♪♪

本日も、ポチッとな♪♪

by 洗濯屋 (2012-07-31 11:08) 

shiNji

シスター山野様にフィリピンで家を建てるために持ってきたオカニで車を買ってあげて下さい、命を拾ってもらった恩返しとすれば安いもんですじゃ。^^
by shiNji (2012-07-31 11:41) 

提督

モツ鍋までなかなか長いですね^^;

毛のんロード急勾配の道を通り、バギオ市内に行き、その奥のベンゲットのいちご畑で休憩し、そのまた奥のトリニダッドのお花畑へ薔薇を求めて行ったことを懐かしく思い出しますわ。
平地のフィリピン人と違い、現地の方の顔がペルーやボリビアの高地民族にそっくりだなぁと感じましたわ。
by 提督 (2012-07-31 11:49) 

moimoi

ランドリーサービスさん

>毛がの無いように お気をつけてくだされ!!

薄くなるのに、拍車が掛かり始めました。(大泣き)

>生足、太股を触りて~♪♪

はは~ん、前回触り足りてないのですな!(爆))
by moimoi (2012-07-31 11:59) 

moimoi

神示さん

>命を拾ってもらった恩返しとすれば安いもんですじゃ。

は~い、定次によ~く言い聞かせておきますら!(爆)
by moimoi (2012-07-31 12:04) 

moimoi

>モツ鍋までなかなか長いですね^^;

マニラから、バギオまでは約5時間掛かります。

モツ鍋への道も、遠しなのですわ!(笑)

>現地の方の顔がペルーやボリビアの高地民族にそっくり

実は、週に2度くらいマッサージに来るお姉さんが、バギオ出身だす。

色白で、如何にも高原育ちのような顔をされて御座いますわ!(爆)
by moimoi (2012-07-31 12:09) 

カカロット

バギオまではビガンから、行ったので、3時間かな?もつ鍋は明日登場でしょうか?さぁどうなるんだろう?(爆)

by カカロット (2012-07-31 13:12) 

moimoi

カカ様

たかがもつ鍋されどもつ鍋なのです。(^^)

時間を掛けて、美味しいもつ鍋を作らないとね!(爆)
by moimoi (2012-07-31 13:29) 

sakura

>時間を掛けて・・・・。

畑でも作るんですか?
by sakura (2012-07-31 18:02) 

moimoi

桜さん

その前に、肉牛育てないとね!(爆)
by moimoi (2012-07-31 18:11) 

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