モツ鍋屋の親子がいくフィリピン紀行 4 [小説]
病院には到着したものの、診療時間や面会時間はとっくに終わっているらしく、ドアは閉まっている。
仕方がないので、救急医療室から回ったが、やっとそこで内山さんに巡り会うことが出来た。
彼女は、まにら新聞のHさんから連絡を受けていたので、家に帰らずに待機してくれていたのだ。
この病院の看護師長でもある内山さんは、面会時間外にも拘らず、彼女の権限で、定次が入院して
いる病室へ、徳次を案内してくれることになったのである。
内山さんの案内で病室へ入った途端、徳次は、はっとして目が釘付けとなった。
そこに、神々(こうごう)しいものを見たからだ。
定次が横になっているベッドの横で、ひざまずきながら、祈りを捧げている女性が居る。
シスター山野であった。
彼女は、定次がここに運ばれてきてからというものは、殆ど彼の看病に付きっきりであったのだ。
いかに聖職者とはいえ、これは少し、定次に対して献身的に過ぎるかもしれない。
が、シスターには、定次への、彼女なりの思い入れがあったのであろう。
あの、笑顔を決して見せなかったサリーに、笑顔を取り戻させてくれたのも定次であったし、経営難に
苦しむ教会のために、モツ鍋屋を開こうとまで言って呉れていたのも彼であった。
神に仕える身のシスターにとって、定次は、天が差し向けさせた使いのように見えたのかも知れない。
しかしこれは、彼女の錯覚と言うものであろう。
シスターが、ニダやアイラの事を知ったら、腰を抜かすかも知れない。
徳次は、シスターに挨拶すると、定次のベッドの横に腰を下ろした。
(う~ん、何という綺麗な人やろうか・・・)
徳次は不覚にも、定次よりも彼女の方に見とれていた。
流石に、徳次は定次の息子ではある。
血は、争えないものなのであろうか?
36歳の女盛りということもあるが、その彼女が修道女なのである。
徳次には、何とも表現し難い、不思議な魅力というか、魔力を持った女性に見えて仕方がなかった。
『エホ、エホ、エホ・・・』
内山さんが、それと察したのか、少し注意を促す意味で咳をした。
徳次は、それでようやく我に返ったのか、定次の方を見たが、彼の父親はピクリとも動きそうにない。
『もう、これで3日目なのよ・・・』
内山さんがそう言ったが、と言うことは、定次は3日前に刃物で刺されて、今日まで、意識不明のまま
ということになる。
『親父は助かるのでしょうか?』
徳次は、そう内山さんに聞いてみた。
『う~ん、ドクターの話だと、今の確率は五分五分ね。』
彼女は看護師長だけに、はっきりと物を言う。
徳次は、驚きながらも、こう問い返した。
『す、すると、半分の確率で、死んじゃうってことですか?』
『う、うん、まあそういうことになるわねえ・・・』
少し語尾を濁した内山さんだが、今度は思い切ったようにこう言った。
『あと2日、2日が山なのよ、2日経っても意識が戻らないようだったら、もう危ないの・・・』
(後、2日かあ・・・)
流石に、徳次は愕然とした。
(このまま、親父が死んだらどうしよう?)
遺体はどうしたらいいのか?、葬式は・・・?
そんな事まで、考えてしまう徳次である。
これは、無理もなかろう。
始めてきた異国で、親父が死に掛けているのである。
誰だって、動揺するに違いない。
先行きが見えないだけに、不安は募るばかりである。
そういう徳次の心中を察したのか、内山さんが徳次とシスターにこう言った。
『今日はもう教会にお帰りなさい、私が朝まで付き添いするわ、ゆっくり寝ないと身体が持たないわよ』
続く・・・
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ここを押してくれないと、私もゆっくりと寝られましぇん!(爆)
2012-08-28 06:42
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コメント(20)
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定次さんの運命は五分五分ですか、比国に上陸して三週間ほど滞在しているのに一度も即即をいたさないで逝ってしまうのはあまりにも可哀想です、作者の温情で定次さんをこの世に留めさせ本懐を遂げさせてあげて下されや。(ブォ
by shiNji (2012-08-28 08:50)
神示さん
即即是空!(喝っ)
煩悩退散、煩悩退散!
ええ~いいいいいいいいい!
これで良い?(爆)
by moimoi (2012-08-28 09:05)
>『エホ、エホ、エホ・・・』
変わった咳ですね、初めて聞きました。
何かの鳴き声かと思いましたよ(笑
>(う~ん、何という綺麗な人やろうか・・・)
三角関係の始まり?
by 萬久 (2012-08-28 09:07)
萬久さん
高校の時、こういう咳をする教師が居ました。
少し、精神異常をきたしていましたが、今でもお元気なのかどうか・・・?(笑)
>三角関係の始まり?
大いに危ないですな!(爆)
by moimoi (2012-08-28 09:14)
本日は病室での数時間の遣り取りで終りなんですね。
五分五分の命でどちらに転ぶのかは筆者以外は知りようもございませんが、徳次の今晩の宿は教会なのですね・・・
ところで左の登場人物の蘭の 真造:物語の主人公で日比の混血児。 が気になってしまいました。
どこからどこまでが主人公の役目かは知り得ませんが、この先、長編として当分物語を楽しめそうですね・・・(微笑
by 旅の老人 (2012-08-28 09:33)
鴨野さん
まあ、その内に纏まるのでしょうね。(笑)
思えば、枝葉がどんどん広がりすぎました。
取り敢えず、徳次と定次が一緒になりましたので、少し気が楽ですわ。(爆)
by moimoi (2012-08-28 09:54)
やっと会えた親子が、会話も出来ずに、生死の間をさまよっている。
そんな中、シスター山野の存在。
36歳の女盛り、不思議な魅力、魔力をもつ女の存在がなんとも気に掛かる。
読者が続編を待ち望む部分ですね。
by 定次の運命やいかに (2012-08-28 10:16)
定次の運命やいかにさん
>読者が続編を待ち望む部分ですね。
いえいえ、期待はずれかも知れませんよ。(笑)
何せ、構想を以って書いておりません。
100%成り行きですからあ!(爆)
by moimoi (2012-08-28 11:07)
小説っていいですね
著者の思いのままに自由に殺したり、惚れさせたり出来ます。
まるで、ずっと勝ち続ける王様ゲームのようですね。
次はアイラが徳次に惚れたりして(笑)
by たばちん (2012-08-28 11:12)
束珍さん
>まるで、ずっと勝ち続ける王様ゲームのようですね。
今気付きました。(笑)
そう言えばそうですな!
>次はアイラが徳次に惚れたりして(笑)
束珍さんも、何かリクエストありますか?(爆)
by moimoi (2012-08-28 11:18)
親子の再開を果たしたのに、定次が逝っちゃいそうですね。
どうなるんでしょうね、徳次のシスターをみる目が違うようなきがする。
徳次とシスターの今後もどうなるんでしょうね・・・・・ねぇ師匠(爆)
by カカロット (2012-08-28 11:31)
カカ様
>定次が逝っちゃいそうですね。
非情な作者ですからなあ~(笑)
>徳次のシスターをみる目が違うようなきがする。
逝っちゃってますかね?(爆)
by moimoi (2012-08-28 11:49)
徳次とシスターが出来ちゃって
定次もアイラとで内山さんと吉田さん・・??
ええっい、一気に全員で乱交即々と逝きましょう・・・(爆)
30半ばのシスターですか・・・・ええなぁ~♪♪♪
あっ妄想がぁ~♪♪♪
by 洗濯屋 (2012-08-28 12:20)
対面できましたが
この先 心配です
シスター 争奪戦ですかね
ゆっくり休んでください
by きた (2012-08-28 12:23)
洗濯屋さん
脳内彼女でしょうか?
ここは、お馬さんのブログではありませんぞ!(笑)
ああ、おいらも妄想してみたい!(爆)
by moimoi (2012-08-28 13:06)
北杜夫さん
心配は要りません。
定次や徳次にシスターは渡しませんわ。
だって、私の永遠の脳内彼女ですから!(爆)
by moimoi (2012-08-28 13:09)
定次さんの容体は五分五分ですか…
病院で五分五分と言われると、意味は半分半分なんですが、今までの経験で駄目な方に感じるおいらです。
師匠は、この五分五分という言葉は、どちらに感じますか?
物語は置いといて…
by 提督 (2012-08-28 21:26)
時差ボケで辛い・・・
by 謎のOFW (2012-08-28 23:05)
提督はん
>この五分五分という言葉は、どちらに感じますか?
以前(平成元年)、親父が死にかけた時、病院でこう言われました。
が、今でも生きています。
反対に、私の友達は、必ず助かりますよと医者に言われたそうですが、
死んだので、家族が医者を訴えました。
こう考えると、医者の逃げ口上なのかもですなあ・・・
by moimoi (2012-08-29 06:13)
砂漠はん
漫才で乗り切りまひょう!
ボケとツッコミ!(爆)
by moimoi (2012-08-29 06:17)