SSブログ

モツ鍋屋の息子がゆくフィリピン紀行 4 [小説]

mm-3.jpg

トニーの道路横断歩行術は、流石に現地人だけに巧みであった。
徳次を連れて、まるで泳ぐようにしながら、エドサ通りをスイスイと渡っていく。
まあ、慣れているから当たり前のことなのだが、たったこれだけのことでも、丸っきり感心ししてしまう
徳次であった。
彼にしてみれば、これで心強い味方が出来たのだから、こんな事でも喜ばしいのだ。

トニーは、徳次と一緒にヘリテイジホテルに入る時、わざと大仰にガードマンに手を上げて挨拶をした。
それを見たガードマンも、にこやかに笑って、『サー』と言う。
ゲストの徳次に、付いて来ている人間である。
愛想を良くするのは当然であろう。
しかし、徳次はこれを見て、完全にトニーがここのガードマンのボスだと信じてしまった。

部屋に入ると、早速徳次はトニーに事情を説明した。
何と、雲をつかむような話ではないか。
(こんな厄介なことに関わってはいられねえな、さっさとお宝を頂いて、とんずらするしかないぜ・・・)
そうトニーが考えてるとも知らない徳次は、ガイド料は一体いくら払えば良いのかと聞いてきた。
(キタ――(゚∀゚)――! さあ、ここで吹っかけないとね・・・)

『ああ、私たちは友達ね、大丈夫、1日たったの1万円でいいよ。』
『ええ、一万円・・・?』
『うん、友達だからね、たったの一万円。』
トニーは、友達という言葉と、たったという言葉を強調して言った。
(何だか物価と比べて高いようだが、これが友達価格なら仕方が無いのかなあ・・・)

徳次は、今度の滞在に20万円用意してきていた。
既に、1泊分のホテル代と食事代で1万円以上は消えていたのだが、残りのお金の中から、一万円
だけ抜き出して、トニーに渡そうとした時である。
『ノーノーノーノーノー、あなたのお父さん探すの沢山時間掛かるね、まあ1週間は掛かるでしょう。
だから、先に1週間分で7万円くださーい!』

流石にそれを聞いた徳次は、驚いてこう尋ねた。
『何で、先に全部払わないといけないのトニーさん?』
『ああ、だって私車借りるね、あなたのお父さん探すの、車がないと時間が掛かるでしょう。』
『ええっ、じゃあ車が込みで1日1万円?』
『当たり前、だから私言ったでしょう、私達友達ね、だから先に車を借りるのに7万円要るよ。』

徳次は、これで納得した。
これなら、先に7万円払っても損では無いかもしれない。
そう思って、7万円をトニーに渡してしまった。
これは、余りにも甘い信用の仕方であろう。
詐欺師のトニーは、ずっと徳次の表情を見ていたのだ。

1日1万円と言ったら、徳次の顔に高いと書いてあるのが見えた。
それで、トニーは、車付きだからという案を出したのだ。
こうすれば、1万円だけではなく7万円も貰えるではないか。
トニーは、我ながら上手く騙しおおせたと、ほくそ笑んだ。
元々、車をチャーターするどころか、ガイドすらする気もないのだ。

いつもなら小銭程度の収入だが、今回は7万円なのだから、彼にとっては、これで充分満足であろう。
後は、うまくとんずらするだけである。
『じゃあ徳次さん、私は車を借りたらここに戻ってくるね。』
そう言って、トニーは徳次の部屋を出ていってしまったのである。
徳次は、その後ろ姿を、笑顔で見送るしかなかった。

夕方になったが、トニーは一向に帰って来なかった。
徳次は、本当は他の安ホテルに移りたかったのであるが、トニーとの待ち合わせもあるので、ここを動
く訳にもいかない。
昼過ぎに、もう1泊分お金を払って、ここで延泊することにした徳次である。
帰ってくる筈もない、トニーを待ち続けて・・・


可哀想だが続く・・・


可哀想だと思った方は、ここを押しましょう!(爆)
      ↓
にほんブログ村 海外生活ブログ フィリピン情報へ
にほんブログ村
nice!(0)  コメント(23)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 23

旅の老人

お早うございます。

社会性がないと言えばそれまでですが、日本人って素直ですね・・・(ぷ
もっと早くネットで比国関連のブログがあれば勉強できたのに・・・(笑
by 旅の老人 (2012-07-20 07:24) 

moimoi

鴨野 長命さん

日本人は、国際社会慣れをしていないと言われますが、それはある意味

正解だとと思っています。

その閉鎖性は、ずっと以前の鎖国政策の弊害でしょうが、戦国時代までは

真造の祖先のように、世界を股にかけて果敢に進出していました。

現在の日本人の中にも、未だに日本人だけの価値観を大事にしたがる人

は多く存在します。

時間を守ろうとする価値感。

約束を守ろうとする価値感。

恩には恩で返そうとする価値感。

数えたらきりがありませんが、その価値観で物事を判断すると、日本国外

では、通用しなくなってしまいます。

世界には、時間や約束を守らない国は沢山ありますし、恩を恩とも感じない

民族も少なくないと思います。

まあ、私や徳次が騙されたのも、これでは無理ないですわ・・・(瀧涙)
by moimoi (2012-07-20 08:32) 

Leo

少々お疲れ気味なのでしょうか?
大きな展開が無くチョッと寂しい俺です!

思いっ切り期待してますよ!「鉄ジイが行く!」(笑
by Leo (2012-07-20 09:04) 

moimoi

Leoさん

大きな展開?

がはは、これもプロセスを踏まないと無理ですな。(笑)

>思いっ切り期待してますよ!「鉄ジイが行く!」

思い切り、タイトル違っているし・・・(血涙)
by moimoi (2012-07-20 09:23) 

名無しの龍

トニーは必ず帰ってくるのです、もっと大きな葱をもらうためにw
by 名無しの龍 (2012-07-20 09:27) 

萬久

いつまで徳次はトニーを待ち続けるのでしょうか?
高い勉強代になりそうですね(涙
by 萬久 (2012-07-20 09:29) 

moimoi

名無しの龍ちゃん

トニーは小心者です。

あれだけの金額をせしめれば、もう帰ってこないでしょう。

危ない橋は渡らない・・・

彼に成り代わって、ご説明申し上げました!(爆)
by moimoi (2012-07-20 09:59) 

moimoi

お萬殿

>高い勉強代になりそうですね(涙

好きで来た国ではないから、尚更でしょう。

こんな物語りを書いた、非人情な作者に憤りを感じます!(爆)
by moimoi (2012-07-20 10:03) 

きた

徳さんの
これからの
幸運に
ポチポチ
です
by きた (2012-07-20 10:49) 

moimoi

北アルプスさん

有難う御座います。

禿げ身になります!(感涙)
by moimoi (2012-07-20 10:53) 

洗濯屋

鴨葱ですな!!

一丁上がりっと・・(^^ゞ

でも日本人でしたらオヤジを探しに真剣に来ている日本人は鴨れないですね!!

女目当ての痛いオヤジは、鴨って貰いたいくらいですが・・(爆)

以前、しわくちゃジジイのくせに若造りしてロビンソンのアウトサイドのカフェで女を数人連れて(おばはんばかり)・・・・(笑)

「アコ、マヤーマン、ダウ」とでっかい声で、雄叫びを上げながら財布をガバっと開いて中身を見せた挙句

カフェのテーブルの上に札を並べていた、お馬鹿が居ました。・・(爆)
日本円は多分、10枚から20枚、残りは当時はP500ばかりでしたのでペソばかり・・・・(爆笑)

周りの人達がびっくらして見ていました。・・・・同じ日本人かと思うと恥ずかしかったす。・・・・・(T_T)
by 洗濯屋 (2012-07-20 12:01) 

洗濯屋

追信:

その爺さん、一緒に居たおばはんたちに煽てられて、その後も止まらず・・(爆)

周りの人は、クスクスと笑っている人も・・(^^ゞ

トニーに鴨られればいいのに!!♪♪

次に会ったら某ポリスに鴨だと紹介してあげたいくらいです。
by 洗濯屋 (2012-07-20 12:07) 

shiNji

作者の次の狙いは、夕食を摂りに行ったホテルレストランでヘリテージへ宿泊に来た父親と偶然に再開する。
これしかない。
その夜、親子連れ立って向かいの『江戸差コンプレックス』に足を運ぶことになる。
アタシも同郷の士としてカサマしたいものだ。(爆
by shiNji (2012-07-20 12:15) 

カカロット

やっぱり、取られてしまったのですね。
可哀想です。この先、父親は見つかるのでしょうか?
今でも、トニーさんは鴨を探しているのでしょうか?
同胞として日本人はやめて欲しいですけどね。
by カカロット (2012-07-20 13:13) 

moimoi

洗濯屋さん

>同じ日本人かと思うと恥ずかしかったす。

こういうじいさんは、本当に多いですわ・・・(涙)

でもまあ、トニーに鴨られるまでもなく、おばはん達に既に鴨られていること

でしょう。

まあ、気付いては居ないでしょうがねえ・・・
by moimoi (2012-07-20 13:15) 

moimoi

神示さん

アタシも同郷の士としてカサマしたいものだ。

神示さんなら、一人でも行くでしょう!(爆)
by moimoi (2012-07-20 13:19) 

moimoi

カカ様

>今でも、トニーさんは鴨を探しているのでしょうか?

生きている限り、続けると思いますよ。

何せ、鴨族が絶えないのですから・・・(激涙)
by moimoi (2012-07-20 13:20) 

たばちん

私も10年ほど前、エルミタのロビンソンで「私、あなたのホテルのガードマン」と言う男に会いました。

慣れた日本語、やさしい物腰、偶然私のホテルのガードマンだと言われて

一瞬で信用できないとわかりました。

予備知識などなかったのですが、「どこのホテル?」って聞いたら消えました(笑)

エラそうに言えませんが、この手には簡単には引っかからない私です。
きっと、彼らは、インチキラーメン屋の私と同類だからかもしれません(爆)
by たばちん (2012-07-20 20:31) 

喜多

私信ですが今、moimoiさん因縁のプエルトガレラにイいます(爆)
明日、マニラに帰るのですが、ボビーさんにmasaheオニガイ
したいのですが、電話番号が分りません(T_T)
by 喜多 (2012-07-21 00:22) 

提督

トニーは、お金を貰ったことだし、明日から場面がまた「モツ鍋屋のおやじがゆく…」に変わりそうな予感w
マニラに戻りますたpo
by 提督 (2012-07-21 01:34) 

moimoi

束珍さん

やはり撃退法は、何処のホテルのガードマンか聞くのが、一番良いのかも

知れませんね。

日本語を喋りながら近づいてくるフィリピン人は信用出来ないと言われます

が、こういう詐欺師がいるからその話も満更嘘ではありません。

私の場合、日本語で声を掛けられたら、ニーハオと答えていましたが・・(爆)
by moimoi (2012-07-21 03:10) 

moimoi

喜多さん

>因縁のプエルトガレラにイいます

そちらの雨は大丈夫ですか?

え~、彼の電話番号ですが、ここでは公開出来ません。

マラテの大虎で聞かれるか、こちらに連絡頂ければお教えしますので、

宜しくお願いします。

moimoi2580@gmail.com
by moimoi (2012-07-21 03:15) 

moimoi

提督はん

無事のご到着、ご苦労はんでした。

次次回から、又展開が変わる予定です。

一体、いつまで続くことやら・・・(T T)
by moimoi (2012-07-21 03:19) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。