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モツ鍋屋のおやじがゆくフィリピン紀行 9 [小説]

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シスター山野 清美は、当年とって36歳になる。
まったく、女盛りの年齢と言ってよい。
が、彼女には、陰惨な過去があった。
修道女の道を選んで早や8年になるが、その前は、幸せな普通の結婚生活を送っていたのだ。
それが、どうして入信して修道女になったのか・・・?

彼女は、24歳の時に、日本でフィリピン人の船員と出会い、激しい恋に落ちてしまった。
そして、何度も日比を行き来した上、親の反対を押し切ってまで結婚したのだ。
その後は、フィリピンで幸せな生活を送っていたのだが、3年後に突然その不幸は訪れたのである。
それは、夫がエンジニアとして乗船中、同僚との喧嘩に巻き込まれ、刺されるという事件であった。
手当の甲斐もなく、夫は3日後に死亡・・・

清美は、その知らせを受けた時に妊娠していたが、それを聞き、ショックのあまり流産してしまった。
この時から、彼女の不幸が始まったのである。
何しろ、大黒柱の夫に死なれたのだ。
セカンド航海エンジニアとしての夫の給料は、毎月3000USD(約13万ペソ)程度であった。
その収入の道が、完全に絶たれてしまった格好になる。

夫は船員保険に加入していたが、事故ではなく事件であったため、僅かな保険金しか出なかった。
それどころか、結婚を機に、あるサブデビジョンに家を買っていたのだが、銀行で借りたお金が返せ
なくなり、銀行側からの差し押さえで、家を開け果たす羽目にまでなってしまったのである。
最早、清美には何一つ残されてはいなかった。
失意のどん底で、日本に帰国しようかと考えていた時、ある日本人神父に出会った。

その神父さんは、バギオに教会付属の孤児院を持っている。
清美は、その後、その神父さんの依頼で、その孤児院の世話をすることになったのだ。
それから、8年の月日が流れている。
一度は絶望に陥った清美であったが、ここに来てからは、以前の明るさを取り戻すことが出来た。
いや、それ以上に、生きる希望まで与えられていたのである。

ここの孤児院に収容されている子供達の中には、親が犯罪者であったり、自分自身が、親や他人か
らレイプされたりと、心と身体に大きな傷を持つ者が多かった。
が、日本とは違い、交通遺児は皆無に近いようである。
清美は、今の自分の仕事を、天職と考えるようになった。
そうやって、少しでもここにいる子供達の心を開こうと、日々努力をしている清美であったのだ。

定次は、そのシスターの案内で、ここの孤児院を見学している。
ちなみに、定次が寝かされた部屋は、民家ではなく、教会の中にあるゲストルームであった。
誠に質素な作りだが、掃除が綺麗に行き届いているため、不快感などは全くない。
その部屋の前に小さな庭があり、その向こうが孤児院であった。
孤児院といっても、何か大きな民家のようで、どうみても安作りにしか見えない建物である。

定次は、シスターから色々な説明を受けている途中、笑顔で挨拶してくる子供達が多い中で、全然
笑顔を見せようとしない少女がいることに気が付いた。
理由を聞くと、この少女は、長年に渡って、実の父親からレイプされ続けて来ていたらしい。
どうやら、重度の心的外傷(トラウマ)を背負ってしまったらしく、シスターが、幾ら心を開かせようとし
ても、全く受け付けないということだった。

その父親は逮捕されたが、彼女に取って一番ショックだったことは、これ又実の母親が、父親とのセ
ックスを強要していたということである。
一体、どういう心理状況であれば、そういうことが出来るのかが不思議に思えるが、この国にはこう
いった不条理な事件が余りにも多い。
定次は、聞いていて胸が悪くなった。

と、言うより、腹を立てていたが、反対に、こういう子供達の面倒見ているシスターは、何とえらいの
だろうかと、感動してしまった定次ではある。
他にも、両親が揃って麻薬患者の子供も居たりと、自分が今までに聞いたこともないような話ばかり
聞かされたが、それらで心の傷を負った子供達の身の上を考えると、やるせない気持ちにもなった。
『シスター、あなたは本当に素晴らしい。』

定次は、心からそう思ったので、思わず口にしてしまった。
『いいえ、私は神より与えられた役割を果たしているだけなのですよ。』
シスター山野は、染み入るような笑顔でそう言った。
『そんなことはないですよ、誰にでも出来る事ではありません、本当に頭が下がります。』
そう言った定次だが、不思議な事に、彼の口調から博多弁が消えている。

シスター山野がきれいな標準語を使うので、何となく博多弁を使うのが躊躇われたのであろうか?
いや、この気持は分からないではない。
人には誰でも、好きになった人には、何とかして嫌われまいとする気持ちが働くものである。
と言うより、積極的に好きな人に合わせようとするであろう。
定次は、知らず知らずの間に、シスターに好意を抱いて来たようだ。

シスターが少し用事があるというので、定次は、小庭の中にあるベンチに腰掛けて待つことにした。
その向こうには、先程の、あの笑顔を見せない少女サリーがいる。
サリーは、相変わらずの無表情で、誰と口を聞くでもなく、独り孤児院の壁に身体を寄り掛けていた。
(俺がこの子を笑わせたら、きっとシスターは喜んでくれるじゃろうのう・・・)
不意にそう思った定次は、つかつかつかと、サリーに近づいていくのであった。


続く・・・


果たしてサリーは笑うのか? ここを押さないと続きが読めませんぞ!(爆)
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コメント 20

きた

サリーちゃんの
笑顔に期待
定次頑張れー
by きた (2012-07-28 07:57) 

旅の老人

お早うございます。
モツ鍋屋のおやじの定次が、異国の地で心に傷を負った少女を笑わせる術を持っているとは、前述までの定次からは想像できませんが、物語そのものが想定外の連続ですから次の展開が楽しみです・・・(微笑

by 旅の老人 (2012-07-28 08:37) 

名無しの龍

サリーちゃんに、どんな魔法をつかうのでしょうか?
by 名無しの龍 (2012-07-28 08:52) 

moimoi

北上川さん

>笑顔に期待

まあ、笑いを取るのでしたら、定次はちょっと天然っぽいですからねえ・・・(笑)


by moimoi (2012-07-28 09:21) 

Leo

もつ鍋屋のオヤジにセガレ・・・次に登場したのが美人シスター山野清美・・・
今度、どのような展開にでもできますねぇ~(笑
by Leo (2012-07-28 09:23) 

moimoi

川野さん

>物語そのものが想定外の連続です

私も、孤児院が出てきたのには驚きです。(笑)

しかも、居るんですよねえ、フィリピンにも笑わない子が・・・

定次が今後どういう関わり方をしていくのか分かりませんが、どうやら、

作者も目を離せなくなって来ましたよ!(爆)
by moimoi (2012-07-28 09:29) 

moimoi

名無しの龍ちゃん

>サリーちゃんに、どんな魔法をつかうのでしょうか

象印笑!(爆)


by moimoi (2012-07-28 09:32) 

moimoi

Leoさん

>今度、どのような展開にでもできますねぇ~(笑

まあ、鉄じいは出て来ないと思いますがねえ~!(爆)
by moimoi (2012-07-28 09:33) 

萬久

>実の父親からレイプされ続けて・・・

昔知り合いの子から同じようなことを聞いたことがあります。
酔った勢いでの身の上話の中で突然の告白に驚きました。
フィリピンではよく聞く話らしいですが
実の子を性的対象にするなんて信じられない行為です。
娘の居ない私からは想像もつかないですが実に腹立たしいですね。
ここまでいくと人間ではなく獣です。
by 萬久 (2012-07-28 09:35) 

moimoi

お萬殿

風土や習慣に依るものか、はたまたモラルの欠如かは分かりませんが、

このような私達には理解の出来ない事実は、ここには沢山存在します。

実は、この話も私がある女の子から聞いた実話を元にしていますが、定次

でなくても、聞いていて胸糞が悪くなる話でした。

本文には書きませんでしたが、母親が娘に強要したわけは、自分が亭主

から捨てられることを、恐れたのかも知れないと言うことです。

その後、彼女がどうなったのかは分かりませんが、笑顔を取り戻せていた

らいいですね。
by moimoi (2012-07-28 10:09) 

shiNji

人は美味しい物を口にすると自然と笑みが浮かぶといいます、なので、定次のもっと得意とする美味いモツ鍋を拵えてサリーちゃんに御馳走して上げるのがよろしいかと思います。(アーメン)
by shiNji (2012-07-28 10:57) 

moimoi

神示さん

あ~~~~~~~、それ考えてたのに~~~~~(血涙)
by moimoi (2012-07-28 11:03) 

洗濯屋

師匠、ランクアップ お目出度う御座います。

シスターに教会と なにか似合わないシチューエーションですな~
マリボ~タヨ♪♪

by 洗濯屋 (2012-07-28 12:30) 

moimoi

洗濯屋さん

>なにか似合わないシチューエーションですな

何をおっしゃいますか?

高貴で高潔、清楚で清潔、全て私にぴったりではありませんか?(笑)

な~んてね、自分でそう言って恥ずかしくなりましたわい!(爆)
by moimoi (2012-07-28 12:34) 

馬足痛風

7位だぜい!

皆の者!押すのじゃー!

ぽちっとなw


by 馬足痛風 (2012-07-28 12:54) 

moimoi

お馬ちゃん

いやあ、応援は嬉しいのだが、記事の内容にコメントを入れて貰いた

いような気が・・・(爆)
by moimoi (2012-07-28 15:41) 

Umetta

フィリピンに魅せられた日本人女性の
経験談とかはmoi 師匠たちは
よくご存知なんでしょうね

ヒル:プヤットの女将さんの4コマ漫画は
いつも楽しく 読んでますよ
by Umetta (2012-07-28 17:48) 

提督

ニダに取られるよりも、是非その孤児院へ寄附してくだされ!!
by 提督 (2012-07-28 17:58) 

moimoi

梅太さん

日本人女性と比国男性カップルは、数は少ないですが存在します。

現に、幸せに暮らしておられるご夫婦も居ますが、やはり、お金のことで

揉めている家庭も見掛けますね。

こればかりは、価値観の違いがあるので、仕方が無いようですが・・・(苦笑)
by moimoi (2012-07-29 08:28) 

moimoi

提督はん

昨夜は、ご苦労様でした。

>是非その孤児院へ寄附してくだされ

定次に、よう言い聞かせておきます!(爆)
by moimoi (2012-07-29 08:30) 

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