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モツ鍋屋の息子がゆくフィリピン紀行 5 [小説]

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徳次は、眠れぬ夜を過ごしてしまった。
当たり前の話で、朝になっても、トニーは帰ってこない。
徳次は、この時点になっても、トニーが自分を騙したとは思ってもいなかった。
何せ、トニーはこのホテルのガードマンなのだと、頭から信じ込んでいた徳次である。
(もしかしたら、車が直ぐに見つからなかったのかなあ・・・)

そう考えていた徳次だが、時間が経つにすれ、連絡一つも寄越さないのは妙だと感じ始めていた。
(いっそのこと、他のガードマンにでも聞いて見たいが・・・)
そうは思ったが、何せ彼は言葉が出来ない。
出来なければ、何も聞き出せないであろう。
その時、彼はあることを閃いた。

(そうたい、あの日本人マネージャーなら聞いて貰えるかもしらん・・・)
急いで部屋を出て、フロントまで降りると、日本人マネージャーを探しまくる徳次である。
しかし、その辺を見回してみたが、日本人マネージャーの姿は見えない。
その時、徳次が誰かを探す素振りに気付いたフロントの女の子が、彼に声を掛けた。
『もしもし、どうかされましたか?』

彼は、そう聞かれたので、『ジャパニーズマネージャー プリーズ』、と何とかそこまでは言えた。
が、その後がいけない。
フロントの女の子が、『今日は日本人マネージャーは休みです』、と言うのが全く理解できず、何度も
何度も、女の子に聞き返えすだけの徳次である。
徳次にとって、今日ほど英語の勉強をして置かなかったことを、後悔した日は無かったであろう。

会話が成立しないまま、徳次は失意のまま途方に暮れた。
このまま行けば、チェックアウトの時間である。
延泊するにも、またお金が飛んでいってしまうだけのことだ。
(ホテルを替わるにしても、その後にトニーが帰ってきたらどうしよう?)
そう考えただけで、徳次の心は複雑に揺れていたのである。

その時である。
徳次は、はっと一つのことを思い出した。
(そう言えば、あの日系の旅行代理店があるではないか?)
トニーに出会うまでは、元々そこに行く予定であったのだ。
善は急げとばかりに、徳次はそこに急行することにした。

確かそこは、ガイドブックの地図に拠ると、このヘリテイジの直ぐ近くだったような気がする。
トニーが帰ってくるのが気掛かりであったが、今の徳次に選択肢は他にない。
さて、徳次が目指したその日系旅行代理店のジュネムトラベルは、ガイドブックにあったように、ヘリ
テイジホテルからは、歩いて2分くらいの距離にある。
旅行代理店としては、既に30年を超す実績のある老舗だが、ゆえに、日本人の顧客も大変な数だ。

そこのオーナーであるFさんという女性は、彼女自体も40年以上の在比歴を持ち、それだけに、大変
な知識と経験の持ち主であった。
少しぶっきらぼうな口調で、思ったことはズケズケとはっきり言うが、実際は、心の優しい思いやりに
溢れた、素晴らしい女性である。
これまでに、彼女に助けられた日本人は、数えたらキリがないであろう。

著者なども、その助けられた代表例だが、彼女のことを語ると、とても一晩や二晩くらいでは語り尽く
せそうにない程の、お世話になっている。
彼女は時に、食い詰めた困窮邦人にでさえ、面倒をみることが多かった。
放っておくと碌な事をしないからと、私財をなげうって、炊き出しをやって食べさせたり、親兄弟や親戚
一同から見放された人間に、帰国のお金を捻出してやったりと、Fさんの所業は最早仏に近い。

しかし、商売抜きで面倒を見てくれるのは良いが、そういう経営者だけに、お金にならないことが多く、
長く勤めている従業員からは、困り者扱いをされている彼女ではあるが・・・
徳次がこれから運命の出会いをするFさんとは、おおよそ、そのような豪傑女性だったのである。
『すみません・・・』
徳次は、ジュネムトラベルの事務所の中に入ると、そう小さな声で言いながら辺りを見回した。

日系の旅行代理店だから、日本人の姿を探そうとしていたのだ。
『ああ、いらっしゃい。』
Fさんは、徳次の声を聞いて、椅子から立ち上がりながらそう言う。
そして、徳次に近づくと、カウンターの席に座るよう勧め、自分もその目の前に座ってこう言った。
『どうされましたか?』


さ~て続く・・・


次回から新展開、押して待つべし!(爆)
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コメント 14

Leo

俺も初渡比の時は旅行社のガイドさんが頼り,命綱でしたぁ・・・
徳次の心境が痛いほど判ります!

あぁ~これは小説でしたねぇ!
現実,ノン・フィクションと勘違いしてしまいました・・・(笑
by Leo (2012-07-22 10:45) 

shiNji

アタシの初度比は今から考えると徳次よりも酷かっような。(激冷汗
by shiNji (2012-07-22 10:57) 

moimoi

Leoさん

>現実,ノン・フィクションと勘違いしてしまいました

まあ、現実に存在する人が出て来ていますからねえ・・(笑)

ジュネムのFさんも、出演を快く許してくれました。

でも、トニーは許さないでしょうがねえ・・・(爆)
by moimoi (2012-07-22 11:08) 

moimoi

神示さん

>初度比は今から考えると徳次よりも酷かっような

あれれ、聞き捨てなりませんな。(笑)

多分、人に言えない物語でもあるのでしょうか?

あったら教えて下さいね。

次の物語、『神示がゆく』で発表しますから・・・(爆)
by moimoi (2012-07-22 11:11) 

旅の老人

日系の旅行代理店があるのですから良い時代ですね・・・(ぷ
by 旅の老人 (2012-07-22 11:17) 

洗濯屋

初渡比の事を思い出します。

その頃はタガログ語の資料(本など)も殆ど無く
日本語のわかる人間も居らずカタコト英語で苦労して仕事で半年間滞在していました。

当時と比べるとペソのレートは安くなり

夜になると、暗い通りが多く殆ど人が出ていなかったマニラの街の治安も多少良くなりハイウェイやLRTなどのインフラも整い

渡比する都度、フィリピン人の給料が上がっていくのに日本が置いて行かれるのではないかと!!

他のASEAN諸国なみに成長していたら高くて遊べない国になっていたかもと思いますね
by 洗濯屋 (2012-07-22 11:23) 

moimoi

鴨野さん

この旅行代理店は、長く続いています。

それだけの実績がありますが、最近では大使館もここを当てにしている

ようですよ。

困窮邦人の相談窓口として・・・(涙)
by moimoi (2012-07-22 11:53) 

moimoi

洗濯屋さん

大古の昔から、来られていたのですな!(笑)

>高くて遊べない国になっていたかもと思います

そうなっていたら、ここに暮らそうという人も少なかったでしょうし、困窮邦人

もかなり減るでしょうね。

ということは、私も居ないかも・・・(爆)
by moimoi (2012-07-22 11:58) 

きた

徳さんも
良い方に
逢えて
良かった
この先
楽しみですね
by きた (2012-07-22 12:34) 

カカロット

この日系旅行代理店は、ブエンディアにある代理店のことでしょうか?
ここでしたら、私も今も頼んでおります。つぎは再開のパターンでしょうか?まだ早いかな、明日も読みますよ(爆)
by カカロット (2012-07-22 13:10) 

moimoi

北アルプスさん

はい、これでやっと私もほっとしました。(笑)

少し構想を新たにしなくてはなりません。

固まり次第、直ぐに再開します。


by moimoi (2012-07-22 16:40) 

moimoi

カカ様

あの、ね◯とさんのことですか?

そうであれば違います。(笑)

あそこの女性も女傑ですな。

良く、比較される方ですよ!
by moimoi (2012-07-22 16:49) 

萬久

徳次はこのまま目的を達することなく資金が底を尽き
失意のまま帰国するのではないでしょうか?

あまりの頼りなさにそう思えてきました。
by 萬久 (2012-07-23 01:48) 

moimoi

お萬殿

>あまりの頼りなさにそう思えてきました。

まあ、好きで来た訳でない国でこういう目に遭ったのですから、

多少は割り引いて考えて上げないといけもはん。(笑)

力強い味方を得たのですから、これからが勝負でしょう。

再UPするまで、しばしお待ちあれ・・・
by moimoi (2012-07-23 06:17) 

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