モツ鍋屋の息子がゆくフィリピン紀行 3 [小説]
『ホテルのガードマン?』
徳次は、トニーに怪訝そうな顔で尋ねた。
『はい、私は、あなたの泊まっているホテルのガードマンね。』
『ヘリテイジホテルの?』
『そうそう、そうで~す、ヘリテージホテルので~す。』
それを聞くと、徳次の顔はパっと輝いた。
『日本語上手いですね~』
『はい、お客さん日本人多いですから~』
トニーは、これ以上は出来ないくらいの、作り笑顔でそう云う。
徳次は、地獄で仏にあったような気分になって来た。
『トニーさん、あなた時間はありませんか? 実はガイドを探しているんです。』
徳次は、唐突にそう切り出してみた。
『ええっ、ガイド?』
トニーは、さすがに驚いたようである。
向こうから引っ掛かってくれる日本人など、そう滅多に居るものではない。
このトニー氏。
知る人ぞ知る、高名な詐欺師である。
主に、ハリソンプラザやマラテのロビンソンを拠点としているが、稀にマカティやメガモールあたりにも、
足を伸ばすこともあった。
先ずその手口だが、『私はあなたのホテルのガードマンです』、と言って日本人に近づく。
巧みにホテルの名前を聞き出すと、次はつきまとい始める。
多くは射撃をしてみませんかとか言ってくるが、要は小遣い稼ぎで、その上前を跳ねるのが目的だ。
慣れてくると、家族の写真まで見せて安心させ、子供の誕生日だからと言ってはお金をせびる。
まあ、いつもは短絡的な犯行だけだが、今回の鴨は、少しお金のむしり甲斐がありそうだと、トニーは
密かにほくそ笑んだ。
この辺は、徳次がフィリピン初心者以前と、言われる所以であろう。
何の疑いも抱かずに、ころっと信じてしまったのだ。
トニーにとっても、これほどの大鴨は珍しかったかも知れない。
(しっかりと掴まなくては・・・)
千載一遇の時とばかりに、トニーは張り切ってこう答えた。
『はいはいはい、私で大丈夫、アコにガイド任せるOKね。』
徳次は最初、ヘリテイジ近くの日系旅行代理店である、『ジュネムトラベル』、に行く予定にしていた。
ガイドブックを見て、一番近そうな旅行代理店だったから、何気に後から行ってみようと思ったのだ。
トニーなどには会わず、最初からそこに行っていれば、こういう不幸は起らなかったであろう。
人間の運命とは、得てしてこういうものである。
『ああ、でもトニーさんは仕事は大丈夫?』
『大丈夫大丈夫、何なら休んでもいいね、トニーさんはガードマンのボスだから。』
自分のことをさん付けをし、ボスと呼ぶトニーであった。
じゃあ、ホテルの部屋に来て呉れないか、そこでゆっくり話がしたいから・・・』
『ああ、大丈夫問題ない、では直ぐに行きましょ。』
トニーがそう言ってくれたので、徳次は早速タクシーを拾おうとしたが、それはトニーが止めた。
『お~あなた、タクシーは勿体無いよ、ヘリテイジは近いだけ、歩いて行く大丈夫。』
徳次は、たったこれだけのことにも喜んだ。
自分のお金を心配してくれていると思ったのである。
それは、ある意味当たっていた。
トニーにしてみれば、これから巻き上げようとする大切な自分のお金である。
(あだやおろそかに、この男に使わせてしまってはいけない。)
などとは、トニーは思うはずがなかった。
単に、自分が始末家なので、人が使うお金でも、勿体無いと考えただけのことであろう。
ともあれ二人は、徒歩でヘリテイジホテルに戻ることにしたのである。
続く・・・
ここの押し忘れは、ペナルティですぞ!(爆)
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2012-07-19 04:16
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コメント(20)
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自分も去年ロビンソのなかで
ガードマンと言われ
さらに誕生日だと
言われました
300p 渡してしまいました
顔が似ていたのですが
やはり別人でした
by きた (2012-07-19 07:08)
話には聞いていても経験のない展開で面白くなります・・・(ぷ
可愛い女性でしたら信じたい気持ちも起きますが、如何せん男では・・・(苦笑
by 旅の老人 (2012-07-19 07:26)
北ウイングさん
トニーに遭遇ですか?
別人でしたら、真似し野郎が現れたことになります。
せいぜい、1000ペソくらい迄の小詐欺ですから、訴えられてもいないのか
も知れませんね。
味を占めた連中が、増えないことを祈るばかりです。
by moimoi (2012-07-19 07:36)
鴨野さん
>可愛い女性でしたら信じたい気持ちも起きますが
そう言えば、鴨野さんは女性専用の大鴨でしたね!(爆)
by moimoi (2012-07-19 07:41)
トニーではないですが私もロビンソンで女に声を掛けられたことがあります。
その時は人と待ち合わせしていたので一言二言会話しただけでしたが
今考えてみると睡眠薬強盗か、詐欺師だったかもしれませんね
引っかからなくて良かったです(笑
by 萬久 (2012-07-19 09:07)
90年代は、マカティでも色褪せした写真を見せて「子供がぁ~」と、金を集るのが多かったですねぇ!
彼らはボス・トニーの子分だったのでしょうねぇ!
by Leo (2012-07-19 09:09)
萬久さん
私もロビンソンでは、物売り以外に声をよく掛けられますよ。
全部タガログで応答すると、何もなかったように去って行きますが・・・(爆)
by moimoi (2012-07-19 09:23)
Leoさん
トニーは、一族を使って詐欺を働いているかもですな!?(爆)
by moimoi (2012-07-19 09:24)
お早うございます。
私も以前、よく似た手口のガードマンと会いました。
当時はヘリテージホテルが出来てなく、ダイヤモンドホテルに宿泊していたのですが、
買い物に行こうとショッピングモールまで歩いて行こうとしたら
今日は、そのモールは休みなので別のモールを案内すると言われたけど
私はダイヤモンドホテルのガードマンです、本日は休みなので
案内をしますし、従業員の身分証明書も持っている
と日本語で話しかけられましたが、、、
私は中国人ですと、タガログ語で話しても信用せず
ずっとモールまで付いてきて、初めて本当にモールが休みだと分かり
少し、信用してしまいました、
お決まり、射撃や買い物に案内され、
ここの売り子は誰でも即即出来る、皆お金に困っている、私が仲介しようと言われ
そこで完全な詐欺師と気付きましたが、私が見たなかで一番綺麗な売り子を連れてきてくれてと言ったら、、、、店をはねたら連れてくるということで別れましたが、、、
夜になってホテルのロビーに他の売り子を連れてきたと言われたので
無視しました
by おっちゃん (2012-07-19 09:40)
おっちゃんさん
多分、トニー君だと思いますが、女衒までやっているとは思いませんでした。(笑)
兎に角、口が減ること無く、のべつ話しかけてきます。
金になると思ったら、とことん付き纏うようですが、まるで小判鮫ですな。
私はこの16年間で、4回ほど声を掛けられました。
最初の頃は、何も知らずに口を聞いてしまいましたが、次の2回は無視しました。
最後に見た去年は、一喝して追い払いましたが、本当に情けなか男ですわ!
by moimoi (2012-07-19 10:06)
さすが地元、臨場感あふれる描写恐れ入りますw
by 名無しの龍 (2012-07-19 10:40)
名無しの龍ちゃん
ぼちぼち、実名も出てきますからなあ・・・(笑)
でも、トニー以外は許可済みでっせー
by moimoi (2012-07-19 10:47)
(^.^)オホホホ
実名が出てきて盛り上がって来ましたな!!
日本人同士でも、観光で来た人を初めての客で良客だと紹介して安く飲む、コミッションを貰うなども当たり前ですから‥・・(笑)
散々トニーをカマッたのでトニーに嫌われています。・・・(^^ゞ
私を見かけるとトニーは逃げていってしまいます。・・・冷たいなマン!!
しつこいハポンだと思っているのでしょう・・・・(笑)
彼の少額詐欺の邪魔もしてないのですが
かえって騙される日本人に勉強になると思っております。
危険な目に遭うよりトニーあたりで警戒心が身につけば良いかと
会う度に「how condition's your work?」と聞いておりました。・・(爆)
by 洗濯屋 (2012-07-19 12:04)
アタシもトニーさんに一度会ってみたいですは、詐欺師を嵌めるのも一興ですね、其のときは皆様のご協力をオニガイスマス。
しかし、怨まれて刺されたりヒットされるかもですね。
by shiNji (2012-07-19 12:25)
トニーさんが、大活躍してくれそうですね?(*^^*)
ナニ(本名 アルナニ)は、登場しませんかね?
ジュンという奴を、時にはイミグレの職員、ある時はLTOのオフィサー…税関のインスペクター…として連れて、二人組または三人で日本人から金を巻き上げてるのもおりま…
by 提督 (2012-07-19 18:05)
洗濯屋さん
>危険な目に遭うよりトニーあたりで警戒心が身につけば良いかと
なるほど、洗濯屋さんらしい奥の深いお言葉です。
まあ、被害に遭わないことに越したことはないのですが、どうしても自分は安全
だと意地を張る方がいるので困ります。
窮鼠猫を噛むとの例えもあります。
トニーをからかうときは、10m離れて行いましょう!(爆)
by moimoi (2012-07-19 19:05)
神示さん
>しかし、怨まれて刺されたりヒットされるかもですね。
触らぬ神に祟りなしです。
悪しき者には、必ず後で天罰が待っていますよ。(笑)
by moimoi (2012-07-19 19:07)
提督はん
>ナニ(本名 アルナニ)は、登場しませんかね?
なるほど、そういう悪もいるのですな?
日本人もなめられたものですなあ・・・(涙)
さて、ここで問題です。
一体徳次は、幾らトニーに持っていかれるのでしょうか?(爆)
by moimoi (2012-07-19 19:10)
私は、フィリピーノは友達以外信用してません。フィリピーナは別です。このトニーさんは実在の人物のようですが、徳次さんが可哀想だなぁ。騙す、騙されるは、特に嫌いなのです。でも、ババエには昔、散々騙されましたけど・・・・・(爆)
by カカロット (2012-07-19 20:49)
カカ様
フィリピン人の男と女、どっちが良く人を騙すでしょうか?
これは、付き合った数にも比例しますし、行く場所によって変わるでしょう。
KTVなどの飲み屋は、嘘つきのバトルが繰り広げられる戦場です。(笑)
一方、観光鴨族には、詐欺師やセットアッパーの男どもが群がります。
でもね、一般の人達は、そんな嘘つきではありませんよ。
言ったことが守れない人は、沢山居ますがね!(爆)
by moimoi (2012-07-20 05:48)